ー 子どもの連れ去り ー
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ここでいう子どもの連れ去りとは、妻、時に夫が子どもを連れて家出をすることである。保護者であっても、未成年者を力づくで、あるいは脅したり、騙したり、誘惑して連れ去ると未成年者拐取罪になる(刑法224条)。人さらいである。 ただし親告罪であるから、夫なり妻なりが告訴しない限り罪に問われることはない。
子どもを連れて出るのは妻であるケースが多いと聞く。家を出るからには新しい住まいや子供の転校先、自分の就職先も決めた上でのことだろうが、考えるべきことはこれに止まらない。
特に、学童期の過ごし方は「世の中をどのように渡っていくかという生き方を身につける時期」(「子どものまま中年化する若者たち」鍋田 恭孝 幻冬新書)である。この最も大事な時期に父親から引き離され、毎日父親の悪口ばかり聞かされる子どもはどんな人間になるか。ランドセルを背負った子に「お母さんにも何か良くない所があったんだろう」などと分別臭い考えを期待するのは無理である。
よく「実家に帰らせてもらいます!」というセリフを見聞する。まるで子どもである。一度家庭を持った大人が夫とトラブルになった途端、臆面もなく実家に帰る。
日頃から、喧嘩をしたら親鳥の羽の下に逃げ込めばいいんだと考えているのだろうか。 昔、厳格な親は叱り飛ばして追い返した。今どきの親はどうだか知らない。
なるほど実家に帰れば、とりあえず食うには困らない。実家の親に子供の面倒をみてもらいながら、仕事も探せる。
夫にしても行き先がわかっているからひとまず安心である。しかし、安心なのはひとまずである。生き方を身につける大事な時期、いつまでも安心してはいられない。
この点、キャリアウーマン、つまり世の中で通用する知識、技能を持ち、第一線で働いている女は強い。専業主婦にくらべると経済的な苦労ははるかに少ないだろうから実家に帰る必要はない。
経済的な余裕は夫の悪口を並べ立てることが子どもの将来にプラスにはならないと気付く余裕を生む。悪口をいう暇があったら、母親が日々仕事で得る知識や体験を教えてやればいいのであ。
ところが、日本では結婚したら会社を辞める風潮がまだ残っているように見える。当地でも平日、ベビーカーに幼い子供を乗せてブラブラと公園にやってくる母親が多い。「実家に帰らせてもらいます!」はこういう土壌から生まれる。
本来の親権のあり様は夫婦共に働き、子どもにかかる費用は稼ぎに応じて双方出し合うものではないのか。食事の支度など早く帰宅した方がやればいいのである。子どもはそういう父や母を見て育つ。