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シロガネの草子

美智子様の独創的なお着物

昭和45年

昭和41年
空の色を映したような淡い水色のなかに咲く水芭蕉。その花な精のように気品に満ちた夏の装い。《増刊女性セブン》


昭和41年
金銀の雲取りに赤い芝草を雪輪にかたどった雪持ちの露芝模様を染めた訪問着。赤地に大きな金の桐文様の帯。(皇室のきものより)

お若い頃の上皇后様のお着物、最近では銀座のママみたいな着物とも言われています・・・・シロガネは華やかでよい着物だと思っておりますが。歳の暮れですので、華やかな感じで締め括りたいと思います。

実際、若き日の上皇后様のお着物の製作に携わった方々の証言を一部ですが紹介します。

昭和44年の別冊《女性自身~ご成婚10年記念》

『美智子妃殿下のきもの』 小泉清子

~野の花の清楚な美しさを着こなせるお方~

美智子妃殿下の召される和服を、製作して納めるようになって、もう6年になります。点数にして30点にもなりましょうか。

きっかけは、展示会に出品してあった作品が、東宮御所に届けられ、妃殿下のお目にとまり、お買いあげいただいて、それ以来、ご用命くださるようになったのです。
この展示会には、秩父宮妃殿下や高松宮妃殿下もお見えになり、ご案内申し上げております。

最初は、東宮御所にお伺いして、女官さんから、それまで妃殿下のお気に入りだったというきものを、見せていただきました。

その時、私は心の中で、思わずうなりました。じつに妃殿下のお好みは上品で、アカ抜けていて、個性的なのです。この道30数年、ひたすらきものの柄、模様に生きてきた私が、

「これは油断ならない」

そう思わずにはいられなかったのですから。

きものを選ぶのに流行ばかり気にかける人がいます。年より若く見せようという目的で選ぶ人。少しでも豪華な感じで、値段より高く見えるものを選ぶ人。これは私たち玄人から見ると、下の下のお客様。

もっとも、趣味の悪いお客様ほど、扱いやすいわけで、こちらは苦労なく商売をさせて頂けますが。

美智子妃殿下は、御所車とか、扇とか、きらびやかなものではなく、花がお好きです。それも、松、竹、梅、ぼたんなど、ありふれた花模様ではなく、野の花がお好きなのです。比較的にポピュラーなものでは、蘭と菊でしょうか。

最初に拝見させていただいたきものの中にも、菊柄のものが一点あり、これは、かなり傷んでおりました。

「妃殿下も、やはりご自分のお気にいりのきものは、痛むまで召されるのか・・・・」

そう思い、このくらい、お召しいただくものを私もお作り申したいーーと、そう考えたのを覚えております。

私は、私なりに考え、10点ほどのデザインをお届けしました。普通、半紙ほどの紙に描くのですが、このときは、その倍ほどの大きさの紙に、きものを衣こうにかけた形で細部まで描いたものでした。

うち2点がお気に召したとみえ、ご注文をうけ、他の図柄ものちの参考にと、お納めくださいました。

こうして、この道一筋に歩んできた私が、最大の努力で仕事をさせていただく幸福を、あらためて身に感じる日が始まったのでした。

妃殿下の、自然の花や野の草に対する造詣の深さには、いつも頭をさげないわけにはいきません。

これまで、ご注文をいただいた、れんぎょう、水芭蕉、八つ橋、あせび、くちなし、つた、野ぶどう、しだ、れんげ、つつじ、泰山木、くず、こうほね、ひつじ草など、こう並べただけでも、お分かりいただけるでしょう。

私はご注文のたび、勉強させていただきました。きものの“定石の花”でないだけに苦労も多い。しかしやりがいがあるわけです。

私も自然が好きで、野山を四季を通じて歩きます。だがそれまで気にも止めなかった野辺の花や、水辺の花が、これほど美しかったかと、再認識したのは妃殿下のおかげ。まったく冷や汗ものです。

最初はそんな私へのお心づかいで、女官さんが花の写真や絵を見せてくださいました。

この頃は、私も植物図鑑などで勉強し、花の名だけでご注文をさせていただければ、それで2~3枚のデザインをお持ち出来るようになりましたけど・・・・。

皇室の皆さま方はどなたも同じですが、妃殿下も日常はとても質素で、決して“あそび着”をお作りになることはありません。すべてご多忙な公の席に必要なお品ばかり。

2年前の南米親善ご旅行のときなど在外邦人の多いブラジルなどで「美智子さまのきもの姿を、ぜひ拝見したい」という一世、二世の希望が強かったとか聞きました。

それで6~7点、まとめてお納めしたものでした。

ご注文のいただき方も、まるでむだのないご配慮で、感服せざるをえません。

帯を示され「これに合わせたデザインを」とか、綸子の生地を示されて「これにはどんなデザインが良いか」など、課題をいただきます。

なるべく、お手持ちの品を生かされる。そして、着物のTPOといいますか、いつどこで、どんなものを召されるかに、心にくいほどのセンスをお見せになります。

“墨絵の桜”というご注文のとき、そのぼかしが難しく、お約束の期限より、少し遅れたことがありました。

「ぜひ納期に納めるように」

と、ご催促を受け、恐縮したのを記憶しております。

お納めして、まもなく新聞を見て、「ああ、これでお急ぎだったのか」と気付きました。そこには、アメリカから“さくらの女王”が来日して、妃殿下にお目にかかったという記事と、あの墨絵の桜の和服を召された妃殿下のお写真が、のっていたのです。

「軽い場所で着るものですから、“ねこ柳”をデザインして」

と、ご依頼を受けたときも、そのセンスのよさに舌を巻いた次第です。

私は、妃殿下がきものを召される心に精通しておいでなのだと、いつも感服し、心嬉しく思っています。

“和服は着こなしが生命”とよくいいます。最近の若い女性は、それがヘタで、銀座など歩いていると、

「ああ、あんな趣味のよいきものを、惜しいな・・・・」

つい立ち止まって見送ることも、しばしばです。

その点も美智子妃殿下の着こなしは抜群。妃殿下ほど、スッキリと着付けなさる方は、あまり見かけません。

きものは、豪華な柄や色彩や、帯などで競うものではない。それが全体に溶け込み合い、しっくりした雰囲気をかもしだすこそが理想です。

妃殿下のお姿を拝見しますと、柄や色彩が目に射ることなく、その着こなしのすべてが、すっきりと清楚な感じで、自然に人の心を惹き付けています。

人に威圧を与えたり、自分だけを強調するいやらしさが少しもない。

私は妃殿下の和服姿のお写真を拝見するたび、ここに着物の心があると、そう思わずにいられないのです。


淡い金茶のうえに線描きで菊を現したお着物。《増刊女性セブン》


薄藍の濃淡に、野ばらをあしらったお着物。パールの帯留めが気品を。《増刊女性セブン》

昭和41年
紅葉をそのままに典雅な色どりで描いたお着物。帯締めに盛り色をとどめたお心づかいが。《増刊女性セブン》

昭和40年
古代紫の薄いぼかしに白木蓮を描き上げた一越。萌黄色の帯締めで、一段と格調が。《増刊女性セブン》

昭和39年
印象的な花柄を品良く染め上げたお着物。渋さのなかにも華やかさを漂わせて。《増刊女性セブン》

昭和44年の増刊《女性セブン》

和服の図柄は美智子さまの独創~美に対するセンスに敬服~ 北出工芸・社長 北出与三郎氏

北出さんが皇室にお出入り始めたのは比較的新しく昭和33年から。直接のきっかけといったものはなく、牧野女官長を通じて皇后さまのご用命を受けたまるようになったとのことである。しかし今では、

「美智子妃殿下のご用命が大部分で、年に平均して30点くらいお納めします。ただ、お値段のほうはちょっと公表するわけには・・・・」

と北出さん。だが、1点1点が、美智子妃殿下のご着想を生かして下絵を書き、染め抜いての特製オリジナルだけに、その値うちは世界じゅうの目にうつっても恥ずかしくない品であることは間近いない。

本店は京都・新町通りにあり、店内にいかに控えめに“宮内庁の御用も承っております”と書かれている。

この和服を通じて、北出社長は、“美智子妃殿下のセンスの素晴らしさは、専門家の域を越えていらっしゃる”と絶賛する。最初のご注文のとき、

「前田青邨先生の朱壺の梅を着物につくってみたい」

と、おっしゃった美智子妃殿下。

北出さんは、正直いって、

「これから御用をうけたまるのは感激ですが、はたしてご満足していただけるかどうかの自信がなかった」

そうである。

それほど、美智子妃殿下の独創的な着想とセンスは、素晴らしいのである。


紅白梅を繊細に描いた訪問着。大きな揚羽蝶の帯。(皇室のきものより)

「でも苦心作がお気に召していただき、私にとっても、最高の記念作となりました」

図柄は1点ごとに千差万別。桂離宮の“心の敷石”とか、御殿に咲く“カラスウリ”またある時は、黄緑の地に白薔薇を主題とし、その花も“中開き”と“ツボミ”とご指定になるといったように、そのほとんどが、美智子妃殿下が自ら創作されるのである。

「ですから私がデザインするといっても、妃殿下の作品を忠実に再現するだけで、それだけでご用をうけたまわっているのは、本当に申し訳ないようです」

と、北出社長は恐縮している。

妃殿下がことにお好きな花はエリカ、ニモザ、アカシヤ、ランなど。御所なお庭に咲くパンジー、ポインセチアなどもご自分で切って、お部屋にお飾りになられる。

この花にまつわる話題で、いかにも妃殿下らしいセンスの良さを物語るものとして、テーブルに1輪の花びらが落ちていたのを、女官があわてて片付けようとしたとき、

「そのままにしておいて下さいません。落ちた花も自然で美しいわ」

とおっしゃったエピソードも残されている。

このように鋭い“美”に対するセンスに接するたびに、北出社長は、

「私のほうが一生懸命、妃殿下のセンスに置いていかれないように、勉強させていただいているわけですよ」

という実感を味わっているのである。


大輪の乱菊を流動感のあるタッチで豪華に描きあげた現代調のお召し物。《増刊女性セブン》

昭和40年
白地に水草をあしらったお着物と、金を配した白地の帯が清々しい装い。《増刊女性セブン》


昭和41年
緋色と藍のぼかし染めに金銀で若松を縫いとったお着物。華麗な帯でモダンな装いに。《増刊女性セブン》




昭和45年

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コメント一覧

フアン
現在の怒り肩美智子さまでは無いほうの美智子さまですね。
美しい方ですねえ。
この美智子さまのままであってほしかったです。
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