映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズ。今回は、第73回ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞作、 ラヴ・ディアス監督作品「立ち去った女」です。
今回の作品、フィリピンの名匠ラブ・ディアス監督の最新作で日本での初公開作品です。この監督、作品の長さがでも有名で、平均5から6時間、作品よっては10時間に及び、今回の作品でも3時間48分。監督から観れば短い作品ですが、この長さで敬遠する人も多いかと思います。僕も、その一人で最初は、この長さに耐えられるか心配でしたが、徐々に彼の世界に入り込み、長尺のシーンでの人間描写や臨場感に魅了されました。
舞台はフィリピンの刑務所、無実の罪で30年間服役していた主人公の元教師ホラシア。同じ受刑者の親友であるペトラの証言で、釈放されます。ホラシアに罪をきせた黒幕は、かつての恋人ロドリコ。夫を亡くし、家族を失ったホラシアは、ロドリコを追って復讐の旅に出ます。
物語のベースになったのは、映画ショーシャンクの空でも使われたトルストイの短編小説で、失意の中で復讐だけを生きる糧にする主人公とバロット(アヒルの卵)売りの男や物乞いの少女、心と体に傷を抱えるゲイの女の出会いによる揺れ動く主人公の心を時に静かに時に熱烈に描いています。復讐に燃えるホラシアが迎える結末を注目すると時間忘れます。
黒澤映画や小津映画のような全編モノクロームの映像も、フィリンピンの抱える社会や貧しき人々の悲哀を映しだし、長尺で撮影されるシーンは叙情的で、人々の生き様が深く投影されていました。
長編映画の苦手な人も、一気に観ないで、いくつかに時間をわかて観てもいいいと思います。人類愛に根差したトルストイの思想を見事に投影した本作。静かな魂の叫びを感じ取ってみてはどうでしょうか。