吉田修一原作&瀬々隆久監督による犯罪サスペンスで、綾野剛、杉咲花、佐藤浩市共演の「楽園」を鑑賞してきました。
悪人、怒りなどの作品が映画され、話題を呼んでいる吉田修一作品。今回は、犯罪小説集という短編をもとに二つのストーリーを限界集落を舞台にして同時に展開されています。
物語は、12年前に起こった少女失踪事件から始まり、失踪前に一緒にいた杉咲演じる紡が、失踪した少女に祖父の言動から心に深い傷を負っています。12年後、再び少女失踪事件が起こり、中国残留孤児二世として母と共に村に住んでいる綾野演じる豪士に疑いがかけられ、ある行動に出ます。舞台は変わり、隣村では、妻を亡くした佐藤演じる養蜂家の善次郎が、村おこしを巡り、あらぬ疑いをかけられ村八分にされてしまいます。追い込まれた善次郎は、ある事件を起こます。
吉田修一氏は、過去に起こった犯罪をベースに、そこにある人間の本質を浮き彫りにしながら犯罪ドラマとして仕立てていますが、今回の作品も、実際に起こった事件をベースにしているようです。ともすれば、被害者側に力点を置く報道がなされ、事件の加害者の心情は、事件を見る側には伝わりにくい場合があります。今回は、そうした側面を見事に昇華しながら進んでいきます。そこには、村社会が抱える因習や差別などの問題があり、異質なものを排除しようとする人間の憎悪があります。そんな人々の憎悪を背負いながら三人は生きていきますが、杉咲、綾野、佐藤のじわりじわりと滲み出るような演技に惹かれました。
今回の作品は、直接的には善次郎が、間接的は紡と豪士が、その被害者のように思います。引き金となる犯罪は、人間の強さと弱さにより生じるか生じないかが、この作品から読み取ることができましたが、引き金を引くか、どうかは、誰もわからないと感じます。少なくとも、引き金を引かせる側にはなりたくないと自分を戒めました。