悪夢の5分間
「また来た…」
6月12日午前7時過ぎ、兵庫県西宮市内のJR福知山線西宮名塩-宝塚駅間を走行中の快速電車。複数の男に前後を取り囲まれた高校2年の女子生徒(17)は、とてつもない不快感を感じ始めていた。
1人の男は女子生徒のスカートをまくると、右手を下着の中まで入れ、さらに左手を着衣の上から胸に押し当ててきた。もう1人の男は右手をスカート内に入れ、下着の上からなで回した。
わいせつ行為が続いたのは少なくとも5分間。悪夢のような状況に女子生徒が苦悶(くもん)の表情を浮かべていた。その様子に気づいた乗客に声をかけられ、2人で宝塚駅で降車して駅員に相談。駅側からすぐ県警に通報が寄せられた。 駆けつけた捜査員に対し、なおも恐怖感につきまとわれていた女子生徒は気力を振り絞って何とか証言した。 「触ってきたのはサラリーマン風の男3人。今まで何度も触られたが、怖くて抵抗できなかった」
明らかに“常習犯”
捜査関係者によると、女子生徒はこれまで、同じ快速電車で痴漢被害を何度も受けていた。当初は衣服の上から軽く手の甲を接触させるレベルだったが、女子生徒が抵抗できないでいると徐々にエスカレート。手の甲が手のひらに変わり、さらに着衣の内側にまで手を入れるまでになっていたという。
「素人ではなく、明らかに常習者の手口だ」。捜査幹部はすぐ本格捜査を進めるよう現場に指示した。
捜査員らは女子生徒から男らの特徴を聞き取った上、駅の防犯カメラを回収して映像を解析。さらに、同じ電車に乗り込んで尾行するなど捜査を進め、女子生徒にわいせつ行為をした3人とみられる男を特定した。 うち2人は、別の女性にも不自然に近寄るなど不審な行動を続けていた。
ただし、重大な謎も残っていた。同じ女子生徒をターゲットにしたのだから、3人は互いに面識があるはずなのに、3人の出身学校や勤務先、交遊関係に共通点は一つも見つかっていなかった。3人がどのような手段で連絡を取り合ったのかという謎の解明に焦点が移った。
痴漢サイト浮上も…
可能性の一つとして浮上したのが、痴漢愛好者らが集まるインターネットの掲示板サイトだ。そうしたサイトでは、痴漢の“被害願望”を持つ女性が実行役の男性を募り、場所や時間を示し合わせて合意の基で痴漢行為に及ぶことがあるとされる。
今回の場合、被害を訴えた女子生徒が、自らサイトに書き込んだ記録は当然見つからなかった。だとすると、考えられるのは、男らがサイト内での書き込みで女子生徒を勝手にターゲットを定めたか、それとも何者かが女子生徒になりすまして男らを誘ったか-だ。
折しも、電車内で複数の男から同時に痴漢被害を受ける事件がJR和歌山線で発生し、痴漢サイトで被害女性に成りすまして書き込んだとして、当時、大阪国税局海南税務署職員の男(49)が逮捕された時期でもあった。捜査員らは和歌山と同様のケースを想定しながら多くの痴漢サイトを調べていった。だが、それらを裏付けるものは何も出てこなかった。
「あとは逮捕後、押収品から調べるしかない」。県警は事件から1カ月余りが過ぎた7月17日、いずれも西宮市北六甲台の村井良寛(36)、舟越洋平(28)の両被告と、西宮市内の男性会社員(38)の3人を強制わいせつ容疑で逮捕した。
無念…外れた思惑
村井、舟越両被告は逮捕後、「やったのは間違いない」と容疑を認めたが、男性会社員は「そのような行為はしていない」と否認。さらに、3人とも「他の2人とは面識がない」と供述した。
県警はそれぞれの自宅からパソコンや携帯電話などを押収し、通信記録の解析を進めた。さらに、3人の取り調べも進めたが、サイトへのアクセス記録や互いに連絡を取り合っていた通信記録が出ないばかりか、痴漢サイトの話すら出てこなかった。
男の1人は「他にも触っている人がいた」と供述したが、共謀を裏付けるまでには至らず、神戸地検は8月6日、それぞれ単独でわいせつ行為に及んだとして、村井、舟越両被告を強制わいせつ罪で起訴。男性会社員については処分保留で釈放した。地検は男性会社員について「任意で捜査を継続する」とコメントした。
起訴された2人について、捜査関係者は「痴漢サイトや携帯などで事前に連絡を取り合ったという証拠がないのだから、現場で偶然出会ったと考えるしかない。目配せなどで現場で互いに示し合わせた上で犯行に及んだ“現場共謀”の可能性もあると考えたが…」と無念の思いを吐露する。
一方、別の捜査関係者は、当初の見立てと異なっていたとはいえ、今回の捜査には大きな「価値」があったと強調する。
「抵抗することができない少女を複数の男がもてあそぶなんて悪質過ぎる。これからも被害者の声に耳を傾け、捜査するしかない
「また来た…」
6月12日午前7時過ぎ、兵庫県西宮市内のJR福知山線西宮名塩-宝塚駅間を走行中の快速電車。複数の男に前後を取り囲まれた高校2年の女子生徒(17)は、とてつもない不快感を感じ始めていた。
1人の男は女子生徒のスカートをまくると、右手を下着の中まで入れ、さらに左手を着衣の上から胸に押し当ててきた。もう1人の男は右手をスカート内に入れ、下着の上からなで回した。
わいせつ行為が続いたのは少なくとも5分間。悪夢のような状況に女子生徒が苦悶(くもん)の表情を浮かべていた。その様子に気づいた乗客に声をかけられ、2人で宝塚駅で降車して駅員に相談。駅側からすぐ県警に通報が寄せられた。 駆けつけた捜査員に対し、なおも恐怖感につきまとわれていた女子生徒は気力を振り絞って何とか証言した。 「触ってきたのはサラリーマン風の男3人。今まで何度も触られたが、怖くて抵抗できなかった」
明らかに“常習犯”
捜査関係者によると、女子生徒はこれまで、同じ快速電車で痴漢被害を何度も受けていた。当初は衣服の上から軽く手の甲を接触させるレベルだったが、女子生徒が抵抗できないでいると徐々にエスカレート。手の甲が手のひらに変わり、さらに着衣の内側にまで手を入れるまでになっていたという。
「素人ではなく、明らかに常習者の手口だ」。捜査幹部はすぐ本格捜査を進めるよう現場に指示した。
捜査員らは女子生徒から男らの特徴を聞き取った上、駅の防犯カメラを回収して映像を解析。さらに、同じ電車に乗り込んで尾行するなど捜査を進め、女子生徒にわいせつ行為をした3人とみられる男を特定した。 うち2人は、別の女性にも不自然に近寄るなど不審な行動を続けていた。
ただし、重大な謎も残っていた。同じ女子生徒をターゲットにしたのだから、3人は互いに面識があるはずなのに、3人の出身学校や勤務先、交遊関係に共通点は一つも見つかっていなかった。3人がどのような手段で連絡を取り合ったのかという謎の解明に焦点が移った。
痴漢サイト浮上も…
可能性の一つとして浮上したのが、痴漢愛好者らが集まるインターネットの掲示板サイトだ。そうしたサイトでは、痴漢の“被害願望”を持つ女性が実行役の男性を募り、場所や時間を示し合わせて合意の基で痴漢行為に及ぶことがあるとされる。
今回の場合、被害を訴えた女子生徒が、自らサイトに書き込んだ記録は当然見つからなかった。だとすると、考えられるのは、男らがサイト内での書き込みで女子生徒を勝手にターゲットを定めたか、それとも何者かが女子生徒になりすまして男らを誘ったか-だ。
折しも、電車内で複数の男から同時に痴漢被害を受ける事件がJR和歌山線で発生し、痴漢サイトで被害女性に成りすまして書き込んだとして、当時、大阪国税局海南税務署職員の男(49)が逮捕された時期でもあった。捜査員らは和歌山と同様のケースを想定しながら多くの痴漢サイトを調べていった。だが、それらを裏付けるものは何も出てこなかった。
「あとは逮捕後、押収品から調べるしかない」。県警は事件から1カ月余りが過ぎた7月17日、いずれも西宮市北六甲台の村井良寛(36)、舟越洋平(28)の両被告と、西宮市内の男性会社員(38)の3人を強制わいせつ容疑で逮捕した。
無念…外れた思惑
村井、舟越両被告は逮捕後、「やったのは間違いない」と容疑を認めたが、男性会社員は「そのような行為はしていない」と否認。さらに、3人とも「他の2人とは面識がない」と供述した。
県警はそれぞれの自宅からパソコンや携帯電話などを押収し、通信記録の解析を進めた。さらに、3人の取り調べも進めたが、サイトへのアクセス記録や互いに連絡を取り合っていた通信記録が出ないばかりか、痴漢サイトの話すら出てこなかった。
男の1人は「他にも触っている人がいた」と供述したが、共謀を裏付けるまでには至らず、神戸地検は8月6日、それぞれ単独でわいせつ行為に及んだとして、村井、舟越両被告を強制わいせつ罪で起訴。男性会社員については処分保留で釈放した。地検は男性会社員について「任意で捜査を継続する」とコメントした。
起訴された2人について、捜査関係者は「痴漢サイトや携帯などで事前に連絡を取り合ったという証拠がないのだから、現場で偶然出会ったと考えるしかない。目配せなどで現場で互いに示し合わせた上で犯行に及んだ“現場共謀”の可能性もあると考えたが…」と無念の思いを吐露する。
一方、別の捜査関係者は、当初の見立てと異なっていたとはいえ、今回の捜査には大きな「価値」があったと強調する。
「抵抗することができない少女を複数の男がもてあそぶなんて悪質過ぎる。これからも被害者の声に耳を傾け、捜査するしかない