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路線バスの運行を維持

2023-10-17 06:43:31 | ニュース
金剛バスの車両© ITmedia ビジネスオンライン
 路線バスの運行を維持しようにも、運転手の不足で減便・路線の廃止を行わざるを得ない……。こんな状況が全国各地で相次いでいる。

 その中で、大阪府の南東部を拠点とする「金剛自動車」(以下:金剛バス)が下した決断は、減便・廃止ではなく「3カ月後(2023年12月20日)をもって、路線バス全線(全15路線)ならびに、事業そのものの廃止」。同社は既に貸切バス・タクシーなどからも撤退しており、創業97年目にして、実質的な会社の閉業を迎える。

 「路線バスの大幅縮小・会社ごと撤退」という事例は、過去にないわけではない。しかし、金剛バスのホームエリアである大阪府の南東部(富田林市・太子町など)は総計で15万人以上もの人口があり、電車なら大阪市内に30分程度で到達できるとあって、市外への通学・通勤も多い。金剛バスは、富田林駅・喜志駅(近鉄長野線)・上ノ太子駅(近鉄南大阪線)と住宅街を結んでいる。過去に破綻したバス会社と比べると、それなりに恵まれているのだ。

 しかもこのエリアは、クルマ以外の公共交通が路線バスのみという地域も多い。特に南河内郡河南町は約1.5万人の人口を擁し、戸建て住宅が密集する住宅街「さくら坂」から富田林駅に向かうバスは、朝晩は当然のように座席がふさがり、利用者は通路まであふれる。

 いまは減少傾向にあるとはいえ、金剛バスは1日約2600人の利用があり、地域の過疎化も限界まで進んでいるわけではないこの環境の中で、バス会社としての“突然死”が起きてしまった訳だ。全国各地のバス会社や利用者からすると「大阪近郊でダメなら、地方のバス会社は、うちの地方は一体……」と、背筋が寒くなるのも当然だろう。同社が下した閉業の決断は、こうして全国で、ことさら大きく報じられた。
 大都市の近郊という恵まれた条件下にあったはずの同社は、なぜ実質的な廃業に踏み切らざるを得なかったのだろうか。

●金剛バスはなぜ助からなかったのか
 金剛バスによると、路線バス事業から撤退する直接の理由は「運転手の不足」とのこと。必要とされる30人の運転手のうち、今後も就業できるのは20人程度。いわゆる「2024年問題」でドライバーがいま以上に不足することは明らかで、これでは到底、バス事業を続けることはできなかっただろう。

 それだけでなく、12年に年間172万人だった利用者は、20年には106万人まで減少。もう10年以上も赤字が続き、帝国データバンクにおける信用調査のランク付けは「D3」(100点満点の40-43点)と、融資が絶望的なレベルまで財政が悪化していた。この状況では、同社の経営問題はコロナ禍がなくとも、遅かれ早かれ噴出していただろう。
●問題の本質と向き合わなかった自治体の責任
 そんな金剛バスに対して、エリア内の各自治体は、利用促進策を中心とした支援を行ってきた。
 例えば富田林市では、市内の総合公園 (サバ―ファーム)への路線延長に対する経費を補助。また、コロナ禍で乗客が半減した21年には、補助金を活用して市内バス運賃を期間限定で100円均一に。いずれも一定の利用者増加につなげた。太子町でも、支援を行った上で20年にバス路線の新設を行ったばかりだ。

 しかしこれらは、あくまでも「市が希望したバス路線の赤字補填」であり、運転手の養成や設備の建て替え、車両の更新(金剛バスは建物・車両ともに、全般的に相当年季が入っている)に直接つながるものではない。過去の富田林市議会の動きを見ていても、こういった補助を検討している形跡はない。拠出が増えないかたちでの増便や、交通系ICの導入など、税金を拠出する側としての要望を矢継ぎ早に行っており、これでは金剛バスの負担は増えるばかりだっただろう。

 なお各自治体は、金剛バスからの申し出を今年5月に受け、補助金の拠出を申し出たものの断られ、廃業のニュースは9月に表沙汰に。各自治体とも3カ月後の全面廃止に向け、近隣の近鉄バス・南海バスと引き継ぎ交渉を行っているものの、準備期間の短さもあって苦戦しているという。こうしてみると、各自治体が金剛バスの抱える根本的な問題を直視せず「ちょっと乗客を増やせば、今後とも無条件で協力してくれるだろう」と甘い見立てであったことは否めないのではないか。

 国道交通省が発表した「令和4年度交通政策白書」によると、路線バス事業者はコロナ禍で利用者、経常収益が2割ほど減少。94.0%が赤字を抱える(令和5年版交通政策白書より)だけでなく、運転手の不足で運行の継続が厳しくなっている場合も多いという。

 さらに間もなく「2024年問題」によるさらなる人材不足は避けられない。今後、地方、都心部に限らず、“第二・第三の金剛バス”が出る可能性は大いにあるだろう。

●路線バス廃業を止めるために必要な2つのコト
 地域に必要なバス路線を、持続可能なかたちで残したい。全国のバス会社や自治体の一致した願いだろう。今回の金剛バスのような“突然死”を迎える前にバス会社を救済する目的もあり、国(国交省)が主導する新たな補助制度「エリア一括協定運行事業」が23年度から始まった。

 この制度はこれまでの「とにかく赤字補填」という在り方から抜け出し、路線バスの枠にとらわれない「地域交通の再編」を促すものだ。

 例えば「同エリアの移動手段の競合」も再編の対象となる。金剛バスで例えるなら、河南町内では並行して、町営バス・デマンドタクシー(カナちゃんバス・かわせみタクシー)、富田林病院の送迎バス、企業送迎バス、スクールバスなどが走り、同社の利用者を細かく奪っていった。

 こういったムダな競合を避けるために、可能な限り体制を一括化(おそらく各事業者は個別で残り、持ち分の便の運行を委託されるような方式になるだろう)。同じ時間に並走しないように運行本数を削減する。それぞれの車両を使って、例えば「朝晩だけバス会社の大型バス、昼間は送迎バス用のワゴン車」などという、利用実態に合わせた運行体制をとることも可能だ。

 かつ、国や自治体が「ちゃんと運行を維持します!」という保証を行いつつ、運行を維持するための経費を補助する。単なる赤字の補填ではなく、今後も運行を続けるための補助であり、バス会社にとっては「運転手の確保」「上下分離(施設や車両を自治体に保有してもらい、税金の負担を減らす)」にかかる費用を相談できる。

 また「下手に利用者が増えるともらえる補助金が減る」という従来の補助制度と違って、乗客を獲得すればしっかり会社の利益になるため、バス会社の自助努力も期待できるだろう。
 他にも再構築の一例として、各地で実際に行われている「もともとあった小型スクールバス車両を活用」(石川県珠洲市)、「スクールバスと路線バスを統合・1台の車両で席を分けて混乗」(高知県三原村)、「工場の送迎バスに路線バスの機能を持たせ、一般客も乗車可能に」(静岡県湖西市)などの施策を参考に、重複のムダを省いた「アリモノ活用での再編」を行うのもいいだろう。

 この「エリア一括協定運行事業制度」が各地で適用されるなら、各地のバス会社が“第二・第三の金剛バス”となる前に、早めに救済ができる。そもそも金剛バスの場合は、06年に同社が大阪芸術大学の送迎バスから外されて収益源をなくしたり、労使関係で度々もめたり、不安な動きが目立っていた。そこから車両も建物も更新が進んでいなかった時点で「あれ? 将来的にマズくないか?」と、地元自治体が気付かなかったわけがない。

●運転手の待遇見直しが急務
 これから全国各地の路線バスは「赤字の補填」ではなく「再構築」が生き残る基準となっていくだろう。しかし、この制度をもってしても、運転手不足の切り札とはならない。なぜなら、根本的な不足の原因が「拘束時間の長い変則勤務・最大13連勤・給与水準はホワイトカラーの会社員以下」という、路線バス運転手の待遇が、そもそもの原因であるからだ。

 労働条件に嫌気が差してトラックや観光バスの運転手に転職してしまったケースは、金剛バスに限らず後を絶たない。交通ネットワークの再構築を行うにしても、支援を行う形での待遇面の改善を織り込まないと、担い手不足で計画そのものが崩れてしまうだろう。

 「再構築」に必要な人材が集まり、路線バスが生き残る必須条件を、シンプルに記したい。

 「その町で結婚して、子育てができるレベルの給与水準・労働条件を出さないと、もうバス運転手は確保できない!」

 この一点だけはムダと認識せず、国が主導して人材育成から取り組むくらいの動きを見せないと、路線バスは「2024年問題」も、その先も乗り切れないだろう。


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