京都新聞 8月15日(火)の為末大さんの「現論」が興味深い。
認知心理学においては、「人間の記憶は曖昧で、無意識に再編集される」ことが、よく知られているらしい。
カリフォルニア工科大学下條信輔教授が高校生アスリートを対象にした実験において、試合前に「あなたは試合に勝てると思っていますか?」と質問し、さらに試合後「あなたは試合前に勝てると思っていましたか?」と質問する。「勝てる」と言っていたアスリートは、実際の試合に負けた後では、「試合前には試合に勝てると思っていなかった」と記憶を無意識に書き換える傾向にあったらしい。
過去の出来事は変えられない。しかし、その過去をどのように解釈するのか、それによって人間の記憶は変化する。その上で、為末大さんはトップアスリートは「未来に希望を持てるように、過去を再編集する癖がついている人々」と解釈している。
では、トップアスリートは、実際の試合に負けたとしても、無意識に「これは次の試合に勝つための布石に違いない」と前向きに捉えるのであろう。
「人間は現実ではなく、物語を生きている。」これが為末大さんが競技人生で学んだことだと言っている。物語が変われば、過去も未来も、現在見える世界も変わる。世界の頂点で戦い続けるトップアスリートが、常に希望の持てる未来を創ることができるように物語を創っているのだとすれば、私達もまた、輝かしい未来を創るために物語を創ることができる。
為末大さん:1978年広島市生まれ。法政大学卒業。陸上男子400メートル障害で、2001年、05年世界選手権で銅メダルを獲得。オリンピック00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。