≪第96回全国高校野球選手権大会≫
- 予選展望5 中国・四国地区 -
【岡山】(参加59校)
関西の3季ぶり甲子園が手に届くところに。猛追する倉敷商と理大付のパワー。
◎ 関西
〇 倉敷商 岡山理大付
△ 創志学園 山陽 岡山南
▲ 倉敷工 作陽 金光学園
3年ぶりのVを狙う関西は、過去数年に比べて投手陣の軸がいない悩みを抱えていたが、春の大会で優勝という結果を出して自信をつけた。エース田中は本格派だが、まだまだ全国的に見たら好投手というカテゴリーまでは至っておらず、それを逢坂、細川らの控え陣がどこまでサポートできるかがカギ。しかし打線の力は相変わらず県内屈指。猛練習で鍛えられた強打線は、早い打球で内外野の間を抜き連打が連なる。総合的にみると、やはり夏の筆頭候間違いないだろう。秋春ともに準優勝に終わった倉敷商は、勝負の夏に逆転のVを狙い有終を飾る目論見だ。関西の”打”に対して、倉敷商は”投”で勝負。関西と同じく3本柱の投手陣だが、安定感は抜群。打線の力では一歩譲るが、総合力では一歩も引くつもりはない。今年は岡山理大付の評判も高い。先輩の九里の活躍に刺激を受け、『先輩に続け』とばかりに7年ぶりの甲子園を狙う。こちらも2強張りに4本柱を要する投手陣が自慢だ。有力候補の3チームについては、どこも3人以上の”投手陣”を誇るが、【絶対のエース】を持つチームが猛追。創志学園のエース末広はMAX146キロ、山陽の藤井はMAX148キロを誇る速球派で、両校ともに大会をうまく乗り切れれば甲子園へ手が届く位置にいる。『5強』というまとまりでとらえるならば、今年の岡山は投手陣の戦いになる可能性が高い。そうなると、予選の最中の気温や雨が、結構大きなファクターになる可能性もある。熱い戦いが繰り広げられそうだ。
【広島】(参加93校)
”今度こそ絶対に負けない”広陵の気合いが、岩をもくだく。
◎ 広陵
〇 広島新庄 広島工
△ 如水館 盈進 尾道
▲ 尾道商 広島商 崇徳
毎年【甲子園でも上位を狙える】戦力を揃えながらここ3年間夏の甲子園を逃し続けている広陵が、『今年こそ』と気合十分。相変わらず投手陣は充実した陣容を誇り県内トップクラス。特にエース吉川や速球派の古賀は全国レベルの投手。うまくつないで万全の状態で上位の戦いに備えたい。リードが光る太田捕手の存在もチームにとっては大きい。春の中国大会を制して、『やはり我々が中国NO1』ということを再確認できたことは精神的に大きい。選抜組の広島新庄は、その選抜で引き分け再試合を投げ切った山岡の疲れからの回復具合が心配の種。しかし山岡を休ませている間に1・2年生の投手にも使えるめどが立ち、結果的には投手陣の層が厚くなった。選抜では火を噴かなかった打線が今一つだけに、投手陣にかかる負担が大きいが、少しでもそれを減らしたいところか。一昨年代表の広島工と、3年前出場の如水館が夏の覇権奪回へ自信を持っている。広島工は不祥事明け最初の大会である春の大会で決勝まで進出し、中国大会まで経験できたことは大きかった。エース向井の投球で一発を狙う。如水館は相変わらず総合力では県内屈指。戦い方をよく知っており、夏は一段戦力アップが見込めそうだ。その他では、盈進や尾道、尾道商や広島商などこれまで一時代を築いたことがある各校が復活に意気込む。
【山口】(参加59校)
足取り重い、選抜帰りの岩国。悔しさを糧に成長した高川学園に安定感。連覇狙う岩国商も戦力は充実。
◎ 高川学園 岩国商
〇 岩国 宇部商 下関工
△ 岩国工 桜ヶ丘
▲ 南陽工 柳井学園 華陵
昨秋の中国大会を制し、選抜でも『大会屈指の右腕』と言われたエース柳川を擁しながら、完敗を喫した岩国の足取りが、春から一気に重くなってきた。もともとさほど打てるチームではなかったが、選抜以降守備の不安が噴出。柳川の勇姿を再び甲子園で見せるには、打・守に相当の底上げが必要か。秋の大会では岩国と並び中国大会で活躍して選抜に手をかけたと思われた高川学園だが、試合内容やマナーなどが指摘されて選抜を逃した。しかしこの悔しさをうまく夏に向けられたようで、今大会では本命に上がってくる。どんどん走り打つ奔放な野球を聖地で見せるために、投手陣の踏ん張りが必要になる。連覇を狙う岩国商は、春は県大会を制したが投手陣の不安はぬぐえなかった。その不安が出た中国大会準決勝では、開星(島根)の攻撃に一気に崩され9失点でコールド負け。守備は固く戦いぶりも堅実なだけに、昨年の大黒柱・高橋のような、何としても軸になる投手が欲しい。久々のVを狙う下関工、岩国工、南陽工などの”工業勢”が元気なのも山口の特徴。また【公立王国】だけに、その牙城を高川学園がどう崩していくのか、なかなか興味深い今夏の大会だ。
【鳥取】(参加25校)
勝ち方を知る鳥取城北を猛追。県立進学校カルテットの鳥取西、米子東、八頭、倉吉東。
◎ 鳥取城北
〇 鳥取西 米子東 八頭
△ 鳥取商 倉吉東
▲ 石見 倉吉西
今年も全国最少の25校参加の県予選。要するに鳥取を勝ち抜くためには、シード校は4試合を勝てばよいという計算になるので、『先が見通せる』大会ということがいえる。であるが故、毎年『エースが安定している学校が圧倒的に優位』という図式があり、その図式は今年も変わりそうもない。このところ2年連続で甲子園にたどり着いた鳥取城北が、今年もまた筆頭候補にでんと座っている。例年ほどの力強さは感じないチームだが、制球力抜群のエース湧嶋
を擁しており、安定感はNO1。しかしそのエースは、春は故障から登板がなくチームも8強で敗北。エースの復活がなるかが鳥取の覇権を占うカギとなった。春優勝の伝統校・鳥取西は、伝統通りのしぶとい戦い方が身上のチーム。オーソドックスな野球で戦うため、常に先手を取って逃げ切りという展開に持ち込みたい。大量得点は望めないため、各試合の”入り”に注目だ。米子東と八頭という両古豪も元気だ。米子東は、91年以来久しぶりに甲子園を手繰り寄せるのか。チーム伝統の左腕の技巧派を擁し、OBの期待は高い。八頭は小粒ながらも得点力の高い打線が中心。鳥取城北と互角に打ち合うために鍛え上げた打線で勝負。鳥取商は秋、春ともに実績を残して今季の安定度NO1のチームだ。倉吉東も今年は”狙える”年。石見、倉吉西に、倉吉北、堺などの伝統校も狙いを絞る。
【島根】(参加39校)
ひと冬超えて様相が一変。本命・開星が抜け出るが、浜田、大社らが波乱を起こすべく腕まくり。
◎ 開星
〇 浜田 大社 大東
△ 石見智翠館 立正大淞南
▲ 出雲工 出雲西
ここ2年ほど”音沙汰”のなかった開星が復活を期す夏だ。もともと素材のいい選手を集めてチームを作っているだけに、波にさえ乗れれば他校より一歩抜け出ることは必定。今年は秋の新チーム結成時にはまだチームとして結束していなかったが、ひと冬超えて春には機能し始めた。投手は3枚、打線は長打連発で他校を寄せ付けず中国大会準優勝。『お休み』した2年間を取り戻すべく戦力を整えてきた。この開星を、今年の夏は伝統校2校と新鋭1校の3校が鋭く追う展開となっている。浜田、大社の伝統校はともに粘りと小技が効く『試合をすると怖さがわかる』チーム。開星のような派手さはないが、夏の大会では怖いチームだ。大東は近年力を伸ばしている新鋭校。エース左腕の勝田は上位校にも十分に真っ向勝負ができる力を持つ好投手。彼の負担を減らすべき野手陣が鋭く援護できれば、夢の甲子園は近づいてくる。開星の長年のライバルである石見智翠水館と立正大淞南はどうか。今年は開星との間にやや戦力差があるが、選手の質は高く、きっかけさえつかめば頂点を極めるケースも十分に考えられる。出雲工、出雲西の両出雲勢には、地元の期待も高い。いずれにしても、『1強』にしないための熱い戦いで盛り上がる大会になることが期待されている。
【香川】(参加40校)
本命なき大混戦の様相。混沌とした中抜け出すのはやはり名前のある強豪か?!。
◎ 英明 香川西
〇 寒川 尽誠学園 坂出
△ 丸亀城西 三本松
▲ 丸亀 大手前高松 高松一 高松商
ここの所やや地盤沈下の四国地区にあって、香川県は中でも存在感を薄くしている。選抜も2005年以来、1校しか代表校を送り込めていないし、夏の選手権でも10年間でわずか2勝しか挙げられない苦しい状況が続く。 かつては高松商、丸亀商(現丸亀城西)や尽誠学園などの強豪が県を引っ張っていたものだが、最近はその核になる学校がなかなか現れてこないのが現状だ。近年では香川西、寒川、英明が”3強”を形成するという展開が多かったが、今年はその3強もやや影を薄くし、大会ごとにガラッと上位の顔触れが変わるということになっている。昨夏の代表は丸亀、昨秋は坂出、そして今春は三本松が県大会を制し、群雄割拠の色合いを濃くしている。今年の夏はそんな中で、どういった大会になるのであろうか。ひょっとすると思わぬ学校の登場もあるかもしれないと思わせる『読めない夏』だ。そんな中で、一番手には英明、香川西、寒川、尽誠学園の4強を上げておく。4校ともに近年の甲子園経験のある『私学強豪』で、何とか甲子園までたどり着きたいと思っているパワーが甲子園を手繰り寄せる気がするからだ。特に英明は関西地方からどんな球児が入学しているか、注目を集めるチームだ。三本松の岡田監督は72歳、丸亀城西の橋野監督は68歳と、公立の有力校の監督は『酸いも甘いもかみ分けた』大ベテラン監督で、両校が私学4強に対してどのような戦いを挑んでいくのかも、興味深い。いずれにしても、どんなことでも起こりうる、全く読めない夏となる。
【徳島】(参加31校)
鳴門渦潮が、合併後初めての夏を狙う。春復活の池田が夏も聖地に登場か。
◎ 鳴門渦潮
〇 池田 鳴門 生光学園
△ 徳島北 小松島
▲ 川島 徳島商 海部 穴吹
昨年まで4期連続で甲子園の座を射止めていた鳴門が今年は少し勢いを落とし、その隙に名門鳴門渦潮が割り込んできた。県大会を勝ち抜き進出した四国大会で2勝し決勝に進出したのは大きな経験だった。名将高橋監督に率いられ、2008年以来、合併して新校名になってからは初めての甲子園を視界にとらえている。捕手大豊作の今年の高校野球界にあっても『全国屈指』と言われる超大物・多田大に注目。盗塁阻止率が驚異の.650と聞いただけで、その姿を聖地でぜひ見てみたい選手だ。あとは投手陣だが、エース松田が一人でマウンドを守る。最近のトレンドである複数投手性に背を向ける形で、ここ数年も徳島では『大黒柱の大エース』が投げ切ってVというケースが多いのも確か。同時に、それが各校の悩みでもある。同様の悩みは、センバツに28年ぶりに出場し、全国のファンを沸かせた池田も抱えている。エース名西に続く投手の確立が春の課題だったが、どうやらその目論見は崩れそうで、この夏もエースと心中の戦いぶりになりそうだ。かつてのやまびこ打線を前面に出したチームと違い、現在のチームは投手中心の守りと小技・足技のチーム。相手を突き放すだけの力を持たないため、どうしても大会の序盤戦から全力で勝ちを拾いに行かなければならない展開となり、その結果大会の終盤でスタミナが切れてしまうという戦い方が多かった。今年もエースは変化球の出し入れで勝ち進む投手だけに、何とかバックが早めに点を奪って逃げ切る展開に持ち込みたいところだ。3年連続の夏を伺う鳴門は、自慢の強力打線が今のところ火を噴いていない。しかし何か一つきっかけを掴むと・・・・・という感じがするチームで、今年も有力候補のひとつに名前が上がろう。徳島県初の私学の甲子園を目指す生光学園は、今年も甲子園に手をかけられるチームを作ってきた。事実昨秋の四国大会にも進出。しかし甲子園にはあと一歩届かず。悲願達成の夏にしたい。春準優勝の徳島北は、2度目の甲子園を狙う。小松島、川島ら甲子園出場経験のある学校の台頭に加え、名門・徳島商も復活を狙って殴り込みをかける。
【愛媛】(参加59校)
安楽抜きには語れない今年の愛媛。全国屈指の剛腕が華麗なる復活を遂げるか、それとも。
◎ 今治西
〇 済美 西条
△ 帝京五 川之江
▲ 松山商 宇和島東 東温
昨年の選抜準優勝投手にして、最速158キロの剛腕エース・安楽抜きに、今年の愛媛を語ることは出来ない。安楽は昨年センバツの準優勝の後、夏の選手権に出場。その後U-18ワールドカップに帯同した後、故障を発生させた。年明けもヒジの状態は思わしくなく、春の県大会(地区予選)では登場できず、復活の舞台はぶっつけ本番の夏となった。彼が好調に夏を迎えることが出来れば、やはり本命は済美で間違いない。常時150キロを超える速球の威力はすさまじく、昨年2年生の段階ですでに『ドラフト1位』を公言する球団もあったほど。二刀流・大谷(日本ハム)に続く逸材として注目を集めてきた存在だ。しかしながら、どうやらなつまでの『完全復活』はなさそうな感じがしないでもない。復活を遂げても連投が効くとも思えず、そういった面で今年は実績を残す2強が大会の軸になりそうだ。まずはセンバツ出場の今治西。エース神野に破壊力のある打線を擁して四国では秋優勝、春四強と実績十分。選抜では初戦敗退だっただけに、『春の忘れ物』を夏に取りに行くと選手の鼻息は荒い。そして西条。秋、春ともに県大会を強さを見せつけて制した。今治西との決勝対決も2連勝。しかしなぜだか、四国大会では両大会ともに初戦敗退の憂き目を見た。何とか全国レベルの大会に出場して、その憂さを晴らしたいところ。チームは秋のエース・島田や春のエース・高橋など層が厚い投手陣を誇り、投打ともに実力は全国レベルに達しているとみる。得意にしている今治西を倒し、全国へのキップを手にすることができるのか。いずれにしても今年の愛媛はこの3チームが強そうだが、帝京五は秋、春ともに安定した戦いぶりを見せており、ダークホース的存在。”夏将軍”の異名をとる松山商や、川之江、宇和島東等の名門も名前の挙がる存在。いずれにしても全国から熱い視線を送られる『安楽大会』の様相が濃い今年の愛媛。どのような展開となるのか、要注目だ。
【高知】(参加32校)
照準は全国制覇のみ。明徳義塾の強さ際立つ。
◎ 明徳義塾
〇 高知
△ 高知商 岡豊
▲ 土佐 高知中央 中村
野球どころと言われる高知も、近年は明徳義塾、高知の2強が完全に他校より頭一つ抜け出すという勢力図を形成している。そして今年。例年にも増して、明徳義塾と高知の2強が図抜けた戦力を持つという構図となった。今年も両校のマッチレースの様相が濃いが、今年は昨年までのように『どちらに転んでも・・・・』というよりも、明徳義塾がやや高知を引き離す戦力を持っており、あっさりと連覇を達成する可能性が高い。明徳の強みは何と言ってもエース岸の安定感。キレのいい球で内角を攻める小気味のいい投球は全国屈指の力を持つ岸。センバツ時は打線の援護がさほど期待できなかったが、例年ここから明徳は打線がグッと力を上げる。投打ともに盤石の態勢を整えて、二度目の真紅の旗を獲りに行く。待ったをかけたい高知は、昨春のセンバツで四強入りを果たした原動力となったエース酒井の投球に賭けたい。打線の破壊力はあるものの岸との力関係ではやや劣る高知にとって、酒井の投球は生命線だ。決勝対決となるであろう明徳戦で、酒井が前半リードを奪えるようなピッチングを披露すれば、高知にも十分にチャンスの芽が広がる。しかし一点でもリードされて後半を迎える展開になれば、高知の勝つチャンスはほとんどないといってもいい。32校出場の県大会。しかもがっちりとしたシード制で、1・2回戦はほとんど波乱の展開になることは考えにくいため、シード校の”本当の勝負”は準々決勝から。要するに中1日で3試合を持ちこたえられる投手ならば、十分にひとりだけでも県大会を戦えるということだ。そういう県大会の特徴から考えると、好投手さえ擁していれば上位進出はおろか、甲子園も見えてくる大会ではあるのだが、実際にはそうはなっていない。今世紀に入って、高知商の出場がわずか1回あるだけで、残りは明徳義塾と高知が分け合うという展開になっている”無風”の県大会だ。今年も2強以外にチャンスはほとんどないと考えられる。わずかに高知商と高知中央が細い糸を手繰り寄せたいところだが、両校ともに絶対戦力の不足はいかんともしがたいところ。土佐、中村などの名門校も、2強を破るというところまではチーム力を上げられないとみる。明徳義塾が見据えるのは全国制覇のみ。今年も、明徳の強さが際立つ大会になる公算は、きわめて強い。