≪第94回全国高校野球選手権大会≫
【大会展望】
圧倒的強さの大阪桐蔭が、春夏連覇に挑む
春の強豪・光星学院、愛工大名電、神村学園らが待ったをかけられるか
94回目の夏。
例年にも増して暑い夏となった地方大会。
九州等を除くと今年はほとんど順延もなく、順調に日程を消化し、
最後の福井代表が決まったのが7月30日。
どの学校も、開幕までにしっかりと地方大会の疲れを取って甲子園入りできそうで、
初戦から面白い、力のこもった試合が期待できそうだ。
さて、今年の高校野球界は、
春の選抜で優勝した大阪桐蔭と、球速160キロを記録したエース・大谷の花巻東を中心に回った1年だった。
選抜では初戦で激突したこの両チーム。再戦を期待するファンが多かったが、花巻東はまさかの予選敗退。
となると必然的に、大阪桐蔭が残る話題のほとんどを独占するのは、致し方ないところだろう。
大阪桐蔭は、春の時点では藤浪の右腕に話題が集まったが、このチームの本当の強さは『強力無比の打線』と『アグレッシブな守備』にある。
たとえ藤浪がいなくとも優勝候補の筆頭に上がるだけの力を持つこの強豪に、果たして隙はあるのか。
大阪大会の決勝では、ライバルの履正社のもう追撃にあったが、あれは相手が履正社だったからだと思う。
全国的にもこの大阪桐蔭の牙城を崩せるチームが存在するのかは、やってみなければわからないとは言うものの、
限りなく可能性は低いのではないか。
状況は一昨年の興南に似ている。圧倒的な強さで夏も制し春夏連覇を達成した興南の『盤石の強さ』を大阪桐蔭は引き継いでいるように感じる。
いや、さらに一段グレードアップした感じか。全盛期のPLに匹敵する戦力を持った大阪桐蔭、果たして春夏連覇は達成できるのであろうか。
追っていくチームには、春のセンバツから連続出場したチームが有力だ。
厳しいマークをかいくぐって夏も掴んだ強豪たち。彼らの力は、やはり他校より一歩ぬきんでている。
まずは選抜準優勝の光星学院と愛工大名電が、そのトップランナーだろう。
光星学院は、県予選では爆発しなかったもののその長打力は折り紙つき。特に田村・北條・天久と昨夏から2季連続の【甲子園決勝】を経験した選手たちの経験値の高さは他の追随を許さない。投手も城間、金沢の二本柱がしっかりと確立しており、『崩れない戦い』ができるチームの筆頭格。心配は淡泊さが顔をのぞかせた時。意外なまでにもろさを露呈する場面がないよう、しっかりした試合の入りを続けることが重要だ。その光星学院にリベンジを誓うのが愛工大名電の剛腕・浜田。浜田は昨秋の明治神宮大会に続き、春のセンバツでも光星学院にその行く手を阻まれた。3度目の正直で『打倒光星』を果たせるのかどうか。しかし名電は、倉野監督になってから夏の甲子園での勝利を記録できていない。初戦で意識過剰に陥ることなく、しっかりとした戦いができるのかもカギになってくる。浜田がこの夏やや調子を落としているのは気がかりだが、足を絡めた打線の得点力の高さは相変わらず一級品だ。
3季連続の甲子園ながら、結果を出したとは言い難い神村学園も、この夏に向けて戦力を充実させており、候補の一角に加わる。
もともと夏に強い鹿児島代表だけに、今年の夏は一気の浮上も視野に入れている。平藪と柿沢の左右の二本柱は安定しており、打線は九州大会を秋春と制した強打が売り。ツボにはまった時の強さは他の追随を許さない。
浦和学院、聖光学院、明徳義塾など、バランス抜群のチームが追う
上記に挙げたチーム以外でも、バランスの良いチームが浮上を狙う。選抜で大阪桐蔭をあと2人まで追いつめた浦和学院は、やや打線が湿っているものの守り勝つチームカラーが浸透。エース佐藤に控えの山口を有する投手陣の層の厚さは今大会でも屈指だ。6年連続の夏を射止めた聖光学院も、派手さはないがしっかりとした野球が行える強みがある。安定感抜群のエース・岡野はまず大崩れしない。打線もようやく当たりが出始め、昨年のチームで成し得なかった”全国制覇”への道を突き進むつもりだ。
2年連続の明徳義塾は、またも物議をかもした馬渕采配で甲子園へ。その是非は置いておくとしても、勝負に徹することが出来るという点では上位進出の資格は十分。今年の戦力は他校に引けを取らず、ここ数年続いた”力負け”も今年は心配ないはず。去年は狙っていた上位を逃しているので、今年こそ『完全復活』への思いは強い。
激戦の神奈川を制した桐光学園は、横浜を抑え込んだエースの松井次第。松井が絶好調で対戦する相手校はまずその”驚愕の”スライダーに手が出ないはず。変化球のキレは高校時代の工藤(元西武)杉内(巨人)を凌ぎ、速球のMAXは146キロに届く剛腕だ。ただしチームが完全な”松井頼み”から脱しないと、炎天下の甲子園での上位はきつくなる。ディフェンディングチャンピオンの日大三はどうだろうか。エース斉藤に安定感が出て、決勝は大逆転勝ちで波に乗っている。しかし去年甲子園を制したチームとは、着ているユニフォーム以外はすべて”別物”。今年は甲子園に全員で優勝旗を返しにこれたことこそが彼らのゴールと位置付けられているようで、甲子園で勝ち進むにはややしんどい戦力。『顔で勝負』できるようだと面白くなるが。
バランスという面では、春の東海大会を制しその勢いで夏も制した県岐阜商も抜群。侮れない戦力を持っている。昨年も甲子園のスタンドに叩き込んだ主砲・高橋の龍谷大平安は、今年がチーム力のピークで、上位を狙う。”超剛腕”大谷の花巻東をたたいて甲子園にたどり着いた盛岡大付は、プロ注目のエース出口と160キロ撃ちの打線が絡めば面白い。昨夏4強の作新学院は、県予選の大事なところでエース大谷が登板しなかったのが気がかり。左腕筒井もいいが、エースの復調に思い切りの良い打線が絡めば快進撃の再現も。
勢いに乗れば勝ち上がれるチームが多数。面白い展開に。
その他で気になるチームを北からあげると、まずは2年ぶりに戻ってくる仙台育英。不祥事に揺れた昨夏の悪夢から回帰。相変わらず打線の破壊力は十分で、上位進出を視野に入れる。東海大甲府も今年は上位を狙っている。昨年の高橋(中日)のような大砲はいないが、打線のつながりとエース神原のピッチングは圧巻の迫力を持つ。さほど評価の高くない伝統校はどうか。8年連続の夏となる智弁和歌山は、県予選ではかつてないほどに苦しんだ。打線は最後まで湿り続け、3人の投手の継投で何とか勝ちを拾った印象だが、百戦錬磨の高嶋監督がこのまま黙っているわけはない。甲子園では見違えるようなチームに変身する可能性もあり、だ。天理もここのところ甲子園に出るものの実績は残せていない。今年はライバル智弁の後塵を拝し続けたが、最後の夏に逆転して夏を掴み取った。その勢いを持続させたい。打線の破壊力はピカイチの広島工は、監督の出身校である”広商野球”も絡ませればチーム力アップは間違いない。今年一年実績を残してきた選抜8強の鳴門は、エース後藤田が相手をかわしているうちに打線爆発、の展開に持ち込みたい。九州では何と言っても浦添商。投の2枚看板はいずれも”沖縄らしい”剛腕投手。足を絡めて得点力も高く、極めて”野球偏差値”の高いチームだ。
今大会のダークホースとなり得る力を持つチームも多い。まずは北照・北海の甲子園組を連覇して”シルバーコレクター”を返上した札幌第一。投打に力を秘める木更津総合。元PL・藤原監督率いるニュー佐久長聖。甲子園常連の遊学館・北大津も怖い存在。常総学院と高崎商は、今年就任の新監督で臨む甲子園。強豪連覇の滝川二は、機動力を使える戦力だ。選抜を経験する鳥取城北、倉敷商は悔しい負けを払しょくしたいところ。
酒田南は、会田-下妻の超大型バッテリーの活躍が見もの。名門の新潟明訓、今治西など甲子園戦術を熟知しているチームは、腕を撫している。九州の公立勢、佐賀北・濟々黌・杵築・宮崎工は大変な地元の盛り上がりぶり。大声援に乗って一気に駆け上がるか。激戦福岡を制した飯塚の力も決して侮れない。佐世保実は清峰で監督の”懐刀”だった清水監督が”独立”して臨む初の甲子園。期待値は高い。昨年久しぶりに初戦を突破した秋田からは秋田商。しぶとい野球が持ち味だ。春夏まったくの初出場は、成立学園・松阪・富山工など。現実的な目標としての甲子園一勝は譲れないところ。常葉橘、福井工大福井、立正大淞南、香川西など、甲子園で実績を残したことのある高校が集まったのも今年の特徴だ。旭川工、宇部鴻城などは”無印良品”となれるかにも注目だ。
いずれにしても、大本命の大阪桐蔭を他校が追っていく展開になるのは間違いない。
新たなヒーローは出現するのか。
甲子園の夏はもうすぐそこだ。