◇貴景勝、かど番栃ノ心を圧倒
大相撲春場所千秋楽(24日、エディオンアリーナ大阪)、平成最後の土俵に勝負の厳しさを刻み込む一番があった。7勝7敗のかど番大関栃ノ心と、大関昇進を懸ける関脇貴景勝。結果は貴景勝が会心の相撲で大関昇進を手繰り寄せ、栃ノ心は関脇への転落が決定。明暗があまりにもくっきりと分かれた。
栃ノ心が負ければ大関から転落することは決まっているが、貴景勝の昇進について、取組前の阿武松審判部長(元関脇益荒雄)は「きょうの相撲を見ないわけにいきませんね」と語り、「終わってから」を繰り返しただけ。勝って10勝すれば昇進などとは口にせず、厳密に言えば事前に決められた「入れ替え戦」ではなかった。
しかし、関係者も観客もすっかりそのつもりで目を凝らした土俵上。勝負はあっけなかった。貴景勝が頭で当たり勝って跳ね飛ばし、栃ノ心の厚い胸板へ強烈な二の矢の突き押し。まともに受けた栃ノ心は、なすすべなく押し出され、土俵下へ落ちた。
西の支度部屋。まだ審判部が大関昇進を審議するための臨時理事会招集を八角理事長(元横綱北勝海)に要請する前から、貴景勝を取り囲む記者たちは昇進ムード。
本人も「わんぱく相撲でも体の大きな人たちの中でやってきて、自分は体が小さくて、優勝とかできなかったけど、何とか自分の体を武器にしてやれる相撲を目指してやってきたことを思い出した。初めて相撲部屋に入った時、幕内力士を見て、こんなところでやっていけるのかと思ったけど、諦めずにやってきて良かった」と、喜びと安ど感に浸った。
その頃の東支度部屋。栃ノ心は「(立ち合いに)もう駄目だと思った。俺が弱い」と肩を落とした。来場所、関脇で10勝すればすぐ大関に戻れるが、「しっかり休んで、今は何も考えない。負けた方が弱い。勝った方が強い」。早々に引き揚げていった。
◇貴景勝にも求められる「安定感」
大関かど番が、2場所続けて負け越したら転落する現行制度になった1969年名古屋場所以降、かど番大関が7勝7敗で千秋楽を迎え、大関とりの力士と対戦した例は2006年春場所の魁皇-白鵬戦しかない。だが、この時は白鵬がすでに13勝を挙げて昇進を確実にしており、シリアスな「入れ替え戦」とは言えなかった。現に魁皇が勝ち越して大関を守り、白鵬も昇進。「めでたし、めでたし」で終わっている。
栃ノ心の師匠、春日野親方(元関脇栃乃和歌)はこの朝、「あとは気持ちだけ」と声を掛けたという。貴景勝には過去1勝5敗と合い口が悪い。「簡単につかまえにいくなよ、とは言ったんだけどね」と師匠。
右膝の大けがを克服し、昨年夏場所後に大関へ昇進した栃ノ心。しかしその後もけがが続き、大関5場所目で2度目のかど番だった。横綱の可能性も期待されただけに、こんなに早い転落は誰が予想しただろう。師匠は「大関になるということはエネルギーが要る。いろんな無理が蓄積されていたんだろう」とおもんぱかり、来場所以降の復帰に期待を込めた。
27日に昇進が正式に決まる貴景勝はこの3場所、小結で13勝の優勝、新関脇で11勝、そして今場所は10勝。2横綱不在場所の優勝の評価や、三役経験が浅いことなどから昇進に異論もあったが、今場所も1横綱2大関を倒した。特に13日目に高安、この日栃ノ心を圧倒した相撲は慎重論を封じる内容だった。
ただ、栃ノ心の前にも短期間で転落した大関がいるように、貴景勝もまずは大関として安定した成績を残すことが最大かつ難しい目標になる。とりわけ突き押し相撲はハイリスク・ハイリターン。今場所も勝った相撲と負けた相撲の違いがはっきりしていた。
北勝海のように過去に突き押しで横綱・大関になった力士は、多少なりと四つでも取れたが、貴景勝はこれからも「まわしを取らずに突き押しで、気持ちで取る力士になりたい」という。子どもの頃から自分の体格、骨格を生かすことを考え抜いてきた。さらに自分の相撲を磨き、昭和と平成になかった大関像をつくり出せるか。見る方もつらい一番ではあったが、大相撲ファンにとって、新時代の楽しみができた。(時事ドットコム編集部)
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最終更新:3/25(月) 0:09
時事通信
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大相撲春場所千秋楽(24日、エディオンアリーナ大阪)、平成最後の土俵に勝負の厳しさを刻み込む一番があった。7勝7敗のかど番大関栃ノ心と、大関昇進を懸ける関脇貴景勝。結果は貴景勝が会心の相撲で大関昇進を手繰り寄せ、栃ノ心は関脇への転落が決定。明暗があまりにもくっきりと分かれた。
栃ノ心が負ければ大関から転落することは決まっているが、貴景勝の昇進について、取組前の阿武松審判部長(元関脇益荒雄)は「きょうの相撲を見ないわけにいきませんね」と語り、「終わってから」を繰り返しただけ。勝って10勝すれば昇進などとは口にせず、厳密に言えば事前に決められた「入れ替え戦」ではなかった。
しかし、関係者も観客もすっかりそのつもりで目を凝らした土俵上。勝負はあっけなかった。貴景勝が頭で当たり勝って跳ね飛ばし、栃ノ心の厚い胸板へ強烈な二の矢の突き押し。まともに受けた栃ノ心は、なすすべなく押し出され、土俵下へ落ちた。
西の支度部屋。まだ審判部が大関昇進を審議するための臨時理事会招集を八角理事長(元横綱北勝海)に要請する前から、貴景勝を取り囲む記者たちは昇進ムード。
本人も「わんぱく相撲でも体の大きな人たちの中でやってきて、自分は体が小さくて、優勝とかできなかったけど、何とか自分の体を武器にしてやれる相撲を目指してやってきたことを思い出した。初めて相撲部屋に入った時、幕内力士を見て、こんなところでやっていけるのかと思ったけど、諦めずにやってきて良かった」と、喜びと安ど感に浸った。
その頃の東支度部屋。栃ノ心は「(立ち合いに)もう駄目だと思った。俺が弱い」と肩を落とした。来場所、関脇で10勝すればすぐ大関に戻れるが、「しっかり休んで、今は何も考えない。負けた方が弱い。勝った方が強い」。早々に引き揚げていった。
◇貴景勝にも求められる「安定感」
大関かど番が、2場所続けて負け越したら転落する現行制度になった1969年名古屋場所以降、かど番大関が7勝7敗で千秋楽を迎え、大関とりの力士と対戦した例は2006年春場所の魁皇-白鵬戦しかない。だが、この時は白鵬がすでに13勝を挙げて昇進を確実にしており、シリアスな「入れ替え戦」とは言えなかった。現に魁皇が勝ち越して大関を守り、白鵬も昇進。「めでたし、めでたし」で終わっている。
栃ノ心の師匠、春日野親方(元関脇栃乃和歌)はこの朝、「あとは気持ちだけ」と声を掛けたという。貴景勝には過去1勝5敗と合い口が悪い。「簡単につかまえにいくなよ、とは言ったんだけどね」と師匠。
右膝の大けがを克服し、昨年夏場所後に大関へ昇進した栃ノ心。しかしその後もけがが続き、大関5場所目で2度目のかど番だった。横綱の可能性も期待されただけに、こんなに早い転落は誰が予想しただろう。師匠は「大関になるということはエネルギーが要る。いろんな無理が蓄積されていたんだろう」とおもんぱかり、来場所以降の復帰に期待を込めた。
27日に昇進が正式に決まる貴景勝はこの3場所、小結で13勝の優勝、新関脇で11勝、そして今場所は10勝。2横綱不在場所の優勝の評価や、三役経験が浅いことなどから昇進に異論もあったが、今場所も1横綱2大関を倒した。特に13日目に高安、この日栃ノ心を圧倒した相撲は慎重論を封じる内容だった。
ただ、栃ノ心の前にも短期間で転落した大関がいるように、貴景勝もまずは大関として安定した成績を残すことが最大かつ難しい目標になる。とりわけ突き押し相撲はハイリスク・ハイリターン。今場所も勝った相撲と負けた相撲の違いがはっきりしていた。
北勝海のように過去に突き押しで横綱・大関になった力士は、多少なりと四つでも取れたが、貴景勝はこれからも「まわしを取らずに突き押しで、気持ちで取る力士になりたい」という。子どもの頃から自分の体格、骨格を生かすことを考え抜いてきた。さらに自分の相撲を磨き、昭和と平成になかった大関像をつくり出せるか。見る方もつらい一番ではあったが、大相撲ファンにとって、新時代の楽しみができた。(時事ドットコム編集部)
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最終更新:3/25(月) 0:09
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