Bangkok Traffic Love Story

タイで洗濯屋に出したワイシャツを広げるとあの懐かしい洗剤の匂いが部屋中に広がり、日本の狭い住宅の路地に侵入していく。昨日はタクシンの不正蓄財の判決日だったが、ここでは当たり前のように誰も興味がなくアジアの株式指標でもタイのSETインデックスは無視される。春節で中国人やタイの金持ちが銀座で衝動買いしながら闊歩する状況にも、何も疑問も持たずに就活に走る日本人の若者達。まるで他の次元のような勤勉さでトヨタ社長の公聴会の様子を眺める。

ジョニー・デップの「アリゾナ・ドリーム」を深夜観ていたら恐ろしく寂寞感に見舞われ、キャデラックがプリウスとダブって映って豊田章男社長に宙を泳ぐ魚が見えている気がしてまたこれも怖くなった。自殺願望の娘はアメリカの良心で、夫を誤殺した義母は権力のメタファーでキャデラックどころか20年後の経済危機でGMもフォードも売れなくなってしまった。

こうした死にたくなる深刻な寂しさを表面的にでも癒してくれるのはタイスパ映画。「Bangkok Traffic Love Story 」は「電車男」のようなオタク男が主演でなく、チャイニーズの
普通のOL。そして大江戸線を逆転したようなホームまでひたすら階段を上らなくてはいけないBTS(バンコク高架鉄道)の走行距離は「東京モノレール」と「ゆりかもめ」と合したくらいの代物だが、タイにとってはこの地域の発展と繁栄の象徴、そして都会生活者の女性にとってゲイではない本物の男性（マシーン）に乗るということだろう。

華僑系タイ人のアラ30～50代の独身女性って学歴も高く優秀で身持ちも固く、育ちも良くでも彼氏なしってごく当たり前でどこにでもいる。つまり主人公のように処女のまま世間の荒波に揉まれることなく、学生時代の生活習慣のまま老いるということ。そんなハズはないと思っていたが、考えてみれば接触の機会が驚くほど少なく「彼氏がいないと」嘆く国立大学の日本語学科出身の美人OL達とは驚くほど話が続くかない。

主人公の実家もバイク販売業でタイではまあまあの暮らしぶりで、娘も生活のためではなく社会経験という感じで働きに出ている都会の余裕派。子供の一人や二人、空いている部屋で住んでくれた方が便利という居住環境だし、大家族の方がセキュリティ面でも安心できるのでなんとなく一人という感じ。特に婚活をしても、教養の高い男はゲイばかりだし、大学の同級生の良家の男達は外国に行って帰って来ないで映画のような技術系王子様が見つかるわけもない。

こういう日常生活の垂れ流し映画にどういう意味を見いだすのかいつも疑問。つまり作品としての臍がなくてダラダラ。つまり「電車男」のようなサブカルを生み出せるだけのキャッシュ不足を感じるが、それで不具合もなく幸せに過ごせるならそれに越したことはない。と、こちらも偉そうなことを言える身分でもなくダラダラと人生を消費する。バンコクでは寺山修司のようにこういう女性や少女のスカートの中をのぞき見したいとはついぞ思わず、特に華僑の娘のスカートの中に永遠も宇宙もなく迷わないで目的を貫徹するかというと、そうでもなくどうしようもない永遠の闇に向かっていかがわしい場所で破片の残り少ない人生をかき集めにイザ、アリゾナへ！
https://www.youtube.com/watch?v=bESUrkXDkzM