マム・ディオ

地方から叔母の留守番をかねて中国語を勉強する冴えない中年男、マムのもとに「父」と呼ぶ不思議な子供が現れ、中年男と美人中国語教師との前世コンタクトがはじまるファミリー・ファンタジー映画。（マム・ディオというのはマム氏の孤軍奮闘に近い意味？）

冒頭のタクシーの運転手のように高速道路でも夢中になって後ろを向いて話し込む例はたくさんあるが、何のメタファーなのだろうか。ただ発展しているフリをしているバンコクの風景を映像の補正処理でファンタジーに浮き上がらせるのは勝手だし、着いた豪邸だって集合住宅だったらザラにあるが、いつも本棚ないし、一冊も手元に見当たらないのは不思議。

バンコキアンはまるで古代ローマ市民のように特権階級で金持ちばかりといわんばかりにヨーロッパの公園のような都市を演出し、地方からの「遅れたマザコン中年の夢と希望」をやたらに喚起させる。いつもの空想上というオブラートに包み、一市民が手の届かないようなドイツ系美人女優を絡ませ、いかにも上から目線のスクリプト手法にいつまで人民は黙っていられるのか…夢物語を現実にしたマムに質問してみたい。

つまり、こういう宝くじ的デファルトはウンザリだし、もう少し現実的な生活サポートと改革を訴える赤シャツ軍団が地方で支持を拡大しているのは当然のことかも知れないし、親国王派にとってはクーデターや司法まで歪めて時計の針を戻したのにいまさら後には引けない。タクシンが仮に復権するような事態になれば、今度は自分たちの将来がシャーのような僕として投獄・追放されるのは本人達が一番わかっていることだけに、目立たない内戦は続く。

新旧の政治的対立はこの映画の輪廻転生や、犬の兄弟といったベースラインのようにどうでも興味がないが、悪の中枢復権により巨額な資金が裏社会に吸い込まれ、子供達の教育の機会を損ねているのは許せない。この点でも天才実業政治家であるタクシンは自分のわずかばかりのポケットマネーで奨学金を与えて支持率で官僚主導による赤字国債に頼るアピシット首相を抜いた。

まるでデフの支配する「Back to Future続編」のような荒廃した風景は国や企業に守られた外国人の目には映らないし、体をまるめ遠慮がちに「子供たちに夢と教育資金を」とそれだけ小さく囁くのは私だけだろうか。