先生のお宅は、私の家から電車を乗り継いで1時間ちょっとのところにある。
先生がお亡くなりになった後も、教場はお家の方のご厚意でまだ開かれている。
でもここのところ世の情勢もあり休みにしている日が多い。私の足も遠退いている。
大きな駅に挟まれているのにそこだけ落ち着いた感じの駅が最寄駅だ。
ひとつしかない改札を出るとすぐ右に大学があり、大きな樹が繁っているのが見える。
ここの大学に友人の息子さんが在学していたことがあった。
その美大時代の友人がバザーにアクセサリーを作って売るというので、稽古のついでに行ったことがある。
煉瓦造の校門を入ってその会場までが遠かった。敷地の広さと樹々の多さに驚いた。
バザーは人でごった返していた。ふたことみこと友人に声を掛けた後ひとつ買って学校を出た。
ところで先生のお宅に行くには、改札を出て大学と反対側の商店街を歩いて行く。
以前は商店街の歩道が長いアーケードになっていた。雨の日は助かった。
雨の日の稽古の帰り道、先輩たちと連れ立って歩いている光景が記憶に強く残っている。
降っていない日の方が多くあったはずなのに、と思う。
長い間に店の建て替えがあり、そのつどそこだけ雨除けのアーケードが無くなっていった。
そして最後に歩道を広げる工事と共にアーケードは全て無くなった。
駅近くに大きなケーキ屋もあった。稽古の帰りにたまに寄った。
フランスから材料を仕入れてくると言っていた額屋もあった。店の外装もフランス風だったのかオシャレだった。
店自体が手頃な骨董品のような雰囲気だった古本屋も数年前に無くなった。
駅近くで私が稽古に通い始めた頃からずっと有るのは、銀行と本屋と高価な日本の骨董を扱っている店と和菓子屋くらいだろうか。
そんな道をしばらく歩いて、花屋の手前で左に折れる。この花屋は昔からある大きな店だ。
道は細く、ちょっと行くと車も入れなくなる。先生のお宅はそこからすぐのところにある。