Vばら 

ある少女漫画を元に、エッセーと創作を書きました。原作者様および出版社とは一切関係はありません。

3部作 その1 ブラディ・マリー part3

2014-05-09 22:19:59 | SS お酒のある風景
part2の続きを書いてみました。

 フェルゼンは、一方的に自分の思いをぶつけてしまったことに気づいた。そして顔を横に向けてしまったオスカルが気になり、声をかけた。
「オスカル、どうした?何かあったのか?」オスカルはしばらく黙っていた。心の中は揺れていた。ここにいるのはフェルゼンと自分だけ。いっそ、いっそ「私のことも見てほしい。」と言ってしまおうか。
「もし---もし---あのオペラ座の仮面舞踏会の夜、私が軍人としてではなく、普通の女性として君の前に現れていたら、どうなっていただろう?」か細い声でそう言うとオスカルは下を向いた。涙が膝に落ちた。
「オスカル、それは---。」
「ああフェルゼン、いまさら言ってみても始まらないことは、よくわかっている。でも---」オスカルはフェルゼンのほうを向き、彼の手に触れた。「フェルゼン、すまない。でも---今日だけはこうして手を握ってもいいか?」フェルゼンはオスカルの女心を知った。そうだったのか。けれどどうすることもできない。
「ああ、いいとも。オスカル、だが本当にすまないが、私の心はもう王妃さまに定まっている。おまえの気持ちに応えることができなくて申し訳ない。」
「フェルゼン!」そう言うなり、オスカルは顔をフェルゼンの胸に埋めた。フェルゼンは幼子を抱くように、そっとオスカルの肩に手を回した。
「今だけは、君の胸でこうして泣いてもいいか?」
「ああ、いいとも。ここには今、俺とおまえしかいない。」
「取り乱してすまない。でも今はこうしていたい。」

 男性の胸に顔を埋め、男性の手が自分の肩を抱く。それはオスカルにとって初めての経験。けれど相手の心は自分には向いていない。しかし今フェルゼンが強引に自分を奪っても、決して後悔しないだろう。だけど---彼はそんなことはしない人だ。でも---もしかしたら---。

「フェルゼン、私を抱いてくれないか?」
「オスカル、何を言う?俺は君ととそんな関係になりたくない。君は私がこのフランスで得たたった一人の親友だ。この絆は断ちたくない。さぁ、しばらくこうしているから、もう二度とこんなことは言わないでくれ。」そう言いながら実はフェルゼンも、必死に本能と理性のせめぎ合いに苦しんでいた。あんな美しい青い目で自分をまっすぐに見つめ「抱いて」などと言われたら、どんな男だってクラっと来てしまう。だが絶対に彼女とそういう関係になってはいけないのだ。男は愛情がなくても女を抱ける。けれどそれでは、オスカルの心を傷つけることになる。フェルゼンも必死に自分と戦っていた。


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