Vばら 

ある少女漫画を元に、エッセーと創作を書きました。原作者様および出版社とは一切関係はありません。

SS アランの想い

2014-10-13 23:05:16 | SS隊長と従卒

 秋も深まった10月の早朝、夜勤が明けて帰り仕度をするアランは、同じく夜勤を終え司令官室に向かうアンドレに声をかけた。 

「よう、アンドレ。お前これからお屋敷に戻って、何をするんだ?よかったら、たまには俺と付き合わないか?いい店を知っているんだ。」

「悪いな、アラン。帰ったら旦那さまに頼まれている用事があるんだ。すまない。」

「お前はここでは隊長の従卒として任務を果たし、お屋敷に戻れば将軍の一召使として働いて---。いったいいつ休んでいるのだ?」

「あはは、アラン。昔からずっとこうだったから、慣れている。俺は早くに親父とおふくろを亡くしたから、ばあちゃんしか身寄りのない俺を引き取り、ヴェルサイユ宮殿にも出入りできるまでに躾けてくれた将軍と奥さまには、心から感謝している。」

「確かにな。けれどお前は、これから先もずっとこんなふうに生きていくつもりなのか?」

「アラン、お前から見ると滑稽かもしれないが、俺は一生オスカルのそばに寄り添い、命を賭けてあいつを守り通したい。たとえどんな事態がフランスに起きようとも---。」 

 なんて男だ、アンドレは。優しい顔立ちをしているのに、心の中は隊長への熱い想いにあふれ、己の命を差し出しても惜しくないと言い切ってしまう--。おい、アンドレ、実は俺も隊長のことが----。いや、それは言うまい。アンドレ、お前は隊長にもしものことがあったら、生きていられないだろう。隊長を守りきれなかったときは、自分を責めるだろう。おまえがそれほどまで隊長に想いを寄せるのが、最近俺にもわかるようになってきた。

  衛兵隊に転属してきた当初こそ、俺は隊長に猛反発した。貴族が何だ!女の命令なんて聞けるか!女の下で働くなんてまっぴらだ。ごろつきの集まりかもしれないが、そこまで俺たち衛兵隊員は落ちぶれていない----そう思っていた。だが隊長は違った。俺たちの多くが平民であるにもかかわらず、そんなことはまったく意に介さないかのように心を開いてくれた。対等に話しかけてくれた。俺たちや家族のことを親身になって心配してくれた。そして---アンドレには言いにくいがここ最近、隊長は軍服を着ていながらも、どこか俺たち男を虜にせずにはいられない色気(ああ、こんな言葉は使いたくはないが)のようなものを発している。もちろん隊長は気づいていないだろうが--。隊長のそばを通り過ぎる時、女性特有のかぐわしい香りがほのかに漂う。それは香油や香水ではない。隊長は誰かに恋をしているのだろうか?ちょっと気を緩めると、俺は隊長をこの腕に抱きしめ、くちづけしたくなる衝動に駆られる。男ならきっと誰だってそう思うだろう。

 俺だってこの年になるまで、人並みに恋愛をしたし悩み傷ついた。戯れの恋もあった。娼婦を抱いたこともある。隊長への想いは、これまでの恋愛感情とはどこか違う。妹を除いて「命を賭けても惜しくない」と思える女には、これまで出会えなかった。そんな俺がアンドレと同じく、隊長のためなら自分の命に換えてもいいと思えるようになった。不思議だ。こんなこと、誰にも言えないが---。俺よりも年上の女性(ひと)。だがいとおしくてたまらない。

  隊長、あなたを守りたいと思っている男がいます。あなたは絶対に死んではいけない。このフランスには、今こそあなたのような人が必要です。そして俺の人生にもあなたが必要なのです。そのために、俺はあなたと共に闘います。



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