176-年11月のある昼下がり、ジャルジェ家の長女オルタンスは自分の部屋に5人の妹たちを全員集め、今年のノエルについて相談を持ちかけた。
16才になったオルタンスは、年が明ければド・ラ・ローランシー伯爵のもとに嫁ぐことが決まっていた。今年の12月25日はジャルジェ家で迎える最後のノエル。オルタンスは一生の思い出に残る日にしたいと考えていた。そこで妹たちを集め、自分の想いを率直に伝えることに決めた。
1つの部屋に6人の少女が集まると、何とも賑やか。オルタンスを中心にぐるりと円を描くように座ると、相手の髪の毛を梳いて弄んだり引っ張ってみたり、人形の着せ替えごっこをしたりとなかなかオルタンスの話を静かに聞こうとする気配を見せない。しびれを切らしたオルタンスが、ついに口火を切った。
「ねえ、みんなに相談があるの。」
「なあにお姉さま。何か面白いこと?」
姉妹の中で一番ませた口をきくヴィクトワールが、聞き返した。
「私がこうしてみんなと一緒にノエルを迎えるのは今年で最後。」
「わかっているわよ、お姉さま。だからみんなで楽しく過ごしましょうね。」ジョセフィーヌが応える。
「楽しく---、そうね、楽しくね。考えたのだけど、6人全員でクレッシュ(=イエス・キリストが誕生した場面を再現した模型)を演じたらどうかと思うの?」
「クレッシュ?」
「そう。毎年、客間に飾られているお人形よ。家畜小屋でお生まれになったイエスさまを、マリアさまやヨゼフ、東方の三博士が祝福している像を知っているでしょ。」
「ああ、あれね。もちろん知っているわ。あれをどうするっていうの?」
ちょっと意地悪そうな顔で、ヴィクトワールが聞き返す。
「私が語り役をするから、みんなでお芝居をするの。オスカル、あなたはイエスさまの役---」
「えっ!」
「だってあなたは12月25日生まれ。あなたほどイエスさまの役にぴったりな人は他にいないわ。ジョセフィーヌ、あなたは聖母マリアさまよ。」
「私がマリアさま!?」
「そう。」
「カトリーヌにはヨゼフをやってほしいの。」
「男役?」
「仕方がないわ、うちは女ばかりだから。」
「で、私は何の役?」
上目遣いでヴィクトワールが尋ねる。
「あなたはクラブサンを弾くのがとても上手だから、私の語りとみんなのお芝居に合わせて、ノエルにぴったりの曲を弾いてほしいの。」
「演じなくていいのね。」
「私は天使をやりたいわ。いいでしょ?」
オルタンスより先回りして、クロティルドが切り出した。
「わかったわ、クロティルド。あなたならきっと可愛い天使になれるはず。」
「うふふ。」
「それから---私たちだけだとどうしても人が足りないの。だからアンドレに頼んで、東方の三博士の一人になってもらおうと思うの。どう思う?」
「アンドレ?」
「そう、アンドレ。あの子頭がいいから、ちゃんとセリフを覚え、きっとうまく演じることができると思うわ。」
「賛成。」
真っ先に声をあげたのはオスカルだった。
「姉上、ぜひアンドレを仲間に入れてやってください。お願いします。」
「みんな、いいかしら?」
反対する者は一人もいなかった。
「私ね、クレッシュの劇でお父さまとお母さまを驚かせたいの。だからこのことは内緒よ。カトリーヌ、秘密を守れるわね?」
「大丈夫よ、お姉さま。絶対に誰にも言わないから。」
「ただばあやだけには伝えておこうと思うの。アンドレのこともあるし、ばあやにはいろいろ助けてもらいたいことがあるから。衣装をどうするかとか----。」
「何だか今年のノエルは楽しくなりそう。」ジョセフィーヌが浮き浮きとした表情で微笑んだ。
「ちょっとまとめてみるわ。」
オルタンスは紙に、それぞれの役を書き出した。
オルタンス:語り手
ジョセフィーヌ:聖母マリア
カトリーヌ:ヨゼフ
ヴィクトワール:クラブサンの演奏
オスカル:キリスト
クロティルド:天使
アンドレ:東方の三博士
「あともう二人博士が欲しいけれど---。まあ、これでいいわ。あまり大勢いると、秘密が守れなくなるから。来週からノエルまで、毎日私の部屋で練習を始めるけれど、いいわね?それまでに台本を書いておくから。」
「今年のアドベントは、みんなで歌やお芝居のレッスンをすることね。どんな曲を弾こうかな?ミリアム先生に相談してみよう。」
「ヴィクトワール、くれぐれも秘密を洩らさないようにね。」
「大丈夫よ、お姉さま。」
「今日の話し合いはここまで。みんな、ありがとうね。オスカル、これから私と一緒にばあやのところに行きましょう。」
「わかりました。」
オスカルはオルタンスと共に、厨房で夕食用の野菜の下ごしらえをしているばあやのもとに向かった。
ちょうどアンドレもばあやの隣で、玉ねぎの皮をむいているところだった。
「ばあや、ちょっと今、お話してもいい?」
「なんでしょう、オルタンスさま?」
「今年のノエルのことなんだけど----」
オルタンスはさっき妹たちに打ち明けたノエルの計画を、ばあやにも話した。
「アンドレを---。本当にいいんですか、この子で?お役に立てるのならぜひ使ってやってください。アンドレ、くれぐれも失礼のないようにね。お前の登場でお芝居がダメになっても、あたしゃ知らないよ。それからクレッシュの練習をするからといって、お屋敷内のお仕事をおろそかにしないこと。これは守らなければ、あたしゃお前をオルタンスさまたちのところへ行かせないからね。」
「わかったよ、おばあちゃん。仕事もちゃんとやるから。」
「ばあや、アンドレなら絶対に大丈夫。私がついているから。」
「まあ、オスカルさままで---。もしこの子がお嬢さまたちに何か失礼なことをしたら、遠慮なく叱ってくださいまし。叩いてもかまいませんから。」
「それでね、ばあや、ここにこうしてわざわざお願いに来たのはアンドレことだけでなく、私たちの衣装や小道具についても、相談に乗ってほしいの。」
「私でよければ、お嬢さまがたのために、何でも力をお貸ししますよ。特にオルタンスさまにとって、このお屋敷で迎える最後のノエルですから。」
「ありがとう、ばあや。それからこのことはお父さまとお母さまには、絶対に内緒にしておいてね。」
「心得ました。」
「アンドレ、来週から一緒に練習するから、そのつもりでね。」
「はい。」
まるで姉のように優しいまなざしで、アンドレに話しかけるオルタンス。アンドレは嬉しいやら恥ずかしいやらで、ちょっぴり頬を赤らめた。額にはうっすら汗がにじんでいた。
「じゃあ、アンドレ。あとで剣の稽古をするから、庭に来て。」
「わかった。」
オルタンスとオスカルは、厨房を出た。
賑やかな姉妹のおしゃべりが聞こえてくるような気がいたしました。 男の子として育てられているオスカル様もちゃんと姉妹の輪の中に居て・・
本当に微笑ましい光景です。 ほおを染めるアンドレ坊やも可愛い! 心が暖かくなったきがします。
素敵なお話のはじまりですね。
オスカルさま、お誕生日おめでとうございます。
そして、Joyeux Noël
原作では5人の姉たちとオスカルのかかわる場面がまったくありません。かろうじて新作エピソード6で、オスカルが生まれる直前、母ジョルジェットの周囲を取り囲んで、楽しそうにきゃっきゃっしているシーンがあるのみです。オスカルは子どもの頃、姉たちとどんなノエルを過ごしただろうと想いながら書き始めました。読んでいただけて、嬉しいです。
今頃、オスカルとアンドレは水入らずで、ノエルと誕生日を祝っているでしょうか?マイエルリンクさまは、どのようなノエルをお過ごしですか?
我が家は手作り料理と手作りケーキでささやかなディナーを家族でしました。
ノエルに可愛らしいSSをありがとうございます!
姉妹の関わりは、原作ではありませんでしたものね。多分けんかもありつつ、でも仲の良い、楽しげな様子もわかる、原作に織り込まれていてもおかしくないようなお話でした。
新エピソードは、なんとも言えませんね。
後編を待ちたいですね。
先ほどドアのリースもはずし、今年のXmasも終わりです。
明日からは、一気にお正月モードですね。
忘年会、無事終わりました。休日を利用して景品を買ったり、ゲームに必要な道具を用意したりと慌ただしく過ごしていました。帰宅したら、疲れが出たのか、しばらくうたた寝してしまいました。
SS,読んでいただきどうもありがとうございます。子どもの作文のような書き方ですが、頭の中に映画「サウンド オブ ミュージック」をイメージしながら、ストーリーを考えました。
>新エピソードは、なんとも言えませんね。
後編を待ちたいですね。
そうなんですよね。後編を読まないと、今はまだ何とも言えません。あの謎の女性の正体もまだはっきりしませんし。(オスカルの女性としての本音を表しているのでしょうか?それにしては少々怖い感じもしますが--)
>先ほどドアのリースもはずし、今年のXmasも終わりです。明日からは、一気にお正月モードですね。
わずか1週間足らずの間に、街の飾り付けが一気に変わります。marineさま、新年に向け、大掃除等をなさっていますか?2015年も過ぎてみると、あっという間でした。
常々大掃除などせずとも良いように、日々の掃除をコツコツ丁寧に…なんて理想です。どうしても行き届かない所が多々ありますね。
今朝は早くから娘の部活の引率を引き受けたので(といっても近隣の学校まで道中後ろから徒歩で見守るだけですが)、朝からいい運動になりました。
「あさがきた」、昨日はハラハラ(ドキドキ)しましたが、今日はあさの持ち前の明るさで五代さんを上手くあしらい、ホッとしました。うめも戻ってきましたし(ほんと、厳しく優しいばあやのようです)。
来週はお休みだそうで、なんとも寂しいです。
marineさまの書き込みを読み、私もリースを外して、しまいました。(書き込みがなければ、そのまま飾り続けていたかもしれません。)オスカルは、自ら掃除をしたことがあったでしょうか?お屋敷では侍女たちが、近衛隊ではアンドレや側近?たちが、身の回りの世話をしてくれたことでしょう。特にアンドレは、オスカルが気持ちよく職務に専念できるよう、司令官室を清潔に、机上整理を怠らなかったのではないでしょうか?(ついでに自分のお着替えもして、オスカルに見つかってしまいましたが---)
marineさまのおかげで、毎日「あさが来た」を楽しませていただいてます。先週でしたか、女中のお冬ちゃんが「私は6人姉妹で育ったから、お兄さんに憧れる。」みたいなことを言っていました。おもわず「それってジャルジェ家だ!」と思いました。絶対に原案もしくは脚本担当の方は、ベルばらファンだと睨んでいます。次回放送は1月4日から。舞台はまた大阪に戻りますね。
今日は用事で銀座へ出かけましたがお正月モードでしたね。
23日は朝から、お客様をお招きするのに手作り料理を沢山作り(普段は手抜きばかりなので慣れないことをしたら)たいそう疲れてしまい40分の生演奏もあったため、24・25日はグッタリしながら出社し、やっとお休みに入りました。
23日に、ピアノの下に積んであったベルばらトイレットペーパーをお客様が見つけてしまいファンであることを告げたところ、意外な回答でした。「最初のうちは華やかな宮廷生活の物語でいいのだけれど段々と革命の火の手が上がって主要登場人物が皆死んでしまうから悲しくて後半はイマイチ...。」みたいなことを仰られて...(・・?
「えっ、歴史の怒涛のうねりの中で己の信念を貫いた生き様と人間愛に感動した後半こそ壮大で素晴らしい構成になっているのになぁ~」と、観点の違いに少し驚きましたが人それぞれですので。
今年6月からアニばら再放送を機に12年ぶりに再燃したベル熱により、りらさまのブログに出会ったことで沢山の興味深い情報や記事を提供して頂きました。お陰様で歴史漫画展にも行くことが出来ましたしmarineさまともピアノ関連のお話等をさせて頂けましたこと、大変ありがたい半年間だったと思っております。
私は、(他の皆様のように)ヨーロッパの文化や歴史に関する知識もさほどないため稚拙なコメントばかりでお恥ずかしいのですが、今後も時々お仲間入りをさせていただけましたら嬉しいです。
りらさま、どうぞお身体を大切にされて良いお年をお迎えくださいませ。
そして気力・体力の許す限り、ごゆるりと素敵なブログをお続け頂けましたらとても嬉しいです(*^-^*)
>お冬ちゃんの「6人姉妹で育ったから・・・」という台詞で全く同じことを考えましたよ!
まいさまもそう考えましたか!お仲間ですね。これからもちょこちょこ、「ベルばら」を彷彿させる台詞が飛び出すかもしれません。
>手作り料理を沢山作り、たいそう疲れてしまい40分の生演奏もあったため
23日は「まいさま、どんなホームパーティをされているかなぁ?」と思っていました。40分の生演奏で、何曲弾かれましたか?この時期ならではの曲もお弾きになりましたか?手そして指は、思う通りに動いてくれましたか?
>ピアノの下に積んであったベルばらトイレットペーパーをお客様が見つけてしまいファンであることを告げたところ
まいさま、「ベルばら」のトイレットペーパーをお使いですか?畏れ多くて、使うのがためらわれませんか?次から次と、いろんなグッズが発表されますね。そしてお客さまの「ベルばら」観は、まさに人それぞれ。私はオスカルとアンドレの死は、二人にとってあれ以上の人生の締めくくり方はないように思っています。二人とも見事に生き切った。
>今後も時々お仲間入りをさせていただけましたら嬉しいです
いつでも気兼ねなく、お話してください。長文も大歓迎です。まいさま、目の具合はいかがですか?来年はフランス行きが実現するといいですね。フランスそして世界情勢が安定することを願っています。(まいさま、5月30日の、鏡の間での仮装舞踏会に参加されてはいかがでしょう?)そんな夢を抱きながら、日々過ごすのも幸せですね。まいさまが必ずフランスに行けることを願っています。
こんなブログを読んでくださり、本当にありがとうございます。これからもどうかよろしくお願いいたします。