Vばら 

ある少女漫画を元に、エッセーと創作を書きました。原作者様および出版社とは一切関係はありません。

予言

2016-07-02 23:53:08 | つぶやき

 元黒い騎士のベルナールがオスカルの身を案じ、国外脱出を勧める場面は、わずか2ページあるかないかの短いシーンだけれど、とても密度の濃い会話を交わしていると読むたびに思う。

↓ アベイ牢獄からアランたち衛兵隊員を救い出す手はずを整えたあと、ベルナールは「オスカル・フランソワ」と彼女をミドルネーム付きで呼ぶ。西洋人は子どもを厳しく叱る時フルネームで呼ぶが、この場面でベルナールはオスカルにぜひ聞き入れてほしいことがあったため、敢えてミドルネームを添えて呼んだように思う。

「このフランスを立ち去って どこか外国へ行け できるだけ早いうちがいい」 

↓ 思いもかけないベルナールの言葉に、一瞬言葉を失うオスカル。すぐに「それは(どういうことだ)…!?」と聞き返すが、ベルナールは「外国へ行け 今はそれだけしか言えん」と言葉を濁す。賢いオスカルのこと、ベルナールが何を言いたかったかわかったはず。でもお互い敢えてそこは明言しない。本来ならベルナールは「オスカル、フランスの未来のために共に力を合わせて闘おう!」と言うべきところだが、彼はオスカルが革命の嵐に巻き込まれ、命を落とす事態だけは回避したかった。オスカルが自分たち市民の側についてくれたら心強い。けれどオスカルを戦いで失いたくない。そんな気持ちが「フランスを立ち去って どこか外国へ行け」に表れている。二人の間にしばし沈黙が流れる。ベルナールの願いは、娘を混沌とした国内情勢から、ジェローデルと結婚させることで安全な場所に逃してあげたいと望む、ジャルジェ将軍の気持ちに通じるものがある。ベルナールはかつて「王宮の飾り人形」と揶揄したオスカルを、今はかけがえのない大切な友だと思っている。この時アンドレは、どんな想いでこの場にいたのだろう?帰宅に向けて馬車の用意をするため、既にベルナールの家から出ていたかもしれない。

↓ すぐにオスカルは冷静さを取り戻し、「どういう意味かは知らんが このフランスに何かあるというのなら 私は祖国と心中するぞ」と切り返す。どういう意味かは知らんが…いや、意味はわかっている。近い将来、かつてない事態がフランスに起きるであろうことを。そのとき自分は貴族の身分を捨て、王家と対立するかもしれないことも。

 ベルナールの「オスカルを救いたい。」と願う気持ちと、祖国の危機から目をそらさず、きちんと現実と向き合おうとするオスカルの心情が短い場面から伝わってくる。1789年6月以降の描写は、どの場面も熱いメッセージに溢れている。

 読んでくださり、ありがとうございます。



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