今さら言うまでもないけれど、「ベルばら」の面白さの1つに、ノンフィクションとフィクションの見事な融合が挙げられる。アントワネットやフェルゼンなど実在した人物に、オスカルやアンドレなど架空の人物がごく自然に絡み、壮大なストーリーを展開。しかもまったく違和感がない。多くの熱心な読者は、オスカルもアンドレもまるで実際に存在したかのように感じているはず。
↓ 「ベルばら」の一場面。1773年6月8日、火曜日、晴れ。18歳の王太子と17歳の王太子妃が初めて首都パリを公式に訪問。若い夫妻を一目見ようと集まった群衆に、宮殿のバルコニーから手を振って応えるアントワネット。その後ろからオスカルが「妃殿下。妃殿下はただ今ここで妃殿下に恋している20万の人々を ご覧になっているのでございます。」と伝える。
オスカル、なかなか粋で洒落たことを言うなあ…昔からずっとそう思っていた。目の前にいる群衆をズバリ「20万人」と断言した頭脳は、日本野鳥の会の会員にもひけを取らない。この言葉はてっきり漫画のオリジナルだと信じていた。
↓ 実はこれ、当時のパリ軍管区司令官であったド・ブリザック元帥の言葉。軍管区司令官は、パリの守備について責任を負う歴史ある役職。下はド・ブリザック元帥の肖像画。
1698年生まれで1784年没。享年86歳。当時としては長生きしたと言える。王太子夫妻が初めてパリを公式訪問した時、彼は75歳。まるで孫夫婦を見るかのように、警護に当たっていただろう。彼の目にアントワネットはとても愛らしく映り、何とか彼女を喜ばせようと思い、上の言葉を言ったように思える。こんな気の利いたフレーズをさらりと言う人だから、他にもエスプリいっぱいのトークで、人々を和ませていたかもしれない。当時の王侯貴族の男性たちは恋愛において、いかにスマートに相手を口説くかが重要視されていたから、ド・ブリザック元帥はきっともてただろうな。おじいちゃんになってからは「シラノ・ド・ベルジュラック」のように、口下手な若者の恋を応援する役目を果たしていたかもしれない。彼の語録が残っていたら、きっと面白いだろう。そして彼の言葉を、オスカルの言葉に転化した池田先生もまたお見事!ブリザック元帥は天の国で、ニヤッとしている気がする。
読んでくださり、ありがとうございます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます