そういえば、麻里華ちゃんは兄妹で一番しっかりしていると言われているらしいから、帰郷を促されても当然だ。
こんな時、年上の彼氏として何か言いたいのだが、でも、突然の事に…何が言える?
どうにか、
「今どうしたらいいか出てこないけど、俺は麻里華ちゃんとは付き合っていきたいし、いずれは結婚も考えてた 」
「そうだったんだ…」
でも、と言う。
「やっぱりもう実現できない。オミさんに福岡で生活してもらうのも無理ですし、 私、自分でもがっかりするほど、家庭より仕事でのタイプだと思うから、オミさんと暮らしてもそうなると思うし。私の勝手でごめんなさい。 今日までありがとうございました 」
俺は固まってしまった。
とうとう出て出てしまった 恐れていた通りの結果…
カイも、麻里華ちゃんも、ジャパン・ホラー・アワードの出品も、俺にとって大事なものがすべて消えていく…そんな気がした。
「未練がましいようだけど、麻里華ちゃん、あの、こんなオジサンと付き合ってもらったんだから、責任を取りたいっていうのもあるんだ 」
「オミさん、もう私を困らせないで。 オミさんのことが好きだけど、 もう私決めたんです 」
そして一度 唇をかみしめると、
「なんかオミさんに捨てられる前で良かったなっていう気もして。
私 ずっと怖かった。私 スランプになって1日も早く復活しないと オミさんに嫌われると思って怖かった。私が一番仕事が上手くいってる時に オミさんと付き合うことになったから。
仕事ができなくなって軽蔑されてるかと思った。」
「そんなことないのに…」
すれ違いが悔しすぎた。
「でも…その…俺とは終わるとしても、工房は本当に閉めちゃうの?
それでいいの? 東京の空気に触れて色々勉強していたいっていうのはどうなるの? 」
「はい、工房は閉めます 」
彼女の言葉は潔かった。
「兄妹の中で東京に出してもらったのって 私だけだから、帰って家族に恩返ししたい…もう東京であったことは全て忘れます…経営の勉強だけは別ですけど 」
無理している笑顔が痛々しかった。
「麻里華ちゃん…」
俺はもう何と言っていいかわからなかった。
いきなり、こんなに早く別れが決まってしまうなんて。
そしてそれを認めてしまう自分がいるなんて。
「わかった。今まで色々、本当にありがとう 」
「本当にお世話になりました 」
いつものように家まで送ると言ったのだが、 麻里華ちゃんはいいと言った。
言われて気づいた。
確かにそうだろう。 別れ話の帰りの車なんて怖いよな。
「今、福岡から下の兄が来てくれてるんです 」
まりかちゃんは 弱々しく微笑んで教えてくれた。
「それじゃあ 元気でね 」
「はいオミさんもお体にお気をつけて」
タクシーで麻里華ちゃんは帰って行った。
未練がましく見えることはしたくなかったが、車が見えなくなるまで 俺はその姿をずっと目で追っていた…
家に帰ると、俺を待っていたらしくダイキが応接室のソファーに転がって寝ていた。
「ああ、オミさん おかえりなさい」
カイは、まだ帰ってきてはいなかった。
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