
後になって、とある旅をした時のことを思い出す時に、「あの風景、写真に撮りたかったなあ」と思う風景が頭に蘇る時がある。
私にとっては、そんな風景の一つが、長崎に旅した時に、飛行機の窓から見えた風景だ。
羽田から長崎行きの飛行機に乗って、運よく窓際の席をとれて。
少しまどろみ。
ふと目が覚めて、窓から下界を見た時に、眼下に思いがけないものが見えた。
それは・・大地に根差す、超巨大なフジツボだった。
そう、海辺の岩場にへばりついている、あのフジツボ。
だが、この時見えたのは、海辺のフジツボとはサイズが極端なくらい違う。
「な、なんだ、こりゃ??」と思わず絶句した私。
もしかして、富士山か?
と思ったが、どうも違うような気もした。
富士山のようでもあるが、富士山のようには見えなかった。
富士山とは思えなかった。
その時、機内にアナウンスが。
「ただいま、富士山の真上を飛行中です」とのお知らせ。
すると、あのウルトラ・フジツボは・・・やはり、富士山だったのだ。
雲がなくて、雲に何一つ遮られることのない富士山を、真上から見る・・そんな機会、そうそうあるもんじゃない。
地上から見る富士山は、山の稜線がなだらかである。
なので、なにやら穏やかな印象を人に与えてくれるが・・空高い位置から富士山を真上から眺めると、まさにフジツボにしか見えなかった。
これがあの富士山?? 嘘みたい・・。
火口が小さい穴で、山の形は思ったより痩せて見えた。
で、穏やかに見えた稜線も、真上から見ると、案外「急」で。
大地からいきなり急にニョキッと生えて盛り上がっているようなルックス。
富士山の周りが平らに見えた分だけ、なおさら。
あんな富士山の姿、初めて見た。
富士山にはファンが多く、富士山にこだわって写真を撮り続けているカメラマンはプロ・アマ問わずたくさんいる。
だが、大地に生えたフジツボのような容姿の富士山の写真は・・・少なくても私はあまり見たことがない。
いや、本当はあるのかもしれないが、実際に自分の目で見るその姿は、けっこう驚愕だった。
あの風景、写真に撮りたかった。
撮れなかったのが、くやまれてならない。
海辺の岩場に居るフジツボは、その「フジツボ」というネーミングは言い得て妙だと思った。
なにより、真上から見た富士山がフジツボそのものだったもの。
いわば、フジツボの親玉・・というより、フジツボの神様・・そんな感じだった。
それは見慣れた富士山とは違う容姿だった。
真上から見る富士山は、大地にニョキッと生えた、ウルトラ級のフジツボにして、トップオブフジツボ、フジツボの神様だった。
やはり・・撮って保存しておきたかった。
富士山には、こんなルックスもあるのだ・・ということで。
やはり、富士山は、さすが富士山。
色々な面を持っているのだ。
人を惹きつけるのも、分かる。
そのうち、セクシーな富士山なんてのも見てみたい。
富士山は休火山ということで、決して噴火をやめたわけではない。
いずれ噴火するのかもしれない。
思えば、ずいぶん前から、富士山の再噴火の可能性は語られてきている。
願わくば・・いつか再噴火しても、今のルックスをあまり損なわないでほしい。
日本人の子孫のためにも。
富士山を訪れる旅行者のためにも。
再噴火して、その形を大きく変えてしまうようなことになったら、悲しすぎる。
いつまでも、美人のままでいておくれ、富士山。
角度によってはフジツボ・・・そんなお茶目な面も持ち合わせて。