小坂 洋右著「<ルポ>原発はやめられる」に詳しいが、概略すると次のようになる。
まず、既に原発の稼働の停止あるいは廃棄を決めていた国
(1)日本と同じ地震国イタリヤは、1987年、原発そのものでなく(出典:今井一著「「原発」国民投票」)、
①地方自治体の承認がなくても、イタリヤ政府はどこの地域にも原発を建設できることを定めた法律を廃止すべきか?
②原発受け入れに同意した地方自治体にイタリヤ政府が補助金を交付するという法律を廃止すべきか?
③イタリヤが、国外の原発建設に参加することを廃止すべきか?
④裁判官の誤審追求を禁じている三つの条項を廃止すべきか?
⑤司法問題に関して国際調査委員会の権限を強化すべきか?
の五項目についての国民投票の結果、原発問題めぐる現行法の廃止等に賛成する割合が、①80.6%、②79.7%、③71.9%となり、政府のエネルギー政策の転換を迫る結果となった。
(イタリアの国民投票は、憲法の規定によるもので、提起に50万人の署名が必要で、投票の過半数が成立の条件ーーーなお、④、⑤がどうなったかも大変興味がある
これらが可能となれば、日本のデタラメ司法もなんとかなるかも。)
(2)オーストリアは、安全性、核燃料の処分場決定を巡って国民投票を実施し、50.47%の僅差で原発の稼働、建設を禁止していた。
(3)スエーデンは、約半分を原発に依存する状態だった1970年代、1979年の米国スリーマイル原発事故発生を契機に、1980年1月18日「原子力発電投票法」を制定、3月23日に国民投票を実施した。
①原発容認・現状維持
原子力発電は、国民の雇用と福祉を維持するのに必要な電力がまかなえるようになった時点で段階的に廃止する。新たな原発は作らない。また、安全性に問題があれば原発は稼動させない。
②条件付き原発容認案
①に加え、地域住民を加えた安全委員会を各原発に設ける等
③原発反対・廃止案
国民党票の結果、①18.9%、②39.1%、③38.6%、白票3.9%
この結果をもとに、2010年までに全廃を決定するが、その決定を撤回。しかし、2006年に一基の原発が電源喪失事故を起こし、10基中4基を停止。
福島の事故を契機として
(1)イタリヤ
産業界の「原発再開」を求める声に応じ、ベルルスコーニ政権は2009年に「原発協力に関する協定」をフランスと締結した。それに対し、国民投票の実施要求が起こり、2011年6月11日、12日に国民投票の実施することが決定した。その後、福島の事故が起こり、国民投票の実施を避けるために、ベルルスコーニ政権は各種の法律を制定して、不戦敗を画策したが、計画通り実施されることになった。その結果は、脱原発が94.05%と圧倒的多数となった。
(このときの投票には、テレビで流れる日本の映像が投票に大きく影響した模様。「日本人の犠牲に感謝する」と言われたとのこと。(出典;藤原章生著「資本主義の終わりの始まり」88頁))
(2)ドイツ
2011年4月4日、メルケル首相が「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」(報告書の訳はURLを参照)を招集する。
www5.sdp.or.jp/policy/policy/energy/data/toshin02.pdf www.jabes1993.org/.../EthicsCommission_full_translation.pdf
(メルケル首相は、また、事故の数日後、17基の原発のうち古い7基を止め、残りを安全審査に掛ける。一方、菅前首相は、浜岡原発の停止を要請したのみで、全原発50基が停止したのは定期検査のために停止した一年以上経過後の1012年5月5日である。)
2011年6月30日、二か月後に原発を廃止すべきとの提言を得て、2022年末をタイムリミットとする原発全廃を議決する。
ドイツの決定には、1989年の東西ドイツの統一に際し、東ドイツ側の計6基のソ連型原発の安全審査をして、一万五千人以上の原発労働者が失業になるのにもかかわらず、運転停止を決定したという伏線があった。
(3)スイス
原発依存度が50%近い中で、2011年5月、政府が2034年までに稼働中の5基全廃を決定する。
小坂氏の本を読み進むと、自然に涙が出る。ドイツの人々は、何にもまして人間の尊厳を重視している。具体的には、人間の尊厳を保つためには、個人個人がしっかりした意見、見解を持つことが要求されるのである。各人が、事実を隠すことなく開示して(従って、相手の尊厳を尊重して)、反対論者と対話し、上記のような決定に至ったのである。なお、人間の尊厳には、未来世代への責任も含まれるのである。
東電の幹部のように、行政官僚のように、あるいは、政治家のように、事実を隠蔽して、相手をだますことは、人間の尊厳を尊重する人のすべきことではない。