各種耐震設計審査指針を理解するためにもそれらの比較表(1/6~6/6)を作成した。
地震学、地震工学に素人の当ブロガーが標記指針に抱いた疑問を提示し、自ら、その疑問について解を求めるよう努めたい。素人の疑問は、運が良ければ、的を射ることもあるであろう。
4-2.耐震設計のその2ー基準地震動について(当ブログの対比表(2/6)参照)
標記指針の最も重要な部分で、これからが佳境である。主として、新指針(平成18年)および新規制基準(平成25年)について述べたい。
(1)原子力発電所が耐えなければならない基準地震動Ss
基準地震動は、「震源を特定して策定する地震動」および「震源を特定せず策定する地震動」」について、それぞれ解放基盤表面における水平方向鉛直方向の地震動として策定されていること。注1
基準地震動を策定する構造を下表に示す。
種別
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基準地震動の種類
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基準地震動の策定
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具体的策定方法
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旧指針(昭和56年)
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(断層等から想定可能な地震動)
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震源を特定する基準地震動
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敷地周辺の活断層の性質、過去及び現在の地震発生状況等を考慮(検討用地震)
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検討用地震ごとに、次に示す
i)の応答スぺクトルに基づく地震動評価及びii) の断層モデルを用いた手法
応答スペクトルについて超過確率を安全審査において参照する
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従来は、応答スペクトル法のみ
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(想定できない地震動)
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震源を特定しない基準地震動
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震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震。全ての申請において共通的に考慮すべき地震動と意味づけたものである。注1
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これらを基に敷地の地盤物性を加味した応答スぺクトルを設定。
応答スペクトルについて超過確率を安全審査において参照する
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直下地震としてマグニチュード6.5を採用
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(非常に想定が困難な巨大地震動)
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残余のリスク
注1
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施設の設計に当たっては、 策定された地震動を上回る地震動が生起する可能性に対して適切な考慮を払い、 基本設計の段階のみならず、 それ以降の段階も含めて、この「残余のリスク」の存在を十分認識・しっっ、それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が払われるべきである。と理念的に規定するのみ。
暫定的に、確率的地震安全評価を推奨している。
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これに相当する規定はなし
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また、基準地震動に係る審査フローは下図(注1)に示される。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/07/c2dfce9df954e70043bc66426ac48339.jpg)
注記1
基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド
https://www.nsr.go.jp/data/000050755.pdf
①旧指針(昭和56年)との大きな違いは、
・地震動を基準地震動Ssの一種類にしたこと。
・震源を特定できるか、特定できないかでその策定方法をそれぞれ定めたこと。
・「震源を特定せず策定する地震動」、即ち、震源が想定できない地震動(例えば、直下型地震動)について、その策定方法を定めたこと。
・巨大地震の発生を残余リスクとして基準地震動策定の一項目としたことである。
残余のリスクの評価手法が定着していないことから理念的規定になった。このような耐震基準に、日本人の命が掛かっているのである。
②地震動策定の基本的姿勢
a.地震動は、物理の法則の如く、一定の原理にしたがって、決定(策定)されるものでないことを心に止めたい。
少ない現実の地震動の計測値を何とか使いものになるようにまとめた評価手法(応答スペクトル、断層モデル手法)により決定されるのである。
しかも、当然であるが、原発が実際に受ける地震が評価手法通りになるとは限らないのである。また、原発設置許可申請時の推測地震動と、設置後の実際値のバックチェックは行われないのである。
さらに、当ブロガーが常々不思議に思うのは、なぜ、地震に弱いと推測される原子炉の各部分の、地震により実際に掛かる応力を、および相対変位が大きいであろう箇所間の相対変位を測定する計器を設置し、測定しないのかである。 測定することが、原子力発電のような巨大技術を利用する正しい態度ではないか。
b.当然のことながら、評価手法の元データが得られた観測地と原発の設置地とは地下構造が違うので、それを何とか補正して観測地のデータを使用している。
そこで補正上の不確かさが基礎データに入り込む。その補正の検証も事後に行われないのである。補正のために、「解放基盤表面」等の概念を用いているがその辺のことは割愛する。(一言、「解放基盤表面」とは、原発がその上に乗る面ではなく、仮想の面である。)
③震源を特定する地震動
a.震源をなんの疑いもなく活断層としている。活断層は、過去の地震の結果物と考えるのが正しい。
したがって、岩盤の上にあるからと言っても、その岩盤が引き裂かれ、原子力発電所が岩盤上でひっくり返らないという保証は無い。
そもそも地震国の日本に原発は設置できないのである。
b.活断層を後期更新世以降(約13万年前に始まる最終間氷期以降)の活動が否定できない断層と値切って、地震動の過小評価を意図している。
なお、新規制基準(平成25年)では、明確でない場合は中期更新世以降(約40万年前以降)まで遡るとする。
国土地理院は、(第四紀(260万年前以後)中に活動した証拠のある断層すべてを「活断層」と呼ぶこともあります)。と言う。
c.震源を特定せず策定する地震動とで、原発が耐えなければならない基準地震動を決定する。残余のリスクは、審査の対象とせず、確認事項とした。
応答スペクトル法、断層モデル法は、地震記録データのある地震に適合するように、統計的あるいはコンピュータ的に整理したものである。
したがって、今後、この手法では誤差が大きい地震の発生が生起しないという保証がなく、また、最大地震動を想定するものでなく、地震動のばらつきを提示するものでもない。
なお、震源が原発の敷地に近い場合には、断層モデル法が推奨されている。
d.「応力スペクトル」は、地震の特性を表すグラフをいい、具体的には、「原子力発電耐震設計専門部会」と言う部会が、20年間に収集された地震観測記録を基に、その名前をとった「耐専スペクトル」に原発の地域特性を入れて補正したものをいう。注2
耐専スペクトルは、十数年前に作られた、国内の観測記録に基づき地震規模と距離から地震動を推定する方法である。注3
距離と地震動の関係式である距離減衰式に、大変問題のある、1975年に作成された、したがって、約50年前に製作された松田式を採用する(その詳細は、広瀬隆著「原子炉爆弾」のA9~A13ページ参照)。
更に、耐専スペクトルは、最近約20年間の、阪神大震災(1995年)以降、全国に強震観測計が設置され、記録された多くの震源近くの観測記録が反映されていない。
基礎になった観測地震44個の内、プレート境界地震が38個で、内陸内地殻地震は12個にすぎない。注4
大阪府立大名誉教授長沢啓行氏は、耐専スペクトルは、過去の地震観測記録から推定される地震動の平均像を求めている。平均像なので、用いられた観測記録は上側に2倍以上のバラツキ(偶然変動)がある。耐専スペクトル自体を最新データで抜本的に作り替えた上で、バラツキを考慮した安全側への評価が必要だ。と説く。注3
耐専スペクトルと実測値の解離を、一例として、下図(注4)に示す。実測値が1以上~約10になることに注目して欲しい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/45/a6c7a6a9c9ef1ec2509de2e974bf4d10.jpg)
注記2
http://monogusa-fumifumi.cocolog-shizuoka.com/blog/2014/06/post-cefc.htmlデータ採取日2016/06/04
注記3
http://mainichi.jp/articles/20160308/ddl/k46/040/285000cデータ採取日2016/06/05
注記4
http://www.nonukesshiga.jp/wp-content/uploads/68575f238876499ae3808062bdd51079.pdf'データ採取日2016/06/05
・地震動の強度を何を単位に表すかは、構造物の種類により異なり、固有周期が0.2秒~0.4秒の原子力発電所は加速度(ガル)を採用する。他に、速度(カイン)、震度等の単位がある。
また、重力は980ガルである。即ち、地震動の上向き加速度が980ガルを超えると、地上の物体(原発を含め)は、浮き、そして同時に地震動の水平方向加速度が作用すれば、地上の物体(原発を含め)は転倒するおそれがある(広瀬隆著「原子炉次元爆弾」172ページ参照)。
このような事態は、安全性設計審査指針ですら想定していないが、考えられることである。
なお、放射線源の放射能強度に相当する、地震の規模は、一つの地震につき気象庁マグニチュードMと地震モーメントマグニチュードMwが公表される。
例えば、3.11の地震は、8.4Mであり、9.0Mwである。
e.断層モデルは、震源となる断層を長方形にモデル化し、コンピューターでシミュレーション計算をする。注3
この手法において、震源断層の地震モーメントを基礎物理量とする。なお、地震モーメントと関連するのがモーメントマグニチュードMwである。注6
活断層の長さ(あるいは断面積)を基礎としており、しかも、地震発生前に使用できるのは、地表断層の情報であって、地震モーメントの過小評価、地震の過小評価の可能性が高いのである(東大、島崎邦彦:活断層の長さから推定する地震モーメント注5)。
注記5
Japan Geoscience Union Meeting 2015、会場A04、5月28日
注記6
断層のモデル化:内閣府、防災情報のページ
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubu_kinki/syousai/pdf/sankousiryou2.pdf'データ採取日2016/06/05