全10編からなる紀行文集で、これまでJALの機関誌『AGORA』向けに執筆されたものなどを集めたもの。表題になっているのはラオスだが、他にもギリシャ/ミコノス島、ボストン、米国東西のメ[トランド (メイン州とオレゴン州)、ニューヨーク、アイスランド、イタリア、フィンランド、熊本など、色々な場所に訪れた思い出などを綴っているが、どこも興味深い。
僕は基本的に紀行文集というものをあまり好んで読んだことが無いのだが、村上春樹の書く文章や、その感性はとてもしっくり来るので、村上春樹の紀行文もナチュラルに、すんなりと頭に入って来る。しかも旅先がボストン、ニューヨーク、東西のメ[トランドなど僕も馴染みのある街が登場することも有り、また記憶に新しいところでは、今年の9月に初めて出張で訪れたフィンランドも取り上げられており、村上春樹が感じたことの共通点などがあるかどうかという興味から読んでみたいと思ったのだ。
しかし、読んでみて、実は僕も行ったことが無いアイスランド、ギリシャ、ラオスなどについても凄く行ってみたいという興味が湧き、本当の意味で紀行文としての魅力を見出すことが出来たのは大きな発見だった。
村上春樹の旅だけあって、内容は決して普通の旅行記とは違う。いわゆる観光地だけを訪れたり、有名なレストランの食事がうまいとかだけで終わらない。村上春樹の好きなこと、好きな(思い出の)場所などを辿っていく内容になっている点で、その視点が興味深い。そして、猫好きな村上春樹としては、やはりどの町に行ってもローカルな猫の姿が映し出され、これも面白い。僕は猫というよりはどちらかと言えば犬派だが、野良猫の方がどの町にもいるし、いる猫の種類や毛並みなどでそのローカル度合いや猫の生活環境なども比較しやすいという意味では、猫の方が適していると思うし、やっぱり絵になる。逆に野良犬に遭遇しても、狂犬病とかがすぐ頭に浮かんでしまい、接触するのは浮「ので止めた方が良い(笑)。ちなみに、表紙の写真にもなっているラオスは野良猫では無く、野良犬であった。
今回取り上げている町の中で、僕なりに少しだけ感想やコメントを。
(ボストン)
住んだことは無いものの、米国駐在時に何度も出張で訪れているので印象深い。ボストンと言えばやはりハーバード、MIT等の大学、そしてなんといってもボストンレッドソックス。フェンウェイ球場にも何度か足を運んだ。ハーバード大学キャンパスも何度か訪れ、大学の生協や学生が良く行くハンバーガー屋に立ち寄ったのが今でも思い出深い。またコテコテの定番だが、なんといってもリーガルシーフードのボストンクラムチャウダー(赤いトマトベースのクラムチャウダー)。これがなかなかうまいのだ。村上春樹もリーガルシーフードはマラソンの後に良く訪れていたようだ。この紀行文では好きなマラソンを題材に、一番好きで思い出深いマラソン大会としてボストンマラソンを取り上げている。特に、ボストンマラソンのコースにストーリー性があって、走っていてとても気持ちが良い情景が浮かんでくるようで、マラソンをしない僕としても新鮮であった。
(ニューヨーク)
ジャズが大好きな村上春樹が、ニューヨークの老舗ジャズクラブ、『ビレッジ・ヴァンガード』を取り上げている。ビレッジヴァンガードは僕もニューヨークに住んでいた頃何度か訪れており、実はここでジャズをやっている友人が演奏した際に聴きに行ったので思い出深い。確かに商売っ気無く、客に媚びないガンコなジャズクラブとして今でも健在だ(一時期かなり長い間休業していたようにも思うが)。また、ニューヨークに出張する際、夜に時間が空けば良く『ブルーノート』や『バードランド』に僕も足を運んだものだ。今でも思い出に残っているのは、あの有名なジャズ・フュージョンピアニストで、フォープレイのリードメンバーであるボブジェイムズと、これまた有名なギタリストのアールクルーの演奏を聴きに行った際、一緒に写真を撮ってサインを貰ったこと。そして、同じくブルーノートで生演奏・コーラスを聴いたマンハッタントランスファーも凄く良かった。やはり小さいジャズクラブだと間近で見れる臨場感や音響が素晴らしい。村上春樹も書いていたので面白かったのが、日本観光客は12時間以上をかけてニューヨークに飛行機で到着し、時差ボケのまま夜中にブルーノートなどを訪れることが多い為、大体の日本人はクラブで爆睡していると書いているが、僕もうかつにも演奏を聴きながらうたた寝してしまった経験がしばしばあるので、かなり耳の痛い話であった(笑)。
(オレゴン州メ[トランド)
美味しいレストランが増えており、グルメのメッカとして人気があることや、ナイキの本社にあるランニングコースの話などが紹介されている。僕もメ[トランドは何度も訪れており、確かにLAやサンフランシスコほどのメジャーさは無いが、むしろ自然が豊かで、アウトドアを楽しむには最高の環境だ。ナイキを始め、多くのアウトドアブランドを創出している町でもある。メ[トランドもちょうど良いサイズの町で、しかも美しい。そんなメ[トランドは、自然の恵みをたっぷり含んだ野菜などが美味しくて、味付けも素材を活かす感じでとても美味しいという村上春樹の意見にはかなり納得。メ[トランドにも近いシアトルも僕の大好きな街だが(というか、ブルースリー師匠のお墓がある、僕に取っては聖地であり、究極のパワースャbトでもあるが)、西海岸北部の街並みにはどこか共通した美しさと自然の恵みに満ち溢れている(メ[トランド、シアトル、カナダ/バンクーバー)。
(フィンランド)
今年9月の始めに、人生初めてフィンランドを訪れた。村上春樹はフィンランドのハーメンリンナという町を訪れた時のことを紹介しているが、ここには運河のような美しい湖とお城があるとのことで、ちょっとネットで検索してみた。確かにそこはフィンランドの郊外らしい、美しい光景が広がっていた。出張時はヘルシンキ市内しか基本見れなかったが、郊外はまた違った美しさが有り、一生の内また機会あればぜひゆっくり(老後にでも)訪れてみたい国である。また、村上春樹がフィンランドに対して抱いていたイメージの中に、マリメッコとかムーミンとか、ノキアとか、僕も知っていたものも挙げられていたが、シベリウスという、フィンランドを代表する作曲家・音楽家が紹介されていた。恥ずかしながら僕はシベリウスを知らなかった為、また一つ勉強になった。
(アイスランド)
アイスランドは訪れたこと無いが、本著で最も興味を持った国でだった。特に広大なプールのようなブルーの温泉、ブルーラグーンは一度死ぬまでには訪れたいと思ったし、人口よりも数の多いパフィンと言う鳥の話が実に興味かった。
(ギリシャ)
ギリシャと言えば、白い壁、碧い空で有名だが、ヨーロッパ人にとってのリゾート地にもなっているミコノス島が紹介されていた。昔ここにも暫く滞在して小説を書いていたらしいが、観光のシーズンオフになると、かなりまた雰囲気野良猫違う町になるようで、地元のレストランやバーなどの話や、ここにのんびり暮らす野良猫も登場。集中して小説を書くには良い環境かもしれないと読んでいて感じた。
(ラオス)
表題にもなっているラオス。村上春樹も初めて訪れたようだが、僕はまだ行ったことが無い。文化的にタイとベトナムの間くらいの国と言うイメージはあったが、実際に行ってみると印象がまだ違うんだろう、という気はする。村上春樹がいたく気に入った猿の像を見つけた話には妙に惹かれた。僕も同じような経験があるからだ。気にしなければ、普通にさーっと流れてしまう景色や観光体験も、何かの拍子に、~自分のその時の心境や、偶然な出会いによってもたらされる変化などによって~、思いがけず印象に残ったり、人生に何らかの変化をもたらすものかもしれないが、村上春樹のラオスの旅は、そんな可能性が旅にはあることを、改めて気付かせてくれたような気がした。
(イタリア)
トスカーナ地方のワインをテーマに取り上げているが、ワインとオリーブに適した土地、風土が目に浮かび、思わずワインが飲みたくなってしまったし、Basiaの名曲、『An Olive Tree』を思い出してしまった。昔、アメリカのナパを頻繁に訪れていたのも懐かしく思い出しながら読んだ。また、イタリアの車?と言えばと言うことで、村上春樹がレンタカーにアルファロメオを希望したのに、フィアットが用意されていたエピソードも。
(熊本)
最後に熊本も取り上げているが、熊本は僕も昨年家族旅行で行ったのでまだ記憶に新しいせいか、とても楽しく本章を拝読した。僕が行った熊本城の周りでのマラソン練習エピソードや、阿蘇山、超田舎の人吉市への訪問、そしてあの村上春樹がくまモンについて語っているのもなかなか面白かった。
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僕も訪れたことのある場所はとても共感出来るエピソードという意味で楽しめたし、逆に行ったことの無い場所は、とても行ってみたくなったし、村上春樹の抱いた感覚を自分でも実感して確かめてみたくなってしまった。そんな、とても印象に残る村上春樹の紀行文集であった。
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