スティーブ・マックイーン主演の大ヒット作として有名な名作『ブリット』。昔何回か観た記憶があるが、先日久々にむしょうに観たくなってしまい、DVDを購入した。スティーブ・マックイーンの絶頂期に公開された作品でもあり、彼の代表作の一つでもある。
『ブリット』は1968年公開の映画なので、まさに僕が産まれる1年前に公開された作品。もう55年も前の映画だと思うと感慨深いが、でも僕は日活の1950年代の映画も結構観ていることからすると、1960年代の映画は特別古いという感覚は無いかもしれない。
この映画はあのサンフランシスコの坂で繰り広げられるカーチェイスシーンがあまりにも有名で、その後のカーアクション映画に多大な影響を及ぼした。今でこそ凄いカーアクションも当たり前だが、『ブリット』はCGなどを使わず、実際に高速走行でリアルなアクションに拘って撮影されている。当時はもっと大型の撮影用カメラを使えっていた筈で、撮影も簡単では無いと思うが、今観ても『ブリット』のカーアクションは素晴らしい。特に坂道をガンガン飛ばすシーンは、ドライバー目線のシーンも多く、長く観ていると車酔いしてしまいそうなくらいリアル。遊園地のアトラクションも顔負けの迫力である。
カーチェイスの流れでまずはこの映画で注目すべきなのは、登場する名車たち。スティーブ・マックイーンが乗るのは、この映画で一躍有名になった1968年モデルのフォードマスタング。映画に登場したモスグリーン色のマスタングは無骨で何とも男らしい、カッコいいデザインである。そして、この車が追いかける敵の車もダッジ・チャージャーという人気車種。当時のレトロなアメ車たちが華々しく登場することで、カーマニアにも人気の高い映画である。そして、マスタングと対照的な車として、登場するのが、ポルシェ356。スティーブ・マックイーンの恋人役を演じるジャクリーン・ビセットが乗る車なのだが、これがフェミニンで今観ても美しいクラシックスポーツである。
車とカーチェイス以外にも『ブリット』の魅力はまだまだたくさんある。まずは主演のスティーブ・マックイーンのカッコよさと、そのファッション。彼のクールで沈着冷静な演技が今観ても何ともカッコいいのだ。そして、自分でもレースドライバーであった彼は、実際にドライブシーンも演じており、何ともカッコいい。ややアウトローな警部補を演じた彼の人物設定や、サンフランシスコを舞台にしている点も含め、1971年に公開された『ダーティーハリー』にも大きな影響を与えたと言われている。
彼のファッションだが、スーツに、極普通のベージュ色のステンカラーコートを羽織る姿が何とも様になっている。ネイビーのタートルネックセーターに茶色のツイードのジャケット姿は、下手をすればダサい感じになりがちだが、彼が着るとやっぱり様になるのだ。
共演陣もロバート・ヴォーンをはじめ名脇役が固めており、後に名俳優となったロバート・デュバルもタクシードライバーのちょい役で登場している。そして共演陣で注目なのは、なんと言っても恋人役のジャクリーン・ビセットだろう。当時は映画雑誌『ロードショー』でも、人気女優ランキングで常にトップ5にランクインしていたが、やっぱり今観ても美人である。映画のラストシーンで、肩を出してベッドで寝ている姿がまたセクシーなのだ(笑)。
映画の舞台となる“サンフランシスコ”の街並みも大きな魅力の一つ。どこか坂道も多く、その美しい景観はどこかヨーロッパの雰囲気を漂わせるが、今この1968年当時の街並みと、レトロな建築なども確認出来るのはとても面白い。
そして最後に、この映画の音楽を担当するのが、ラロ・シフリン。ご存知の方もいるかもしれないが、ラロ・シフリンは僕にとっては馴染み深い作曲家だ。なぜなら、あのブルース・リーの『燃えよドラゴン』もラロ・シフリンが手掛けていたからだ。それもあって、この『ブリット』を観ると、やっぱり音楽が『燃えよドラゴン』にも似ていて、何だか共通する空気感があるから不思議だ。また、もう一つの接点は、スティーブ・マックイーンがブルース・リーから武道を教わっていた弟子の一人であること。シアトルでのブルース・リーの埋葬式にはスティーブ・マックイーンも駆けつけていた。
久々に観賞した映画『ブリット』は、また新たな気付きが色々とあってとても面白かった。また改めてこの映画のカーチェイスシーンの素晴らしさと、スティーブ・マックイーンのカッコよさ、そして映画自体の様々な魅力をじっくり堪能することが出来たのも大きな収穫であった。最近のアクション映画もいいが、この名作『ブリット』を観賞しながら、スティーブ・マックイーンという俳優を再発見してみるのもおススメである。