物語としては、主人公の一人、大人になったしげる(葉山良二)の回想から始まる。
小児麻痺で生まれつき足が不自由な少女、つぶら(芦川いづみ)。そして、このつぶらのことを好きだったのが、近所に住む幼馴染のしげる(葉山良二)であった。良くつぶらの家に遊びに行っては、つぶらをおんぶしてあげて、庭で遊んだり、カートに乗せて外に連れ出してあげたりと、仲良くしていた。しかし、同じく近所に住む豆腐屋の時江(渡辺美佐子)も、しげるのことが好きで、しげるがつぶらのことが好きなのがどうも気に入らない。そこで時江は、しげるにいいものを見せてあげると言って、幼いしげるを神社の社にこっそり連れ込み、具体的な描写こそないものの、性的ないたずらをしてしまうのだ。
幼少期のつぶらは子役が演じている為、芦川いづみが登場するのは物語の中盤から。しかし、その登場した芦川いづみがまたなんと美しいこと。和服を着て、殆ど椅子に座っているか、寝ているかという設定なので、シーンとしては極めて地味なのだが、外の世界への憧れ、足が悪いことからの劣等感など、辛い運命を背負った、悲哀に満ちた芦川いづみの演技や表情が見事である。
この映画のタイトル、『佳人』という意味があまり良くわからなかったので調べてみたが、佳人とは、美人という意味らしいが、単なる美人というだけでなく、美人薄命というイメージで使われるらしい。前回の『誘惑』でも書いたが、その意味では美人薄命を演じさせたら、やはり芦川いづみの右に出る者はいないだろう。そう思わせる見事な演技であった。
つぶらの父親(宇野重吉)が亡くなってしまい、また戦争に行ってPTSD(心的外傷後ストレス障害)になってしまい、誤って窓から落ちて悲劇の死を遂げてしまう。母とつぶらだけになってしまったが、父の抱えていた多額の借金のせいで、料亭の極道息子、太刀雄(金子信雄)によって上手く母が取り込まれてしまい、つぶらを太刀雄の嫁として迎える条件で、借金を上手く整理する代わりして貰うことになる。つぶらは、同じく戦争に行ってしまったしげるのことを思い続けながらも、太刀雄に藷ヒくことも出来ず、また母のことを考えて、仕方なく結婚することになってしまうが、太刀雄は、つぶらをおもちゃのように扱い、つぶらは益々不幸な状況になってしまう。しかし、そんな不幸のどん底でも、しげるにまた逢いたい、それだけが心の希望であった。しげるが呼ぶ中で、歩ける自分の夢を見るシーンがあるのだが、このシーンは暗くて辛い映画の中で、唯一芦川いづみの美しく、可愛い笑顔が見られる印象深いシーンとなっているが、帰ってつぶらの辛い運命を浮き彫りにしているようでもあった。
しげるとまた再会し、しげるから“東京に一緒に来ないか?”と誘われるが、しげるも結婚して、子供も産まれることを知り、自分が重荷になるわけにはいかないと、この申し出を断る。そして、翌日つぶらは自らの命を絶ってしまうのだ。自殺する芦川いづみは、僕の知る限りこの『佳人』と『完全な遊戯』ではないかと思う(殺されてしまう作品としては、『不敵なあいつ』もある)。その意味で、この『佳人』は実に悲しいラストとなっているし、芦川いづみファンとしてはやや辛い作品でもある。
『誘惑』に続き、本作でも渡辺美佐子が時江を演じてとてもいい味を出しており、何とも色気のある役を演じている。渡辺美佐子もやっぱり可愛いのだ。つぶらのことを面白くないと思っていたが、やがてしげるに協力する形で、つぶらの良き理解者、そして味方となり、太刀雄から何とかつぶらを守ろうと奮闘する。
『佳人』は、純愛物語としてはかなりの秀作であったと感じたし、豊岡、城崎温泉を舞台にした映画としても当時の様子が確認出来て、とても貴重な映画であると言える。そして、繰り返しにはなるが、芦川いづみは、悲運で薄命の美女を演じているので、観ていてやや辛いが、結婚式の着物姿や、その儚い美しさは特筆すべきものがあり、芦川いづみ作品としてもかなり見応えのある映画であったことは間違いない。でもやっぱり、僕はもう少し明るい、石原裕次郎との共演作品の芦川いづみの方が好みではあるが・・。
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