この映画は兎に角斬新で、全く新しい試みの映画だ。映画が全編に渡り、なんとパソコン上のみで進行するという設定。娘が突然失踪した父親が、娘とSNSで繋がっていた友人や関係者に連絡を取りながら捜査して行く中で、様々な出来事が起こり、事件に巻き込まれていく。パソコンにはニュースの動画や、娘の友人とのビデオチャットでのやり取り、カメラ画像などが登場し、画面を通して物語はリアルに進行していくのだ。パソコン上では色々な場所に行ったり様々な人物と会うのだが、映画的にはパソコンから一歩も離れないという点では何とも絞り込まれた“密室”とも言えるユニークな設定。ネット社会の浮ウと現実を上手く利用した映画としても秀逸である。
秀逸なのはパソコンから動かない映像テクニックだけでは無い。物語自体も一級のサスペンスとなっている。パソコンを通した世界に無限の広がりを感じさせながらも、実際の場面はパソコンから動かないという特殊な“制約”がある中で、独特な緊張感とサスペンスを産み出しているのが面白い。果たして失踪した娘は誘拐されたのか? 娘は無事なのか? 犯人は誰なのか? という疑問に迫って行く前半と、中盤から後半にかけては容疑者が次々と変わるミステリアスでスリリングな展開になって行く。そして、予想もしなかった意外な結末が最後に待っているのだ。
この映画を観ていて、僕の大好きな映画監督、アルフレッド・ヒッチコックを思い出してしまった。ある種の“密室”で起こるサスペンスという意味で、サスペンスの神様・ヒッチコックが好みそうなテーマであり、サスペンスを畳みかけていく描写も大変良く出来ているのだ。
特に有名な俳優が出ているわけでもなく、また主人公の父親と娘はアジア系アメリカ人ということで、キャストも独特な設定である。またこの映画はサスペンスであると同時に、実は父と娘の家族の物語でもある。母を病気で亡くしてから、父と娘の間にも微妙な溝で出来て行き、捜査の過程でネットでの娘の交友関係を探っていくうちに、自分の知らない娘の姿が浮き彫りになって行くという骨太のヒューマンドラマも展開されていくが、この辺りはスマホやネット社会となった今、自分の子供がどこで何をやっているのかわからないという浮ウも見事に描かれているという意味で、現代ネット社会に対して一石を投じていると言える作品である。
久しぶりになかなか内容のある、秀逸なサスペンス映画に出逢ったものだ。
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