山梨県上野原市秋山寺下・吉祥寺の地蔵菩薩
鎌倉時代に鎌倉街道の裏街道が通っていたという秋山。集落ごとに寺社がありますが、なかでも寺下の吉祥寺は真言宗の古刹で、山間部にしては大きな構えのお寺です。
女将さんにお茶の接待を受けながら石仏の話をしていると、本堂に中世の地蔵石仏があるというので拝見させていただきました。
地蔵は須弥壇裏に隠れるように置かれていました。大事に扱われているのは、この地蔵が中世に造られた貴重な石仏だからで、秋山の石仏を紹介した『ふれあい 村の晨光』(注1)では南北朝時代のものと案内されていました。地蔵には年号があるはずと寺の女将さんに聞いたので、懐中電灯を借りて探してみましたが、それはありませんでした。
この貴重な地蔵菩薩、女将さんからいただいた坂本美夫氏の「山梨県の中世石仏」(注2)にまとめられていましたので、抜粋して紹介いたします。
地蔵は光背と台座が一体のもので高さは36センチ、均整の取れた優美な姿で、その彫りも細部まで繊細で丁寧かつ整ったものとしています。紀年銘はありませんが、県内の平安時代と考えられる石仏に近いふくよかな体躯、袈裟の表現が鎌倉後期の仏像彫刻に見られる技法から、鎌倉時代末期の造立と想定し、石仏としては都留地方で一番古い時代のもので、鎌倉地域との関わり垣間見ることができる地蔵としています。
境内には新しい十王像が並び、その前に古い十王に一部と奪衣婆もありました。
(注1)『ふれあい 村の晨光』昭和60年、秋山村教育委員会
(注2)坂本美夫著「山梨の中世石仏」『考古学の諸相Ⅳ』平成28年、立正大学文学部考古学研究室
(地図は国土地理院ホームページより)