最新の宇宙論によれば、宇宙は一つではなく、無数の異なる宇宙がある「マルチバース」が有力な説となっているようだ。
「マルチバース」というと、いくつもの宇宙が並行して存在する「パラレルワールド」のようなスピリチュアルな話のようにも思えるが、超弦理論や永久インフレーションなどの物理学の方程式によって具体的に示唆されるもので、間違いなくあるとされている「ダークエネルギー」の値を自然に説明することができるほぼ唯一の理論なのだとか。(カリフォルニア大学バークレー校の野村泰紀教授の「なぜ宇宙は存在するのか」による)
それによれば、人類のような高等生命体が生じた我々の宇宙はよくできすぎており、一つの宇宙しかないとすれば理論的に無理があり、無数の宇宙があるからこそ、その中の一つが我々の住む宇宙の条件を満たし、その構造が許されているということになるようだ。
こうした考え方は、単なる理論物理学としての話だけではなく、宗教をも含む広い範囲での考え方に影響を及ぼす。なぜならば、宇宙が一つだけだとすれば、確かにこの宇宙はできすぎており、何かの力が働いている「いわゆる神の力」を想定しないといけない。しかし、この説のように、我々の宇宙が無数にある宇宙の一つであれば、我々が存在できるのは神の力ではなく、無数の中の確率の一つであるに過ぎない。神は必要ないのだ。
もちろん、この「マルチバース」理論が完全に証明されているわけではなく、今後の様々な宇宙の観測や検証が必要になってくるのであろうが、もしこの理論が本当であるならば、我々の宇宙は無数にある宇宙の一つにすぎず、私はその「一つにすぎない宇宙」の中に生きている何億の中の一人にすぎない。それをどう考えるのか。あまりに膨大な広がりの中の、あまりにちっぽけな我々はどのような存在なのか。あまりにちっぽけで意味がないのか、あるいは無数にある宇宙の中で、ほんのわずかな確率で我々の宇宙が存在し、その中に人間が誕生するということは、あり得ないほど貴重なことなのか。いずれにしても、一度神の呪縛を離れて、新しい世界観を考えてみる必要がありそうだ。