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本書は、定年後の暮らしのノウハウというよりもエッセイといった趣きがあります。参考となる実例も多いのですが、もっと深い情報がほしいなと思うところも正直あります。しかしながら、読みやすく、定年後の生活や環境の変化が明快、リアルに示されていて一読に値します。サブタイトルのとおり、「定年予備軍」の方々もしっかりと準備をすべきというのがこの本の趣旨のようです。私のように定年後にこの本を読むのでは、遅いのです。
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会社や団体に所属しているとその「会員」である限り一種の身分保障がなされていることを痛感いたしました。仕事がなくなると同時に「会員権」は失効します。名刺、定期券、カバン、ワイシャツの無い生活はまったく別世界です。それほど隔絶していますし、置いてきぼり感があります。米国映画『アバウト・シュミット』のシュミット元部長代理もついつい元の職場を訪問してしまい、体よく追い返されます。東西を問わず、人間、特に会社人間は帰属意識が強く残りますし、それほど繋がりを求めるものなのでしょう。
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会社、組織だけの生活を見直すことが大事なのかも知れません。ゲゼルシャフトからゲマインシャフトへの移行というだけなら簡単なのですが、会社、組織と縁を切り、自分を変えなければ適応は難しいように思います。同じ「会員」だったとしても所属組織以外にもはみ出していたひとは、あるいは簡単なのかもしれません。また、男性よりも女性の方がこの境界を軽やかに超えられるのかも知れません。自分の居場所探しが複雑系で意外と難しそうです。無理に探さないのもありでしょう。今さら、「自分らしく」もないでしょうし(笑)。
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さて、残念ながら、定年後はより死に近くなっています。
死から逆算して定年後の人生設計をするべきだと著者は言います。カウントダウンの発想です。毎日が「死と直面」です(笑)。
今までは、〇年という区切りで計画してきたものが、仮想ではあってもはっきりとピリオドを想定しなければならなくなります。暗澹たる気持ちになりますが、これだけは避けられません。しかし、毎日死と直面しているのも疲れるので(笑)、元気でいられるうちは、その間をいかに過ごすかということが問われるわけです。
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そのヒントはこの本に書かれていますが、今まで「ボーっと生きてきた」私は、いまさら抗っても仕方がないし、頑張ってもつまらないと思う普通の人です。定年後の人生は千差万別だろうと思いますし、それが許されるでしょうから自分なりの道を行くだけなのだろうなあ、と想像しています。本書のように「いい顔」で死ねるかどうかは分りませんが(笑)。
楠木 新著『定年後;50歳からの生き方、終わり方』(中公新書2431)、中央公論社、2017年4月刊.