かりんとう日記

禁煙支援専門医の私的生活

前がん状態

2015年01月22日 | お医者さんの一言
医者として肺がんの内科治療を主にやっていると、患者さんとの付き合いはあまり長くない。
時間の単位は「年」よりも「月」になる。

でも一昔前に比べると抗がん剤の種類はずいぶんと増えたし、つらい副作用を軽減させる薬も良いものが次々と開発されていて、それらをじょうずに使っていけば、切除不可能な状態で見つかった肺がんでも、年単位の予後が期待できる時代になってきた。


そうはいっても、がんは何と言っても予防(喫煙・受動喫煙しない)と早期発見!

肺がんの早期診断に最も役立つ検査のひとつに、CT検査がある。

からだを輪切りにスキャンする厚さは今や通常1mm。
画像解析能の向上はすばらしく、美しい3次元画像も作成可能だ。


けれど、あまりに解析が良すぎて、「前がん状態」も発見できるようになったことは、がん医療において、悩ましいことの1つかもしれない。

検診などで胸部CTを撮ってみたら、数mm大の薄い影が見つかることがある。

すべてのがんがそうとはいえないが、「前がん状態」という段階を経て、「完全ながん」になる場合があるということがわかってきたのだ。

私たち専門家は、その薄い影の画像所見と、実際にそれを採って調べた病理所見を比較検討してきた経験を積んだので、ある程度のところ、前がん状態か、あるいは完全ながんかの違いが、CT画像を見て区別できるようになった。

でも、前がん状態から完全ながんになるまで、どのくらいの時間がかかるか?ということはまだよくわかっていないので、こういう影が見つかった場合には、定期的にCTを撮って変化を注意深く観察していき、あやしい段階(影が濃くなるとか、形が変わるとか、大きくなるとか)になったら、切除を検討するというのが、現在の一般的な考えである。


先日、右肺に一箇所ある「前がん状態」をCTで観察するために1年ぶりに来院した人がいた。
私と年齢が近い女性で、学校の先生。

1年前のCTと比較しても、わずかな変化を見落とす恐れがあるので、なるべく以前に撮影した画像と比べてみる。


『10年前と比べても、とくに変わりないですね。大丈夫です!もう10年も通ってきていただいているんですね』


「ああ、よかった。毎年、先生にそう言ってもらうと安心して、今年も1年頑張ろうっていう気になるんです。」


『そうなんですか。じゃあ、また来年ということで』


「先生も、この1年どうぞお元気で!」


『ありがとうございまっす♪』










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