ACP: おひとり様予備群

私が子供だった頃、父方には、兄弟姉妹が5人、父の母（私の祖母）、それに叔父・叔母・遠い親戚と呼ばれる家族が３から4家族。母方には、兄弟姉妹が6人、母の両親（私の祖父・祖母）故郷に一度も合った事にない親戚が3人から5人、合計約20人前後の親戚が居た。それだけでなく自宅の周りには、隣りの叔母さん、叔父さん。と呼ぶ大人達が5~6人。何時でも何処にいても知り合いの大人の目が見守っていた。と言うより私の行動を親にチクられた。私はいつも大人に囲まれて人の目が気になってたまらなかった。けど、、、お正月に大人達一人ひとりから「お年玉」がもらえたので、お正月に各家へ挨拶周りに行くのが楽しみになっていた事を懐かしく思い出す。

　見渡すと、一番年下の私は一番年上の高齢者になり、親は数年前に他界、実子1人、兄弟1人（結婚の機会に恵まれず独居生活をしている。）定期的に連絡を取っている甥・姪が3~4人。近所付き合いは、挨拶程度。知り合いの子供に「お年玉」を渡したのは何年前だったか。気がつけば、おひとり様予備群。

さて、これからどうする。

大人の目を気にしないで好きなことを、、、、。

はじめの一歩。

ACP: 認知症 30年後、2023年のクリスティーン

彼女がアルツハイマー病と診断された30年前は、一般的に発症して6~8年後には家族や友人の事も解らなくなり施設で死ぬと思われていたし、彼女自身の知識も同じであった。認知症患者のサポート協会へ訪ねても、患者の家族に対するサポートを中心に活動しており、患者に対するサポート活動はされていなかった。彼女は、自分自身に起こる脳機能の変化を冷静に自分の言葉で脳機能の衰えを『認知症は精神障害＝空っぽの人格ではない』と認知症患者自身が、サポートを求める団体の設立にも参加した。求められて世界各地を廻り、30年間、理解を求め続けている。そして、　2023年『認知症本人発：希望のリレーホーラム』開催に招待弁士として7回目の日本訪問をしている。

6~8年で死に至ると言われ治らない病、日常生活が出来なくなる病と社会から置き去るような扱いを受けた認知病に、彼女は、｢私は誰になるの」と不安と恐れを抱えながら、率直に自分の現状を身近な人達に伝え助けを求めた。彼女が発信したことが、タブーと顔をそむけていた病と共に歩めることに気付かせ、彼女が生きやすい環境を造る助けとなった。

　私がインターンとして実習でをさせて頂いた介護現場では、身近な親族が、入居する理由を、「歳だから」「介護の限界を感じた」「近所の人に迷惑をかける」と話しをする。入居者本人は、家族がそう言うからとそれ以上自分の意思を表さない。（入居した後に「ここは何処だ。帰る。」と興奮をし、やがて黙るを経て入居生活が始まる。）

介護する側は、入居者に「認知症」の発症を伝えない。身体の安全を守る環境を創りに専念し、マニュアル化された介護を行う事が、奇異な行動や脈絡のない発言に対しての思いやりであり最善だと思っている。座学での知識とはかけ離れた介護がそこにあった。

入居者は、「私はどうなるの」なんて聞かなくとも介護者が、先回りして色々ケアをしてくれる。やがて、マニュアル通りに認知症後期を迎える。そして、近親者は、他の家族と同じに看取ることが出来たと安心する。

クリスティーンは、現在７０歳代である。認知症が改善されたわけでもないし行動も前より緩慢で、話しの脈絡が乱れる事もある。それを彼女は受け入れ、信頼するパートナーと、自宅で自分の時間を過ごし、自分の行きたい場所へ出かけている。日本の施設で過ごしている同年代の認知症の人からは、想像もつかない。私個人は、これが自分の病を認知症と知る事と、知らせられていない事の差なのかと考えている。

超高齢社会を迎える日本において、クリスティーンの存在は励みであり目標である。マニュアル化された介護する介護されるという力関係でなく、良きパートナーとして、お互いを思いやれる関係が必要なのである。

その一歩として、施設を決める前に、何故入らなければならないのか、当事者になった時、家族や近隣への忖度ではなく、真正面から受け止められる心の準備をする必要がある。

認知症は、誰にでも現れる可能性がある。クリスティーンは、特別な存在ではない。ただ、彼女は自分が自分であることをあきらめない人なのだ。

ACP: 認知症 クリスティーを知っていますか。

　クリスティーンは、1995年46歳の時アルツハイマー病と診断された。今から30年前のことだ。

　30年前、クリスティーンの生活しているオーストラリアでは、一般的には、アルツハイマー病は、死ぬことはないただ忘れぽくなる老人の病気だと言う誤解があった。患者の家族たちは、その奇妙で「変てこな」親族の事を恥ずかしく思いがちであった。この愚かしい行動をなぜ止められないのか理解できないでいた。（高齢の親が認知症になった事を隣人に隠そうとする日本のタブーに似ている。）しかし、この時期、アルツハイマー病は、オーストラリアでは死因として4番目に多ものであり、その２パーセトンが彼女のように若く65歳以下で発症した若年性で、生存予想年数は診察後８年ぐらい、物事のやり方を知る能力を段々失い、ついには体を機能させることも忘れて死にいたる病である。と医療関係者は、彼女になるべく早く仕事を辞めることを勧めた。

 　しかし、「一般的に言われているアルツハイマー病への認識」は、彼女が認識する「私」はどうなると言うもどかしさや恐れの答えにはならなかった。以前なら決して間違わない通勤途中の曲がり角を左右どちらに曲がるのか解らない小さな認知力の衰えを冷静に見つめ、心の病気ではない。脳細胞が損傷し機能しなくなる病気なのだと、アルツハイマー病である事でおこる奇異な行動や脈絡のない発言を親族や友人、一般社会に発信し一冊の本にまとめたのが、『私は誰になっていくの？』である。

　彼女は『輝かしい経歴を持つ多忙な上級行政官であり、シングルマザーであった私は、1995年のほんの数日の間に、余命わずかな、一人の年金生活者として生きることになった。』と著書『私は誰になっていくの？』の中で吐露している。彼女の病を知った彼女を取り巻く知人達は、大変優しく気を使い元気を出す様に励ますが、アルツハイマー病であることで、彼女が彼女でなくなったかの様に、彼女をサポートをしている家族達に向かって話をする。彼女は出来る事は自分で行い、出来なくなったことを心の許せる家族や友人にサポートしてもらい「私であることの尊厳」を保ってることを、認知症発症患者は尊厳を持った人間で、空っぽの廃人になるわけでない事を、冷静に文章を組み立てる事が難しくなる不安と戦いなら理解して欲しいと書き上げたのである。

　日本では、1972年に作家有吉佐和子が発表した小説『恍惚の人』により、恍惚＝痴呆＝奇異な行動をする高齢者のイメージが定着し、痴呆症（認知症）は、自分の事を忘れて意志の疎通が出来なくなると手を差し伸べ、不自由になりそうな事までも介護しようとする。その為、介護の充実している施設に入る事が安心安全の最良な方法だと決めているのではないか。

認知症は誰にでも発症する可能性がある。クリスティーンの様に自分の病状を受け入れながら「自分」の尊厳を保ちたいと願う生き方があることを理解するべきではないか。もう歳だからと言わずに。