青空のCafétime

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愛され皇帝は気高く美しく、寒がりで意気地なし

2018-11-11 08:28:07 | Diary



空高く育った太い茎の先に可愛らしいピンク色の花が咲く。花の時期は関東では11月下旬から12月半ば。だから今の時期はまだ咲いていない。その植物の名前は皇帝ダリア。

実家の庭の真ん中辺り、ちょうどリビングからよく見える場所に父がこの皇帝ダリアを植えたのは何年前だろうか。まだわたしが学生だった時の、夏の終わり頃だったと思う。

ホームセンターの園芸コーナーで、売れ残り品としてディスカウントされていたのを見かけて買ってきたと、なぜか父は嬉しそうな顔をしたのを憶えている。

でもわたしは、皇帝なんてご立派な名前が付いている割には小さくイジけていると思った。黒いビニールポットに植えられた苗は高さ10センチほどしかなく、ヒョロッと萎びた感じだ。

それを父に言ったら、今はまだ小さな苗だが、3年目には2階の窓の高さぐらいまで成長して綺麗な花がたくさん咲くんだよと言い訳がましく答えた。しかしどうやらそれはホームセンターの係員から聞いた受け売りだったらしい。

それっきりいじけた皇帝の存在は忘れていたが、父が言ったとおり、翌々年の秋の遅い時期には人の身長よりちょっと高いぐらいまで育った。その先にはツルツルした感じのいくつかの小さな丸い蕾が見える。3本あったはずだが1本しかないのは、他の株は駄目になってしまったのだろう。

しかしせっかく育った皇帝なのにその年は咲かなかった。蕾がほころびかけてきたところで、その年初めての霜が降りて枯れてしまったのである。

明らかにガッカリ顔の父によると、一般のダリアがおおむね夏の時期に咲くのに対し、皇帝ダリアの花はもっと遅く、秋というより初冬に咲くという。にもかかわらず冬の低温には耐えられず、地下にある球根まで枯れたりしないが、霜が降りると地上部分は枯れてしまうそうだ。

たった一晩で見るも無残な姿に変わり果てた皇帝と、しゅんとしてしまった父。わたしは情けない皇帝に腹が立って、父がかわいそうになった。

その次の年。父の期待を背負って皇帝はすくすくと育ち、秋口に襲ってきた台風も何とか無事に乗り切って、キンと張り詰めたような冷たい空気の中、12月の青い空を高く背景に従えて、綺麗なピンク色の花をたくさん咲かせた。

その後間もなく霜が降りてしまい、残っていた蕾は開くまでに至らなかったが、満開に近い、まさに皇帝の称号に相応しい姿を見せてくれた。

それから現在まで、皇帝が勝つか霜が降りるのが先か、寒がり皇帝と冬将軍との一進一退の攻防が続いている。

去年は皇帝が勝ったが、確かその前の年は、まだ11月なのに大雪を降らせた冬将軍の反則スレスレの勝利。皇帝が負けてしまった年は、あの美しい花を見ることはできない。

父の丹精を込めた奉仕のおかげで年々株が大きくなり、最初は一本だけだった茎も5本になった。その茎もまるで竹のようだ。帝国は繁栄の盛りを迎えている。

しかしいくら立派になっても霜には一瞬で負けてしまう。意気地なしの皇帝は、今年は冬将軍に勝てるだろうか。

是非とも勝って欲しい。
情けない貴方は見たくない。