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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

ボリウッド女性監督の先頭を行く『ガリーボーイ』ゾーヤ・アクタル監督

2019-09-01 | インド映画

香港情勢がますます緊迫してきて、さすがの私も早く日本に戻らなくては、と焦り気味。今日の『Saaho』も大回りして会場に行く予定なのですが、昨夜の騒乱で地下鉄の駅があちこち被害を受けたため、足の確保が心配です。破壊行為がひどかった太子駅、旺角駅、九龍湾駅は現在閉鎖中で、電車も素通りしているようです。これまで、警察や立法会(国会にあたる機関)など、抗議行動に直接関係のある対象物にしか危害を加えなかった参加者なのに、昨夜は火炎瓶は投げるは、地下鉄の駅の事務所やホームドア、監視カメラなどを破壊するはと、だんだん歯止めがきかなくなってきています。テレビニュースを見ていると、警察側も電車車内に逃げ込んだ参加者を捉えて警棒でガンガン殴るし、何だか「憎しみの噴出」みたいで、目を背けたくなります。この先、どうなっていくんでしょうか...。

Gully Boy poster.jpg

そんなわけで映画の時間までホテルでお仕事なんですが、お仕事が日本でも待っているため、絶対予定通りに帰るぞ、とこぶしを握りしめています。間もなく来日予定の『ガリーボーイ』ゾーヤ・アクタル監督へのインタビュー予定も入っていて、ちょっとこの待ち時間に、彼女のことをご紹介しておきたいと思います。で、思い出したんですが、そう言えば『ガリーボーイ』をまだきちんとご紹介してなかったですね。(実を言うと、旅先で紹介を書こうと思ってUSBに画像を入れてきたら、バンコクでなぜかUSBの全ファイルが消えてしまったのでした。ホラー映画も見てないのに...)これは、インドのラップ・ミュージックの若き王者、Naezy(ネイジー)をモデルにしてゾーヤ・アクタル監督が描く、スラムから生まれたラップ・シンガーの物語です。どん底から栄光へ、というわけですが、スラムの生活ぶりをかなりリアルに描いている(皆さんの想像を裏切るリアルさなんですよ、これが)うえ、インドのラップシーンを見事に捉えていて目からウロコの作品です。詳しくは、公開までの約1ヶ月間にまた何回かの連載でご紹介しますが、主演のランヴィール・シンもこれまでの作品とは別人のようですし、相手役のアーリアー・バットがまた素晴らしいキレっぷり。あと、ラップ師匠役のシッダーント・チャトゥルベーディーが本当にステキ! とりあえず予告編を見てください!! 公式サイトも読んでください!!!

『ガリーボーイ』予告編

本作の監督ゾーヤ・アクタルは、私にとって何かとご縁がある人で、まず2009年の東京国際映画祭で彼女の監督第1作『チャンスをつかめ!』の字幕を担当させてもらったのがご縁のその1。『チャンスをつかめ!』は映画俳優志望の若者がボリウッドでのし上がっていくストーリーで、ゾーヤ・アクタル監督の弟ファルハーン・アクタルが主演をつとめていました。この映画、ボリウッドあるある、のエピソードが満載で、実にツボる映画なんです。私が好きなのはオープニングタイトルで、ボリウッドの裏方の人たち-衣装部門の仕立てをしているおじいちゃんたち、ベランダから羽を降らせている若い雑用係たち、ローマ時代みたいな扮装の大部屋俳優たちetc.-を次々と登場させるこのタイトルシーンは、見るたびに泣けてきます。

ご縁のその2は、弟のファルハーン・アクタルとのご縁で、彼の監督第3作『DON 過去を消された男』(2006)の字幕翻訳をしたのがきっかけ。その後主演作では、『チャンスをつかめ!』に続いて『ミルカ』(2013)の字幕も担当し、少しハスキーなあの声がもう耳についてしまって、どこにいても聞き分けられる、という感じになってしまいました。そう言えば、『ミルカ』の日本公開時には、それまでインドで流れていた「ファルハーンとゾーヤは双子」説が本当なのか、ものすごく調べたのでした。事実は、ゾーヤが1972年10月14日生まれ、ファルハーンが1974年1月9日生まれで、ゾーヤの方がお姉さんなんですね。弟はその後も、姉の作品『人生は一度だけ』(2011)と『Dil Dhadakne Do(心は高鳴るままに)』(2018)に出演していますが、どちらもとてもいい役でした。後者にはランヴィール・シンも出演していて、こちらはダメ息子役でしたが、最後には豪華客船から海に飛び込み、船を降りてしまった歌姫アヌシュカー・シャルマーを追いかける、という見どころが用意されていましたっけ。ゾーヤ・アクタル監督の作品は、いつも主人公たちにやさしいのです(ただし、短編は除く)。

それから、ゾーヤとファルハーンの父親は、超有名な詩人、作詞家、脚本家のジャーヴェード・アクタルです。母親はハニー・イーラーニーというこれまた有名な脚本家であり、映画出演もいろいろしてる人なんですが、2人は1972年に結婚して1985年に離婚、その後すぐ、ジャーヴェード・アクタルは大物女優のシャバーナー・アーズミーと再婚して今日に至っています(あれ、今Wikiを調べると、シャバーナーとの結婚は1984年とありますね。すると、ムスリムなので2人目の妻を迎えた後、最初の妻と離婚した、ということでしょうか。『ガリーボーイ』のムラドの父親みたいになってきましたね)。この、ジャーヴェード・アクタルがお父さん、というところが第3のご縁で、というか、勝手に思ってるだけなんですが、ゾーヤ・アクタル監督には特別に注目してしまうわけです。ジャーヴェード・アクタルは、サルマーン・カーンの父親サリーム・カーンと組んで、1970年代に『炎』(1975)や『Deewar(壁)』(1975)等、ビッグヒット作の脚本を書きまくったサリーム=ジャーヴェードの片方なのです。こんな人を父に持つ監督、となれば、サリーム=ジャーヴェード作品をほぼ同時代的に見ていた私としては、ご縁を感じずにはいられません。


それと、彼女はボリウッド映画界で、ファラー・カーン監督と並ぶ商業映画の旗手です。ボリウッド映画界にも女性監督は増えてきていて、これまでに来日した人をリストアップしただけでも下のようになります。

<2000年以降に来日したインド人女性監督(映画の製作年順)>
ファラー・カーン監督『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(2007)~後日の来日
スーニー・ターラープルワーラー監督『僕はジダン』(2009)
ガウリ・シンデー監督『マダム・イン・ニューヨーク』(2012)
ショナリ・ボース監督『マルガリータで乾杯を!』(2015)
アランクリター・シュリーワースタウ監督『ブルカの中の口紅』(2017)
ロヘナ・ゲラ監督『あなたの名前を呼べたなら』(2018)
ナンディタ・ダース監督『マントー』(2018)
(映画祭関係で誰か抜けているかも。気がつかれた方はコメントで補足してください)

インド 全体では女性監督は100人超いるのでは、と思いますが、その中でコンスタントに商業上映用作品を発表できている人は10人程度では、と思います。ボリウッドではファラー・カーン監督が第一人者でしたが、確実にヒットを飛ばす、という意味では今やゾーヤ・アクタル監督がトップでしょう。ファラー・カーン監督作のように豪華大作ではないものの、常にクリーンヒットを放っている、という感じなのが、ゾーヤ・アクタル監督です。また、プレスにも書いたのですが、アヌラーグ・カシャプ、カラン・ジョーハル、ディバーカル・バネルジーという個性的な大物監督たちと組んで、2本のオムニバス作品『ボンベイ・トーキーズ』(2013)と『慕情のアンソロジー』(2018)も発表し、今も1本のオムニバス作品が進行中とか。アヌラーグ・カシャプにカラン・ジョーハルと言えば、言葉は悪いですがボリウッドの大ボスと言ってよく、そんな人たちと対等に仕事を進めていける力量は、ジェンダー差別など吹っ飛ばす実力を感じさせます。写真で見るとごく小柄な人なのに、どこにそんなパワーが、という感じですが、来日時どんな監督なのか、皆さんもしっかり見てみてくださいね。

Reema Kagti and Zoya Akhtar.jpg

来日には、共同脚本を執筆したリーマー・カーグティーも伴ってくるようです(上の写真はリーマー・カーグティーのWikiより。右はゾーヤ・アクタル監督です)。この人も監督で、詳しくは公式サイトの一番最後を見ていただきたいのですが、インド独立前後時のホッケーチームの苦悩と活躍を描いたアクシャイ・クマール主演作『Gold(金メダル)』(2018)等、印象に残る作品を作っています。9月5日(木)の舞台挨拶には登場しないかも知れませんが、インタビューの時はできればリーマー・カーグティー監督にもお話をうかがえたら、と思っています。9月5日(木)に『ガリーボーイ』をご覧になる皆さん、ぜひゾーヤ・アクタル監督のトークと作品を楽しんでくださいね。

<追記>監督のトーク付き先行上映のご案内はこちらです。おっと、ツインさんからのご連絡によると、リーマー・カーグティー監督も一緒に登壇する模様。この日いらっしゃる皆さんはラッキーですね~♥



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4 コメント

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どうぞご無事で (アーナンディ)
2019-09-01 16:45:03
香港の状況はとても緊迫しているとのこと。移動も、映画を観るのも、何もかも大変そうですね。予定通り、無事にお戻りくださいね。問題なく帰国されますようお祈りしています。
返信する
アーナンディ様 (cinetama)
2019-09-01 23:16:09
励ましのコメント、ありがとうございました。

今日も空港が標的になり、さらには空港行きのエクスプレスの線路にものが投げ込まれたり、駅が被害を受けたりしたため、エクスプレスは止まったままです。
さて、無事に帰国できるのやら...。
アーナンディさんのお祈りが頼りです...。
返信する
ガリーボーイみました (naoki)
2019-09-11 22:00:57
cineたま先生,ブログたまに覗かせていただいております。この情報量!これって書籍何冊にもなるのになあって思っています。ありがたい,無料で読めちゃう,申し訳ないですがね。

ガリーボーイ,評判なので少し前(日本公開前)にアメリカのアマゾンプライムでみました!

正直,英語の教員でありながら正直な告白ですが,やはり日本語字幕のほうがストレートに入ってきますねえ。英語字幕なのでやっぱりワンクッション,感情の高ぶりがおさえられる感じ。

バスの後部座席でイヤホン共有するシーン,あれ好きです!なにかの映画のオマージュでしょうか,ありそうといえばありそう。

へんなところではラップ大会で阪神タイガースの縦縞出てくるのが意外でした。あちらではふつうにみる服なんでしょうか。

エグすぎるシーンもないし,基本的にハッピーエンディングなので私の好み。またじっくりみかえしてみます。映画館で日本語字幕みられるうちにみておかんと・・・。最後は泣きました!

でもやっぱり,ちょっと笑わしてほしいので,今年の中ではシークレットスーパースターですね,私は。号泣。次がバジュランギおじさん。

ヒンディーミディアムもアメリカアマゾンでみましたが,こっちはクスっとと感動ともに,物足りなかったかな。

ケサリもアメリカアマゾンでみられるのでまたみます。

saaho,たしかにtwitter上でも絶賛のようですのでたのしみです。
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naoki様 (cinetama)
2019-09-11 22:18:42
コメント、ありがとうございました。
アマゾン・プライムやネトフリでご覧になるのもいいかも知れませんが、せっかくの日本公開なので、ぜひ劇場で日本語字幕版をご覧になって下さい。
藤井美佳さんの上手な字幕で見ると、感動もひとしおです。
藤井さん、今年も大活躍で、『ガリーボーイ』『シークレット・スーパースター』『ヒンディー・ミディアム』『KESARI/ケサリ』みんな藤井さんの字幕です。
特に、『ガリーボーイ』の字幕はピカイチ!
あと、この間の先行上映の字幕はまだだったんですが、いとうせいこうさんがラップの歌詞を中心に手を入れて下さるようで、それも「一見の価値あり」要素です。

私の方は、今、いろんな機器上の危機にみまわれ、ブログ更新がままなりません。
日曜日まではめっちゃ忙しくてブログ更新ができなかったのですが、それが済んだと思ったら、カメラからパソコンに写真が取り込めない、等々のバグが立て続けに起こり、もうお手上げです。
何とか今日はブログ記事をアップしたいと思っているのですが...。
naokiさんの「この情報量!これって書籍何冊にもなるのになあ」というお言葉に励まされ、がんばってみます!
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