ずっと気になりながら見られなかった韓国映画『声/姿なき犯罪者』のオンライン試写を、やっと見せていただくことができました。見始めるとこれがもう、手に汗握ってしまう展開で、最後のやや脱力するエンディング直前まで、パソコン画面に引き入れられたまま身を固くしながら見てしまいました。ツッコミどころはあれど、抜群に面白い! 振り込め詐欺の悪党どもをこんなにスリリングに描いた映画って、これまでになかったのでは? それも、主人公の元刑事ソジュン(ピョン・ヨハン)の捨て身の活躍があってこそ、なんですが、2021年の韓国映画興収&観客動員数第4位、というのが大納得の作品でした。まずは作品データとストーリーからどうぞ。
『声/姿なき犯罪者』
2021年/韓国/韓国語/109分/原題:보이스(ボイス)
監督:キム・ソン、キム・ゴク
出演:ピョン・ヨハン、キム・ムヨル、キム・ヒウォン、パク・ミョンフン、イ・ジュヨン
提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
※10月7日(金)新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー
物語は釜山の、ある工事現場から始まります。ソジュン(ピョン・ヨハン)は元刑事なのですが、今はこの現場で班長として働き、街なかの食堂で働く妻ミヨン(ウォン・ジナ)と共に、自分たちの家を買う計画を練っているところでした。所長はソジュンを呼び、「来年からは現場主任になってもらう。給料も2割アップするぞ」と嬉しい知らせを伝えてくれます。そんな時、ソジュンは現場でヘルメットを被っていない若者を見つけ、注意します。その首にはタトゥーがあり、不審に思ったソジュンでしたが、高い所から労働者が落ちそうになる事故が起き、その対応に追われます。しかし、救急車を呼んでおこうとしても、携帯電話が全然通じないため騒ぎがさらに大きくなります。
ⓒ 2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED
同じ頃、店にいるミヨンに電話があり、弁護士と名乗った相手は「ご主人の現場で事故があり、労働者が亡くなった。ご主人に責任があるとして、今警察に捕まっている」というびっくりするような話をし始めます。そしてその弁護士は、「急いで示談にできれば逮捕を免れるかも。すぐに示談金7,000万ウォンを振り込んで下さい」と言うではありませんか。夫ソジュンには電話が通じず、パニック状態になったミヨンは、夫を助けたい一心でネット振り込みの手続きをしてしまいました。とその時ソジュンから電話が入り、事故はあったけれど労働者は助かった、と伝えられます。「詐欺だった!」と銀行に駆けつけたミヨンでしたが、すでに口座から大金が動いたあと。帰途その犯人からあざけるような電話がかかってき、それに気を取られたミヨンは車にはねられてしまいます。
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ソジュンが病院に駆けつけてもミヨンは昏睡から覚めず、そんな中、今度はソジュンの働く会社の所長が30億ウォンをだまし取られ、自殺してしまうという悲劇まで起きます。ソジュンは不審に思い、仲間から「元警官だろ。所長を騙した詐欺師を捕まえてくれ」と言われたこともあって、いろいろ調べ始めました。あの日に会ったタトゥーの男の身元がわかり、そこから辿ってどうやら韓国と中国をまたにかけた大規模な詐欺団が暗躍している、と知ったソジュンは、ITに詳しい女性カンチル(イ・ジュヨン)を仲間に引き入れて捜査を続けます。一方、警察もこの詐欺団の存在をつかんでおり、捜査主任のギュホ刑事(キム・ヒウォン)はソジュンに詰め寄られた時は何も言わなかったものの、中国大陸での捜査を準備していました。警察を見限ったソジュンは、自分が一味に潜入するしかない、と思い詰め、詐欺団のコールセンターがある瀋陽にやってきます。そこでソジュンが目にしたのは、クァクをリーダーとする詐欺団が運営する大規模なコールセンターでした...。
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あまりにも描かれる手口が緻密であるため、全部説明したくなってしまうのですが、映画的にいろんな部分が変えられているとは思うものの、実際の「振り込め詐欺団」を相当綿密にリサーチした印象を受けます。中国への人員移動のやり方、電話かけの現場での役割分担、ああ言えばこう言う対応や、ちゃんと脚本というかやり取りマニュアルが作られていることなど、おそらくかなり事実に基づいているのでしょう。実際の電話かけ現場は、電話で他の声音を拾ってはまずいため、ブースで囲ったり部屋を分けたりしていると思うのですが、映画的には上のような配置の方が絵になるのでこんな風な配置にしたのだと思います。一方、あまり詳細に描写しては詐欺師側の手本になってしまうため、そのあたりのさじ加減も考慮してあるようです。
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日本の事件でも、詐欺団のコールセンターがタイなどにあった事例がありましたが、これほど大規模な詐欺団が本当に存在するのか、と唖然としてしまいます。映画の冒頭、「振り込め詐欺の被害額は年々増えている」というテロップが出て、「2018年4,040ウォン、2019年6,398ウォン、2020年7,000ウォン」という数字が出てくるのですが、日本での被害額を考えるとまだ少ない感じがします。日本の最近の報道を見ていると、お年寄りの手元によくまあ何千万円もあるものだ、と思ってしまう特殊詐欺事件が次から次へと起こっています。本作を見ると、巧みな脚本と電話での上手なやり取りをコールセンターに雇われた人間がすぐに習得させられ、誰でもコロリと騙されてしまう、というプロの技なので、ちょっとぼーっとしたお年寄りなど騙すのは赤子の手をひねるように簡単なのでしょう。
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ピョン・ヨハンが活躍するアクション・シーンも見ものです。お年寄りに見せるにはスピーディーすぎてちょっと適さない作品だと思いますが、若い人を含む大勢の人が見て、特殊詐欺の裏面を知っておくのにも役立ちそう。最後に予告編と、メイキング映像を付けておきますが、メイキング映像に登場しているキム・ソン監督とキム・ゴク監督は、ご覧になってわかるように双子の監督です。これまでこの監督ペアは知らなかったのですが、最初は別々に撮っていた二人が、2010以降は二人三脚で撮るようになったようです。ストーリー、人物造形、アクション処理等々、いずれもなかなか達者なので、今後に大いに期待しましょう。
声/姿なき犯罪者:予告篇
声/姿なき犯罪者:メイキング映像
全然気がつきませんでした。
リンクを削除しましたので、これで大丈夫だと思いますが、勝手にリンク先を変えることができてしまうのですね。
怖いなあ、と思います。
まずは御礼まで。