昨日、9月30日は中秋節(チョンチャウジッ)でした。香港中に月餅が飛び交ったことと思います。私が愛用しているマクダル・カレンダーによると、今日10月1日は「中秋節翌日」でお休み、そして10月2日は「国慶節翌日」でお休みとなっています。振り替え休日ということなのでしょうか、「○○翌日」という呼び名、面白いですねー。10月1日を「中秋節翌日」兼「国慶節」としてしまうと、お休みが1日減るからこうなっているのかしら?
その中秋節で思い出したのが、10月13日から公開される香港映画『桃(タオ)さんのしあわせ』。映画の内容の紹介や感想はすでに3月にこちらの記事で書いているので、今回はクレジット等のご紹介がてら、細部のエピソードをフォローしてみたいと思います。
(C)Bona Entertainment Co. Ltd.
『桃(タオ)さんのしあわせ』 公式サイト
(原題:桃姐/2011/中国・香港/広東語/119分/字幕:遠藤壽美子)
<スタッフ>
監督・製作:アン・ホイ(許鞍華)
製作・原作:ロジャー・リー(李恩霖)
脚本:スーザン・チャン(陳淑賢)
製作:チャン・プイワー(陳佩華)
製作総指揮:ドン・ユードン(于冬)
アンディ・ラウ(劉徳華)
ソン・ダイ(宋岱)
撮影:ユー・リクウァイ〈HKSE〉(余力為)
編集:コン・チョーリン([廣+おおざと]志良)
マンダ・ワイ(韋淑芬)
音楽:ロウ・ウィンファイ(羅永暉)
音響:ドゥ・ドゥチー(杜篤之)
衣装:ボエイ・ウォン(王賓儀)
美術:アルバート・プーン(潘[炎炎]森)
<キャスト>
桃(タオ):ディニー・イップ(葉徳嫻)
ロジャー:アンディ・ラウ(劉徳華)
チョイ(老人ホーム主任):チン・ハイルー(秦海[王路])
ロジャーの母:ワン・フーリー(王馥茘)
カルメン(ロジャーの助手):イーマン・ラム(林二[さんずい+文])
”バッタ”:アンソニー・ウォン (黄秋生)
カム(老人ホーム住人):ボボ・ホイ(許碧姫)
キン(老人ホーム住人):チョン・プイ(秦沛)
ムイ(老人ホーム住人):ホイ・ソーイン(許素瑩)
カムの娘:エレーナ・コン(江美儀)
ジェイソン:ジェイソン・チャン(陳智■)
歯科医:チャップマン・トー(杜[さんずい+文]澤)
映画プロデューサー:サモ・ハン(洪金寶)
映画プロデューサー:ツイ・ハーク(徐克)
本人役:ニン・ハオ(寧浩)
本人役:レイモンド・チョウ(鄒文懷)
本人役:ジョン・シャム(岑建勳)
本人役:ロー・ラン(羅蘭)
歌手:和田裕美
宣伝:ザジフィルムズ 提供・配給:ツイン
10月13日(土)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
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中秋節のエピソードは、桃姐が老人ホームに入ったあとで出てきます。チャリティー活動の盛んな香港では、中秋節にはタレントが老人ホーム慰問に来たりするのですが、その時に配られる月餅が何と!なのです。こういうからくり、私も初めて知りました。中秋節は、春節(旧正月)と並んで家族団らんの日として知られていますが、『桃(タオ)さんのしあわせ』ではその春節も描かれています。どちらも老人ホームで迎える、ちょっともの悲しいお祝い日です。
それから冒頭では、桃姐が街市(市場。ここでは青空市場)に買い物に行き、八百屋の保管庫に入ってニンニクを丹念に選ぶシーンがあります。お店の人はそういう桃姐にちょっとウンザリしていて、保管庫の温度を下げる意地悪をしたりします。「何でこんなに寒いのよ」と桃姐は震えながらニンニク選びを続けますが、ここは彼女の頑固な性格を描写するためのシーンかと思ったら、わけがあったようです。この中国語のブログで知りました。
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アンディ・ラウが演じるロジャーのお母さんは、敍香園というレストラン経営者のお嬢様でした。このレストランは街市に青物の店も持っており、食材は新鮮な物しか使わなかったとか。ロジャーのお母さんはお嫁に来たあと桃姐に様々な料理を教え、また新鮮な食材を使うことも教えたので、そのお仕込みにより、桃姐は食材にもこだわる人となったのでした。もともと料理の腕があった桃姐は、こうしてプロの料理も作れるようになったという、実に得難い工人(使用人)だったわけです。映画の中でロジャーが友人たちと味わう「鹵水牛舌」なんて、一度食べてみたいですね~。
そして、やっぱり身につまされるのが老人ホームのシーンで描かれるエピソードの数々。老人ホームに入ったばかりの桃姐がトイレに行こうとして、トイレ個室の臭いに閉口し、ティッシュを鼻に詰めてから再度入っていくシーンなど、監督の観察眼にうならされました。そう、床にお漏らしがあったりするので、いくらきれいに掃除してあっても「うっ」なんです。実は私も5月以降老人介護問題に少しだけ直面しており、3月に見た時と、先日試写で見せていただいた時とでは、ずいぶん印象が違いました。
でも、桃姐は幸せな老後を過ごしたと言えます。ロジャーという次世代がいてくれて、雇い主ながら桃姐を家族のように遇してくれたことが大きいのですが、それ以外に彼女がしっかりと自立心を持ち、最後まで寂しさに甘えることなく生き抜いたことも大きいと思います。自分なら、こんな風にできるかなあ、と考えさせられる作品です。
そういった地味なシーンと共に、アン・ホイ監督は「ハレ」のシーンも演出しています。特にロジャーが、自分がプロデュースした映画の完成披露パーティーに桃姐を連れて行くシーンは、心がほっかりと暖まります。「ここで待っていて」とロジャーに言われて座っていたら、隣の席でタバコをスパスパ吸っている青年(よりちょっと上?)が気になり、思わず「タバコは体に毒よ」と説教してしまう桃姐。その青年が何と、『モンゴリアン・ピンポン』 (2004)や『クレイジー・ストーン~翡翠狂想曲~』 (2006)で有名な中国の寧浩(ニン・ハオ)監督だった!という楽しいエピソードや、香港製ホラー映画や『OVER SUMMER 爆裂刑警』 (1999)でお馴染みのベテラン女優羅蘭(ロー・ラン)がスターのオーラを放ちながら登場するシーンなどは、見ているこちらの気分も高揚します。
老人問題という暗くなりがちのテーマを、やさしさに包んで呈示してくれるアン・ホイ監督。この秋一番の秀作と言ってもいい本作、どうぞお見逃しなく。