シンガポール滞在も残り少なくなり、見ておきたい映画をなるべく遠くの映画館で見る、ということをやっています。遠くまでわざわざ行くのは、高架鉄道に乗りたいがため。シンガポールの地下鉄も日本の地下鉄と似ていて、中心部以外は地上を走っており、高架になっているのです。高架鉄ちゃんの私は、高い所から街の構成を見るのが大好きなのでした。
それで、今回はこれまで乗ったことのなかったセントーサ島行きのセントーサ・エクスプレスに乗ることにしました。小さなモノレールで、地下鉄ハーバーポイントの駅から続くショッピングモールの上階に駅があります。セントーサ島は入島料が4ドル(300円強)かかるので、それが運賃と言えば運賃。スイカのような地下鉄のカードが使えます。これまで、たった10分かそこらのモノレールで4ドルも、と思って行かなかったのですが、今回は思い切って行くことにしました。
セントーサ島は、いわばディズニー・ランド+ディズニー・シーみたいなもの。遊ぶ場所がいろいろあり、中にはホテルもあります。マーライオンもあった! 初めて見ました、マーライオン。
モノレールはこんなかわいい車体で、オレンジの他緑やピンクなどいろんな色に塗ってあります。ただ、運転席が前にあって、客席(ほとんどが立ち席)との間にブラインドが降りているので、つまりません。地下鉄の軽便路線のように、前が見える車体だったらいいのに。こんな風にレールが曲がっていたりする所は、やっぱり前面を見たいです~。でもまあ、これでシンガポールの高架は大体乗ったからいいか。
というわけで、シンガポールの南端とも言える駅ハーバーポイントから、今度は北端の駅ウッドランドへ。ウッドランドは昔からタミル語映画を上映する映画館があり、7、8年前はよく通いました。しょぼい映画館でしたが、それが今はなくなって、コーズウェイ・ポイントというショッピングモールの上階にキャセイ系のシネコンができました。そこで見たヴィジャイ主演の『ボス(Thalaivaa)』は、英語字幕付きでした。やった! ただ、あまり上手ではない英語字幕でした...。
「Thalaivaa」は、映画の中では「Leader」と訳されていました。映画の冒頭、リンカーン、マルクス、レーニン、マハートマー・ガーンディー、チャーチル、毛沢東、チェ・ゲバラ、ネルソン・マンディラ、カストロ、マルコムX、ホー・チミン、さらにはリー・クワンユー(シンガポールの元首相)まで、似顔絵と生没年など簡単な紹介が出てきます。そういう政治家の映画なのか?と思っていたら全然違いました。やはり「ボス」、あるいは「ドン」と訳すのが適切な男が主人公で、ストーリーはこんな感じです。
主人公ヴィシュワ(ヴィジャイ)の父アンナーことラーマドゥライ(サティヤラージ)は、あるいきさつからムンバイのドンとなった人物。それまでドンだった男に妻を殺され、復讐のために彼を殺してドンとなったアンナーでしたが、その男の遺児ビーマ(アビマニュ・シン)に命を狙われていました。一方ヴィシュワは、ヤクザな世界から遠ざけたいと思ったアンナーが知人(ナーサル)に託してチェンナイで育ててもらい、今はオーストラリアのシドニーで知人の息子ローグ(サンタナム)と共に働いています。ところが、ヴィシュワがシドニーでレストランを開こうとするタミル人の父娘に会い、その娘ミーラ(アマラ・ポール)と恋仲になってしまったことから、物語は急展開を迎えます。父娘をムンバイに連れて行き、父アンナーに紹介しようとしたヴィシュワでしたが、彼の目の前で父を乗せた車が爆発し、さらにヴィシュワはとんでもない裏切りに遭うことに...。
導入部はちょっと悲惨な状況が出現するのですが、その後はシドニーで水ビジネスをしながらダンス・パフォーマンスに力を入れるヴィシュワが明るいタッチで描かれます。ところが後半、様相は一変、父の跡を継いで「ボス」となったヴィシュワを巡る、凄惨な世界が描かれていきます。いやー、ちょっとやりすぎじゃないの、という血まみれ世界です。ダンスシーンが楽しくて見応えがあるだけに、1粒で2度おいしいというか、違う味を食べさせられて咀嚼できないというか。冒頭に、「この映画の中では動物を傷つけていません」とお決まりの断り書きが出るのですが、「動物」って人間のことだったの、と言いたくなる映画です。
あと、面白かったのは、飲酒シーンになると「飲酒はいけません」というような断り書きが画面に出ること。以前買ったラジニカーント主演の『インディアナ・アドベンチャー/ブラッド・ストーンの謎』 (1988)のインド版DVDに、飲酒と喫煙の箇所になると必ずこういう警告が画面に出てきたことがあったのですが、まさか映画の画面にまで出てくるとは。ヒンディー語映画には出てこないので、タミル・ナードゥ州の規制なのでしょうか? しかしこの映画に関して言えば、むしろ「人を傷つけたり殺したりするのは法律違反です」とでも出した方がいいのでは、と思わせられました。
監督は、『神さまがくれた娘』 (2011)のA.L.ヴィジャイ。あの感動路線とはまったく違った作風になっています。ただ、出演者がたくさんかぶっていて、それはちょっと嬉しかったです。『ボス』のヒロイン、アマラ・ポールは、『神さま~』では主人公クリシュナの義妹役でしたし、最近大人気のコメディアン、サンタナムも弁護士の卵役で出演していました。また、同じく弁護士の卵役の男優や、医師役の人、お父さん役の人等々、おなじみの顔が出ていました。A.L.ヴィジャイ監督組、というのがあるのかも知れませんね。
そんな血まみれ映画とは代わって、ほのぼの~、だったのが、東の端に近いタンピネス・モールで見たシンガポール映画『僕の友だち、僕の同級生、みんな大好き(我的朋友、我的同学、我愛這的一切)』。時代は1993年、高校生だった4人組が4人の女の子と出会い、恋をしていくお話です。その間に、高校で彼らがやるエグい商売や、主人公佳明(陳世維/ダレン・タン)の家庭の事情などが差し挟まれ、最後は20年後、現在の彼らの姿となります。シンガポールは当時こんな感じだった、というシンガポール映画が大好きなテーマを扱っているのですが、ちょっと首をかしげるシーンも。悪くはないものの、ノスタルジーだけで作るのもなー、という感じの作品でした。監督は蔡干位という、ホラー映画を撮ったりしている人です。とりあえず、シンガポール映画が見られてよかった~、というところでした。
最後に、最近シンガポールで流行っている食べ物をちょっとご紹介。日本でもうどんにいろいろトッピングする、というのが一時流行りましたが、そのシンガポール版です。3種類ぐらいの麺と、30種類ぐらいのトッピングが用意され、大きなボウルにそれを入れていって、最後はみんな湯通ししてスープをかけてくれる、というものです。気をつけていると、あちこちのフードコートに出現していました。中心部オーチャードのショッピングモールの食堂では、5種類か6種類入れて5.9ドル(約450円)、下の写真のコーズウェイ・ポイントでは7種類で4.2ドル(約320円)でした。スープの味はオーチャードの方が断然よかったです。でも、コーズウェイ・ポイントでは、映画館の冷房で冷え切った体を温めて生き返らせてくれたのでした。