昨晩はIFFJで見逃した作品『恐怖症』(2016)をキネカ大森に見に行きました。原題を「Phobia」というこの作品は、パワン・クリパラニ監督によるサイコスリラーで、『Kabali(カバーリ)』(2016)でラジニカーントの相手役を務めたラーディカー・アープテーが主演しています。なかなか意欲的な作品であり、広い方のスクリーンでゆったりと見ることができたので、結構楽しめました。ですが、ホラー風味もたっぷり盛り込んだ本作は、少々盛り込みすぎの感もあって、脚本のほころびも目立ちました。それにしても、インド人観客はこんな映画を好んで見たいと思わないのでは? 大都市のシネコンの昼間上映向け作品ですかね~。そうそう、先日試写で見たばかりの『汚れたミルク あるセールスマンの告発』(2014)に医師役で出ていたサティヤディープ・ミシュラが、ヒロインの恋人役で出ていました。
ところで、キネカ大森に行ってびっくりしたのは、サルマーン・カーン主演作『スルターン』(2016)の日本版DVDが発売されていたこと。発売元はスペース・ボックスという、インド映画の自主上映をしている組織で、帰ってから見てみると、一応きちんとした日本語字幕が付いています。字幕翻訳者(プロの方ではないようです)のクレジットもなく、発売元の名前も小さく書いてあるだけというDVDですが、お値段は3,800円+税で良心的。しかし、ネットでググっても出てこないので、スペース・ボックスの上映がある会場でのみの販売なのでしょうか。興味がおありになる方は、直接スペース・ボックスに問い合わせてご覧になった方がいいかも知れません。インドの製作会社ヤシュ・ラージ・フィルムズは大手なのですが、自主上映(ホール上映)とDVD発売だけの権利販売とは、新作の大作&ヒット作なのに、何だか変な売り方をしたものですね。
<注追記>今、配給関係に詳しい方が教えて下さったのですが、最近は「3ヶ月期間限定の劇場公開権」なんていう売り方もあるそうです。インド映画自主上映の各組織が、イオンシネマやキネカ大森等、よく一般の映画館を使うなあ、と思っていたら、こういう買い方をしているのかも知れません。
このスペース・ボックスは、昨年からボリウッド映画の話題作をどんどん自主上映している組織で、彼らが今度手がけるのが、1月25日(水)にインドで公開予定のシャー・ルク・カーン主演作『Raees(大物)』。そのチラシも、キネカ大森に置いてありました。上にリンクを張ったスペース・ボックスのHPから予約ができるようですが、今後はここが英語字幕でまず上映し、半年ぐらいしてから日本語字幕DVDを発売、という形でのインド映画日本上陸が多くなるのかも知れませんね。それが定着してしまうと、配給会社もアホらしくてインド映画の大作は買わなくなるでしょうし、いいんだか、悪いんだか、というところです。
インドでの公開日決定と同時ぐらいに買い付け交渉を始めても、日本の配給会社はオールライツ(劇場公開、ソフト発売、テレビ放映、グッズ発売などすべての権利を含む契約)で買うために、なかなか契約が成立しないことがインド映画の場合多いのです。というのも、インドの製作会社は映画が完成するとすぐ衛星放送テレビに放映権などを売ってしまうためで、それだけで製作資金が回収できたりするほど、テレビの放映権料はいい値段になるのです。でも、それがないとオールライツが欠けるわけで、その場合はややこしい交渉をせねばならず、インド映画はホントに配給さん泣かせのようです。私も配給会社の人間ではないので、個々のケースの詳しい事情はわからないのですが、映画の公開が日本でかなり遅れてしまうのも、インド側の事情が関係していることが多いと聞いています。
韓国映画や香港映画並みにビジネスがスムーズに進むようになれば、インド映画も日本市場を開拓できる、と思っていたのがもう10数年前。1980年代後半から1990年代にかけては香港映画に、2000年代の半ばには韓国映画にやってきた”大ブレイク&ブーム@日本”は、インド映画にはいつ来るのでしょうか...。