日本グルーヴチューン振興会

レヴュー:『無から出た錆』熊木杏里

熊木杏里待望のセカンドアルバムがリリースされた。レーベルを移籍しても、彼女の音楽は何も変わらず(むしろ進化を遂げている)見事に“熊木杏里”の世界を見せてくれている。

個人的に彼女の音楽は「ギリギリのバランス」で成り立っている様に感じる。80年代ニューミュージック系シンガーソングライターを彷彿とさせる部分と、決してノスタルジックにならず“今”を感じさせる部分を併せ持つソングライティング能力。ウィスパー気味で一見(一聴?)か細く思える部分と、優しく力強くフックを持ったオーラを感じる部分の両面を見せるヴォーカル。スピリチュアルなメッセージを描き出す部分と、コンクリートな風景の見える世界を紡ぎ出す部分が同居する詩。どれをとっても見事なバランスで釣り合いを保っている様に思える。どっちに偏っても「その他大勢」に埋没する気がする。私が感じる『熊木杏里』は、そういうアーティストなのだ。

吉俣良という彼女にとって最良のアレンジャー&プロデューサーと二人三脚で作られた、このアルバムは曲のクオリティも粒揃い。「長い話」「あなたに逢いたい」「景色」「イマジンが聞こえた」などイイ曲がいっぱい詰まってるけど、マイベストトラックは「ムーンスター」。自然に身体を揺らしてしまうキュートなポップナンバー。この曲を聴く度、思わず顔が綻んでしまいます。

最後に、最近スポーツ紙で「金八先生」の挿入歌として評判になっている、との記事がありました。ブレイクするかどうかは分かりませんが、あの「私をたどる物語」で彼女に興味を持った人は、是非このアルバムまで辿り着いて欲しいと思います。それだけの価値が、このアルバムにはあると確信しているから。

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