「償いの雪が降る」
母子家庭で育ったジョーは実家を出て念願の大学進学を果たす。授業で身近な年長者の伝記を書くことになり、祖父母も父親もいないため介護施設を訪れたところ、末期がん患者のカールを紹介される。カールは三十数年前に少女暴行殺人で有罪となった男で、病気のため仮釈放され、施設で最後の時を過ごしていた。カールは臨終の供述をしたいとジョーのインタビューに応じる。話を聴き、裁判記録を読むうちにジョーは事件に疑問を抱くようになり、真相を探り始めるが……。
一気読みしてしまった。やたら評判の良いミステリー。評判どおりです。
ええもん読んだわーーー
読み出したらやめられませんでした。
すっきりとした文章。
まとまっていてだらだらせずキレイに収束へ向かうのがよかった。姑息な誘導や引き伸ばしのない、どの章も絶対に必要だけど過剰ではないシンプルな筋立て。
美しくて悲しくて、けど読後感のいいこと。タイトルが最後ずしんと来る。
The Life We Bury
主人公のジョーがめちゃくちゃいい。とにかく好きにならずにはいられない大学生。
とても普通。スーパーマンでもやれやれなろう系でもない、とにかくただ普通なんだけど、凡庸なんだけど、考え無しなところもあるんだけど、でも優しくて弟思いで、そして一対一なら、なんとか勝てるくらいには強い。そしてとんでもない危機を創意工夫で何とかそこそこ乗り切る。そこそこ。そこ大事。
弟も、隣人の女の子もいい。
なんといっても余命いくばくもない仮釈放中の暴行殺人犯のカールのキャラクターが切なくて素晴らしい。
憎たらしい奴はとことん憎たらしい、とくに母親…
推理小説としては、すぐに「あ、こいつ怪しい」ってわかるようになってる。つまりはそこはたいした問題ではないのです。
出てくる人物の埋められていた過去が少しずつ少しずつ浄化されていく、そこが多分作者の描きたかったことなんでしょう。
最後の最後、「あーー、よかった」ってなる。
心配がいくつか消えます。清清しいです。夢中で疾走して走りきった後少しずつスピードが落ちていく気持ちよさが残ります。
脇役である刑事や大学教授など、描写は少ないんだけどやたら魅力的だ、と思ってたら彼らを主役にしたスピンオフ的な続編が枝分かれのように続いているそうです。
訳されるのを楽しみにしてます。
次でたら必ず買います。
アレン・エスケンス。これデビュー作なの?すごい。
訳もいいです。務台夏子さんの読みやすくて硬派な文体が、感傷的にならないぎりぎりのところ保っていて、それがまた素晴らしくてしみじみ泣きたくなります。
この方も好きな翻訳家さんです。
後書きもいい。主人公の彼を「応援したい主人公ナンバー1」とか書いててどこがいいか楽しく丁寧に解説されていて、あー語彙の豊富さ的確さ、尊敬します。追いかけます。ジョーとジェレミーの続きが知りたい。