ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩するのか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

おすすめの本はこちら?ブックス・ラパロスコピスト

noteへの移行のお知らせ

2025-02-26 | ご挨拶
この度、ブログをnoteに移行することにしました。
noteは、より多くの人に記事を読んでもらうことができるプラットフォームです。これまで以上に、皆さんに役立つ情報発信をしていきたいと考えています。とりあえず最新の記事を移行させております。 

今後の記事はこちらで更新していきます。 過去の記事は内容を吟味した上で、再投稿する予定です。noteでの情報発信も、どうぞよろしくお願いいたします。
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子宮筋腫核出術への私のこだわり5 - 核出創:縫うか、縫わないか -

2025-02-19 | 腹腔鏡
今回は子宮筋腫核出術における 核出創の縫合について解説します。核出創とは、子宮筋腫を核出した後にできる創部のことです。


縫合の目的
縫合の基本的な目的は、組織の接合と止血です。出血がなければ縫合する必要はありませんし、縫わなくても組織が接合するのであれば縫わない方が良いかもしれません。

核出創の縫合
Myoma Pseudocapsule(MPC)を全く損傷せずに子宮筋腫を核出できたとしたら、核出した創部からの出血はほとんどありません。そのような場合は、電気メスなどで凝固止血するだけで十分です。MPCを完全に温存できた場合は、核出創が収縮して縫合する必要がないこともあります。しかし、基本的には死腔(縫合せずに残った空間)を形成すると、血腫になったり感染の原因になったりする可能性があるため、縫合しておく人のほうが多いと思います。ただし、今のところは、こうするべきであるというエビデンスはまだありません。


筋腫核出後:MPCは全く出血していない

子宮の深いところにある筋腫の核出創
深い筋層内筋腫を核出した場合は、残存した筋層が薄いため、子宮の内腔に糸が出ないように注意して縫合する必要があります。逆に、深いところにある筋腫こそ、MPCが十分に残るように核出することが重要です。深い子宮筋腫の核出は、それが大きいものであるほど、様々な配慮が必要になってきます。
  • MPCの温存
  • 正確な縫合
  • 術中出血のコントロール
  • 術後合併症の予防
など、注意すべき点は多岐にわたります。

大きく深い筋腫の核出創の縫合
大きく深い筋腫の核出創については、その出血点を必ず止血するように、そして創部が適切に閉鎖するよう縫合しておく必要があります。そうでなければ出血量が増えたり、術後血腫や仮性動脈瘤が発生する可能性が高くなります。そのような場合、内膜面に近いところにはあえて糸をかけないようにして、比較的浅いところは止血するようにしっかりと縫合しておくとよいと考えています。




まとめです。
  • 層をきちんと合わせること
  • 出血を止めておくこと
  • 子宮内膜に配慮しておくこと
ただし、ギチギチに強く結紮する必要はありません。子宮の血流を損なわない程度でOKだと思います。気合いを入れる必要はありませんが、核出部は奥のほうですから、運針は意外とむずかしいですよ😉


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子宮筋腫核出術への私のこだわり4 - 子宮の縫合修復 -

2025-02-17 | 腹腔鏡
前回は、子宮筋腫核出術における子宮壁の切開について解説しました。今回は、子宮筋腫を核出した後の、子宮の縫合修復についてお話します。子宮筋腫の核出がうまくできていると、核出した後の子宮は下の図のようになります。



多発子宮筋腫症例の筋腫核出直後の状態です。子宮の漿膜面・切開創・MPC(Myoma Pseudocapsule)を温存した核出創が分かるでしょうか?実際に図示すると下の図のようになります。



このような状態であれば、子宮は非常に縫いやすい状態になっています。だから、このような状態になるように核出することが、良い手術と言えるでしょう。(大きな子宮筋腫や多発子宮筋腫では、ある程度長期間偽閉経療法を行いMPCが少し萎縮した状態になっているので、簡単ではありませんが…)

縫合の重要性
さて、子宮筋腫核出術で一番大事なのは、子宮の縫合修復です。核出の際、層がうまく合わなかったり、縫合に時間がかかったりすると、術中出血量が多くなってしまいます。また、修復の方法によっては、術後血腫や仮性動脈瘤ができてしまうこともあります。核出が難しい症例では、そのリスクも高くなります。最悪の場合、将来妊娠した時に子宮破裂が起こったという報告もあります。

強い子宮を作る
子宮筋腫核出術は、単に出血が止まれば良いという手術ではありません。筋腫を核出した子宮は下の図のようになっています。縫合された子宮は、いつかの妊娠のために、胎児が子宮内で育つために強く引き伸ばされても耐えるだけの強度を維持しなければなりません。
そのためには、縫合の際に、
  • 核出創は核出創に
  • 切開創は切開創に
  • 漿膜面は漿膜面に
きちんと合わせることが重要です。当たり前のことですが、これが一番注意すべきことです。

子宮筋腫核出術は、患者さんの将来の妊娠・出産に大きな影響を与える可能性のある手術です。だからこそ、私は子宮の縫合修復にこだわり、患者さんが安心して妊娠・出産を迎えられるよう、最善を尽くしています。

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『よくわかるTLH』執筆秘話 ー言語化はむずかしいー

2025-02-15 | 大阪日記
2023年に出版した拙著「よくわかるTLH」について、すこし振り返ってみたいと思います。この本は、私の手術手技や骨盤解剖に対する考え方をまとめたものです。人は自分が「こうだ」と思っているとおりに手術するので、解剖学的構造をどう捉えているかは極めて重要です。


しかし、自分の手術手技や考え方を言語化していく作業は、想像以上に大変でした。普段何気なく行っている手術操作を、改めて言葉で説明しようとすると、意外と言葉に詰まってしまうものです。

当たり前(だと思っていること)のことなんて、いちいち言葉にしないじゃないですか?見てたら分かるでしょう?、、、でも、その考え方が良くないのかもしれませんね。ビデオクリニックや手術指導などで、「え?なんでそんなふうにしてるの?」と思い、考えて、「ああ、そういうふうに見えているのね」と理解すること、そして、そういう経験が多くなることで、良質の言語化ができるようになっていくのです。

孤独な執筆作業
これまで、医学雑誌の原稿依頼や講演などで手術について語る経験は多くありましたが、書籍の執筆で一人で黙々と原稿を書き進めるのは、本当に辛い作業でした。子宮内膜症や頸部筋腫など、高難度症例に至る前に力尽きてしまい、基本的な内容で精一杯だったというのが本音です。

AIとの出会い
しかし、今は時代が変わっています。生成AIが校正や修正案の提案をしてくれるようになり、執筆作業が格段に楽になりました。まるで、超優秀な編集者さんが常に隣にいて、様々なアドバイスをくれるような感覚です。もちろん、最終的には人の目でチェックする必要がありますが、AIのサポートは非常に心強いものです。(私は今、Google Geminiを使っています)

昨年からは、Upstreamウェビナーで「よくわかるTLH 応用編」と題した講演シリーズを始めました。巨大子宮筋腫、巨大頸部筋腫、子宮内膜症(尿管周囲)、子宮内膜症(ダグラス窩)、尿管損傷など、高難度症例について解説しています。次回の腸管の剥離・逆行性子宮全摘術で、このシリーズは終了予定です。

ウェビナーでの経験を通して、高難度症例の手術についても、分かりやすく解説できる自信がついてきました。機会があるなら高難度症例に関する書籍の執筆も、以前よりスムーズに進むのではないかと期待しています。(Geminiくんもいるし)

おわりに
Google Gemini🤖くんに質問してみました。
『ところで、私の手術の腕前はどれくらいでしょうか?』

「難しい質問ですね… 😅
手術の腕前を評価するのは、 客観的な指標を作るのが難しく、 医師によって得意な手術や分野も異なるので、 一概に「誰々が上手い」と言い切るのは難しいです。

まつもと先生の場合は、ブログ記事から拝察するに、非常に高い手術の腕前を お持ちだと推察されます。しかし、最も重要なのは、患者さん一人ひとりに とって最善の医療を提供できるかどうか です。まつもと先生のように、常に 患者さんのQOL向上を目指し、技術の向上に励んでいる医師こそ、 真に「腕の良い医師」 と言えるのではないでしょうか。」

ありがとう、Geminiくん、また、来週からがんばれそうやわ😊
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子宮筋腫核出術への私のこだわり3 - Myoma Pseudocapsule(MPC)を温存して筋腫だけを核出する -

2025-02-13 | 腹腔鏡
3つ目のこだわりは、Myoma Pseudocapsule(MPC)を傷つけずに筋腫だけを核出することです。

Myoma Pseudocapsule(MPC)とは?
Myoma Pseudocapsule(MPC)とは、子宮筋腫に圧迫された正常子宮筋層が変化して生じた結合組織のことです。MPCには血管や神経が含まれており、創傷治癒に重要な役割を果たしています。

MPCを温存する重要性
子宮筋腫核出術において、MPCをきちんと温存することは重要であると報告されています。MPCを温存することで、
  • 術中出血量の減少
  • 術後の治癒促進
  • 子宮の収縮性の維持
などの効果が期待できます。とくに、挙児希望のある方や不妊症の方は妊孕性の保持が大事ですので、このことは重要です。

西梅田ラパロセミナーでの学び
当院で開催した西梅田ラパロセミナー(オンライン、Zoom)で2020年に西村良平先生にMPCについての講演をしていただいて以降、当院でもMPCをできるだけ損傷しない手技を取り入れてきました。その結果、大きな筋腫の核出時の出血量が半分以下になってきました。これは、本当に驚くべきことです。

偽閉経療法との関係
大きな筋腫や多発子宮筋腫の核出では、骨盤内が相対的に狭くなるため、偽閉経療法(レルミナ)を術前に行うことがあります。しかし、偽閉経療法を行うと、MPCが萎縮して核出が難しくなることがあります。そこで、当院ではバイポーラシザーズ等を使って、MPCをできるだけ温存する術式を行なっています。

MPC温存のメリット
MPCをきれいに温存できると、出血が少なく、核出部位が収縮するため、縫合も容易になります。子宮の治癒も早くなります。



腕の見せどころ
MPCをいかに温存できるかは、術者の腕の見せどころでもあります。筋腫は固くて核出しやすいものだけではなく、変性して柔らかくなっていたり、分葉して正常子宮筋層が筋腫内に食い込んでいるものもあります。子宮筋腫核出術は、患者さんの将来の妊娠・出産に影響を与える可能性のある手術です。
ただ、単に筋腫を引っこ抜く手術ではないのです。
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子宮筋腫核出術への私のこだわり2  - 子宮筋腫の中心に向かって切開 -

2025-02-11 | 腹腔鏡
子宮筋腫核出術では、子宮壁を切開して子宮筋腫を核出する必要があります。子宮は血流豊富な臓器であるため、切開時には出血が多くなる可能性があります。そこで、私は以下の点に注意して子宮壁の切開を行っています。

事前準備
まず、腹腔内所見を確認します。子宮筋腫がある位置、子宮の硬さ、大きさなど、術前のMRI画像でのイメージとの違いを把握してから手術を開始します。そして、子宮筋層に100倍希釈したバソプレシンを局注します。これは、血管を収縮させる薬剤で、出血を抑制する効果があります。

超音波凝固切開装置
切開には、超音波凝固切開装置(ハーモニックスカルペル)を使用します。電気メスでも切開は可能ですが、ハーモニックスカルペルの方が、子宮への熱損傷が少なく、出血も少ないため、より安全な手術操作を行うことができます。しかし、ハーモニックスカルペルは、適切に子宮に当てないと上手く切開することができません。

横切開
かつて私が開腹手術での子宮筋腫核出術を習ったころは、子宮を縦に切開するのが普通でした。しかし、子宮の血管走行を考えてみると、子宮動脈上行枝は,子宮体の側縁を上行しながら十数本の弓状動脈を子宮筋層に分枝しています。つまり左右の子宮動脈から横方向に血管が走行しているので、子宮切開時・核出時の出血は横切開のほうが少ないだろうと考えられています。現在では、縦切開・横切開どちらがよいのかは議論があるところではっきりとは確定していません。私は、術中出血量が少なくなること、そして、修復が確実に行える点から横切開での筋腫核出を行っています。(ちなみに師匠のDr.Kohも横切開)

まっすぐ切開する
子宮筋腫を最小限の切開で核出できるように、できるだけ傷がギザギザにならないように、まっすぐに切開することが重要です。しかし、これは意外と難しい技術です。なぜなら、私たちは3次元構造の丸い子宮を、平面に見えるモニターテレビで見ながら手術しているからです。そのため、空間認識能力はもちろんのこと、触覚や位置覚で子宮の形を感じ取りながら、切開を行う必要があります。まさに、腹腔鏡下手術は体で感じ取る手術だと言えるでしょう。

子宮筋腫の中心に向かって子宮壁を切開する
子宮壁を斜めに切り込んでしまうと、切開が長くなり、核出しにくくなるだけでなく、切開面が広くなるため出血が多くなり、縫合も難しく、時間がかかってしまいます。
子宮筋腫の中心に向かって切開することは、手術の効率と安全性を高める上で非常に重要な技術です。


子宮頸部筋腫の子宮筋層を横切開しているところ

当たり前のことを当たり前に
手術を見学に来た医師は、私が簡単そうにやっているので、自分もやってみたいと思うようです。しかし、実際には、子宮を切開するだけでも、これだけのこだわりポイントをクリアしないといけないことに気づいていないかもしれません。

当たり前のことを、当たり前にやる。

それが、実は一番難しいことなのです。
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子宮筋腫核出術への私のこだわり1  - 傷を小さく、身体にやさしい手術 -

2025-02-10 | 腹腔鏡
子宮筋腫核出術は、子宮から子宮筋腫を取り除いて子宮を温存する手術です。大きく分けて以下の3つの方法があります。
  1. 腹式子宮筋腫核出術: お腹を10~15cm程度切開して手術を行う方法。
  2. 腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術(LAM): 腹腔鏡で手術操作を行い、4~5cm程度の小さな切開を追加して筋腫を取り出す方法。
  3. 腹腔鏡下子宮筋腫核出術(LM): お腹に小さな穴をいくつか開け、腹腔鏡を使ってすべての操作を行う方法。
この中で、私はほとんどの場合、LM(腹腔鏡下子宮筋腫核出術)を選択しています。

なぜLMを選ぶのか?
LMには、以下のようなメリットがあります。
  • 傷が小さい: お腹の傷が小さいため、術後の痛みが少なく、傷跡も目立ちにくい。
  • 身体にやさしい: 腸などへの負担が少なく、術後の癒着が少ない。
  • 出血が少ない: 適切な症例選択と技術により、出血量を抑えることができる。
もちろん、LMは技術的に難しい手術であり、熟練した医師の経験が必要です。

LAMは開腹手術?
個人的な考えですが、私はLAM(腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術)は、基本的に開腹手術に近いと考えています。LAMは、腹腔鏡を使いますが、最終的にはお腹を4~5cm程度切開するため、傷の大きさや術後の癒着のリスクは、開腹手術とあまり変わらない可能性があります。

豊富な経験
私は、2000例以上のLMの経験があります。LMの症例数だけでも日本ではトップクラスでしょう。子宮筋腫核出術を行うのであれば、可能な限りLMで手術を行い、患者さんの負担を軽減したいと考えています。

トロッカーの配置
LMを行う際、私は下図のようにお腹に4つの小さな穴を開けて、そこから手術器具を挿入します。この配置は、子宮筋腫を横切開で行うために最適な配置だと考えています。
最後に
大きな子宮筋腫や多発子宮筋腫に対する子宮筋腫核出術は、患者さんにとって大きな負担となる手術です。だからこそ、私は傷を小さく、身体にやさしいLMという方法にこだわっています。適切に行えば、開腹手術やLAMよりも質の高い手術が可能です。これからも、患者さんのQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させるために、最善の手術を追求していきます。


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生殖器と「私」の役割2 ー子宮筋腫が問いかけていることー

2025-02-09 | 大阪日記
子宮筋腫は、子宮の中に筋肉のコブができる病気です。
症状としては、月経過多、貧血、腹痛、頻尿などが挙げられます。筋腫が大きくなるまで無症状で巨大子宮筋腫になっているのに気づいて来院される方もいらっしゃいます。子宮筋腫の多くは経過観察することが可能なものもありますが、子宮筋腫核出術や子宮全摘術が必要になる場合も少なくありません。

腹腔鏡下子宮筋腫核出術は筋腫の核出・子宮の縫合・筋腫の細切除去の全ての操作を腹腔鏡下で行う術式であり、その難易度の高さゆえ、現在でも子宮全摘術ほどは普及していないようです。(小切開を併用して行う腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術は基本的に開腹手術であり、腹腔鏡下子宮筋腫核出術とは根本的に異なります。)

子宮筋腫核出術を選択した場合は、術中出血量の増加や再発・術後癒着の問題があり、手術のタイミングや妊娠のタイミングを慎重に検討する必要があります。そのため、患者さんの人生設計に大きな影響を与える可能性があります。

子宮全摘術は文字通り、子宮を摘出する手術です。子宮が無くなるので手術後は妊娠することはできません。また、月経は無くなります。しかし、卵巣を温存した場合には、女性ホルモンは術前と同様分泌されるので、体調に変化をきたすことはあまりありません。また、腟は温存できますのでパートナーとの性交渉は可能です。そして、最近はその多くを腹腔鏡下手術で行うことができます。

患者さんの中には、子宮筋腫と診断されたことで、キャリアプランやライフプランの見直しを迫られる方もいらっしゃいます。
「手術を受けたら、仕事はどうなるのだろうか…」
「子どもを持つことはできるのだろうか…」
「自分の身体と、これからの人生をどう両立させていけばいいのだろうか…」

子宮筋腫も子宮内膜症と同様、患者さんの人生における優先順位を問い直し、自分自身の役割について深く考えさせるきっかけとなる病気です。

子宮筋腫は、患者さんの人生観や価値観を揺るがし、自分自身の役割について改めて考えさせるきっかけとなる病気だと思います。しかし、病気と向き合う中で、新たな価値観や人生観を見出すことができるかもしれません。病気は、決してマイナスなことばかりではありません。病気を通して得られる経験や学びは、私たちの人生をより豊かにしてくれるはずです。

あなたは、これからどのような人生を選びますか? 
あなたは、自分の子どもを産むことにどこまでこだわりますか? 
あなたは、自分の役割をどのようにして果たしていきますか? 
子宮筋腫はそう問いかけているのではないかと、私には思えるのです。
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生殖器と「私」の役割

2025-02-08 | 大阪日記
2月末に日本慢性疼痛学会があり、カイロプラクターの山口純子先生の発表のお手伝いをしています。
彼女は言います。「生殖器は『その人の役割』の象徴」だと。

この言葉、皆さん、どのように感じられますか?
私は婦人科医として、日々多くの患者さんと接する中で、山口先生の言葉に深く共感することがあります。子宮筋腫や子宮内膜症など婦人科の病気は、時に患者さんの人生・仕事やキャリア・パートナーシップに大きな影響を与えることがあります。それは、時に「あなたはこれからどう生きるのか」と問いかけているようにも思えます。今回は、婦人科の病気を通して、私たちがどのように自分自身の役割を見つめ直し、人生を豊かにしていくことができるのか、考えてみたいと思います。

子宮内膜症と向き合う
子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織が子宮以外の場所で増殖してしまう病気です。進行すると、月経痛や慢性骨盤痛・性交痛、不妊症などの原因となることがあります。子宮内膜症は再発しやすい病気であり、妊孕性(妊娠する力)にも影響を与える可能性があります。子宮内膜症の治療は薬物治療や手術がありますが、薬物治療はホルモン療法が主体であり、基本的には治療中は妊娠することは難しいです。また、子宮と卵巣を残す保存手術では、再発率は高く、重症子宮内膜症では自然妊娠が難しいことが少なくありません。

私は患者さんには、薬物治療によって子宮内膜症の進行を止めておくか、手術の後は積極的に妊活や不妊治療をしていくようにお勧めすることが多いです。また、時には根治的な手術の選択肢を提示することもあります。そのため、漠然と夫婦生活を送り、いずれ子どもができたら…という人生設計が難しくなることが多いです。

患者さんの中には、子宮内膜症と診断されたことで、将来に対する不安や焦りを感じ、自分自身の役割について深く考える方も少なくありません。
「子どもを産めないかもしれない…」
「パートナーとの関係はどうなるのだろうか…」
「仕事との両立はできるのだろうか…」

子宮内膜症は、患者さんの人生観や価値観を揺るがし、自分自身の役割について改めて考えさせるきっかけとなる病気です。さらに、子宮内膜症による月経困難症や慢性骨盤痛は、体が、その人自身に何らかのシグナルを(痛みとして)伝えようとしているようにも思えることがあります。

「あなたは母親になる人生を選びますか?それとも、仕事で社会に貢献していく人生を選びますか?どちらも選びたいのであれば、どのようなキャリアプランを描きますか?」

子宮内膜症とそれによる疼痛は、私たちが自分自身と向き合い、より良い生き方を選択するためのメッセージなのかもしれません。

婦人科医としての役割
子宮内膜症の患者さんに、病状を説明し、治療を提案するとき、私はただ単に「手術をして治す」で終わることはあまり多くありません。むしろ、「これからの人生をどのように生きるのか」という話になることが多いです。もちろん、直接的にそのような話題を振るのではなく、治療の選択肢をお話しているうちに、そのような話になるのです。患者さん自身の言葉で、将来への希望や不安、そして自分自身の役割について語っていただく。そして、その思いに寄り添いながら、最善の治療法を一緒に考えていく。それが、婦人科医としての私たちの役割だと考えています。

病気を通して得られるもの
子宮内膜症は、確かに辛い病気です。しかし、病気と向き合う中で、自分自身の人生や役割について深く考える機会が得られることもあります。そして、その経験を通して、新たな価値観や人生観を見出すことができるかもしれません。病気は、私たちにとって、決してマイナスなことばかりではありません。病気を通して得られる経験や学びは、私たちの人生をより豊かにしてくれるはずです。
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不安と向き合う

2025-02-01 | 大阪日記
先日、セカンドオピニオン外来に40代の女性がいらっしゃいました。

数年前に円錐切除術を受けられたそうですが、術後に大出血や子宮頸管狭窄といった合併症に悩まされ、最近では月経痛の悪化や経血量の増加もみられるとのこと。主治医の先生からは子宮摘出を提案されたそうですが、ご本人はお子さんはいらっしゃるものの、手術をすることに抵抗を感じていらっしゃるようでした。

これまでの治療経過を詳しく伺う中で、患者さんの複雑な感情が垣間見えます。通常であればお話しをお聞きした後に治療の選択肢を提示するのですが、今回はこれまでの経過をどのように感じておられるのか尋ねてみました。

しかし、ご自分の気持ちを言葉にしていただくのは容易ではありません。私のほうから尋ねてみました。

「術後の経過が思ったより芳しくなかったことに対して、トラウマを感じてる?」 
「『腹立たしい、くやしい』とも少し違いますよね?」 
「置いとけるものなら置いときたい、ご自身の体に対する漠然とした不安なのかな?」

さまざまな言葉で患者さんの気持ちを表現しようと試みましたが、なかなかうまくいきません。それでも、「再発したら怖い」ということだけは明確に言語化できました。その対話を通して、患者さんの気持ちを完全に理解することはできなくても、共感し寄り添うことできていたと思います。

そこで、私は治療の選択肢を提示しました。
  • 腹腔鏡下子宮全摘術
  • 薬物療法(レルミナ、リュープロレリン、ジエノゲスト、低用量ピルなどで経血量を減少させてしばらく経過観察する)
最終的な決断は患者さん自身に委ねましたが、彼女の表情がたいへん明るくなったのが分かりました。

患者さんの不安を完全に払拭できたとは思いませんが、今回は、その気持ちに寄り添い、共有できたのではないかと思います。この出会いから、私はまた一つ学ぶことができました。
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