子宮全摘術において、子宮頸部周囲は解剖学的に複雑な構造をしているため、尿管損傷や出血が起こりやすい部位です。近年、子宮頸部周囲の処理方法の発展に伴い、腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)が普及し、困難症例に挑戦する施設も増えています。しかし、この部位の処理は依然として重要な課題であり、細心の注意が必要です。私は以下の3つが重要だと考えています。
1. 子宮頸部右後方の処理
左側に立つ術者にとって、子宮頸部右後方へのアプローチは容易ではありません。そのため、右の広間膜後葉〜仙骨子宮靭帯の処理が不十分になりがちです。しかし、この部分をおろそかにすると、腟切開時の出血や尿管損傷のリスクが高まります。私は、たとえ時間がかかっても、この部分を含めて全ての手順を確実に行うようにしています。
2.ショートカットはしない
ビデオクリニックなどで見られるTLHの動画の中には、手術時間を短縮するために、いくつかの手順を省略しているものがあります。確かに、ショートカットすることで手術時間を短縮することはできますが、安全性を犠牲にする可能性も高まります。難易度の低い症例ならそれも問題ないかもしれませんが、少し難易度が上がっただけで太刀打ちできなくなってしまいます。ですから、比較的容易な症例こそ、手順を守るということが大事だと思います。
3.術野展開
TLHでもっとも重要視されるのは、術野展開だと思います。前述のとおり「基本に忠実な手術操作」だけではなく、術野展開が重要です。TLHの術野の展開は一人で行うものではなく、子宮マニピュレーターや助手の鉗子でも行うことになるので三人の共同作業であり、これをリードするのは術者です。術者は自分の手術操作をするだけではなく、同時に二人の助手を指示しなければなりません。
子宮頸部右後方の処理(巨大子宮頸部筋腫に対する腹腔鏡下子宮全摘術):この手技は常に定型化して行なっておかないと、いざという時に右後方の処理はできなくなります。
TLHの序盤の手術操作はすべて子宮頸部~腟周囲の処理のためにあると言っても過言ではありません。私は少し時間をかけても「ちゃんと」やりたいのです。イチロー選手も言ってたの知ってますか?「ちゃんとやってよ」って。