「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

16人の代表―《「THE STORY」-時代を創った女性たち-》

2010年09月23日 | Yuko Matsumoto, Ms.
☆《「THE STORY」-時代を創った女性たち-》(銀座三越)☆

  今年の夏の暑さは永久に続くのではないかと思ったりもしたが、その日は銀座四丁目の交差点を吹きわたる風にも、ほんの少しだけ秋が感じられてホッとした。銀座三越がリニューアルオープンしてから日がたっていないこともあって、開店早々の時間だというのに相当のにぎわいだった。しかし、8階の「THE STORY」の会場は入場客もまばらで、ゆっくりと見てまわることができた。
  会場へ入るとすぐ、勅使河原茜さんのいけばなが圧倒的な迫力で目に飛び込んできた。たぶんダメだろうとは思いつつ、そばにいた警備員の男性に「写真を撮ってもいいですか」と聞いてみたが、やはり「申し訳ありません」との答えだった。そのあと藤野真紀子さんのミキサーロボット(?)や小堀貴美子さんの茶道具など「食住」のコーナーを見た。茶道は何も知らないが、歳を重ねると、和の道具に妙に魅かれる。
  次の「衣装」のコーナーでは、草刈民代さんが愛用していたトゥーシューズに目がいった。ファンにとっては垂涎の一品だろうなぁなどと、ちょっとフェティッシュな気持ちになった。ひびのこづえさんのコスチュームを見たとき、そのデザインにどこか見覚えがあるような気がした。タイトルを見ると「カエルの卵」とあり、あっなるほどと思った。実際に見たことはなくとも、教科書かなにかで見たことのある人は少なくないだろう。
  最後は「学遊」のコーナー。神職の石井裕子さんは細川元首相の次女だとのこと。細川家の祭祀を司るため神職に就いたということで、若いながら芯のある生き方のように思えた。歌人の俵万智さんは何冊か歌集を買ったこともあり親しみがある。展示品は木馬で、いったい何だろうと思って見ると、お子さんが使われていたものだという。数年前に結婚されてお子さんもいるとはまったく知らず、少し驚いてしまった。
  偶然にもほぼ最後になって松本侑子さんのコーナーを見た。カナダ(プリンスエドワード島)、イギリス(湖水地方)、イタリアなどで撮影された色彩豊かな写真が何枚も飾ってある。知らない人が見ると、松本さんを写真家と思うかもしれない。もっとも、以前にも書いたことだが、プロの写真家と比べてまったく遜色ない腕前だと思う。写真を見ていると、もう一度くらいは、こころ豊かな海外旅行をしてみたいと思えてくる。
  松本侑子ファンにとって見逃せないのは、何といっても「赤毛のアン」の翻訳ノート。残念ながらメガネを持っていかなかったので、ノートに書かれている内容はよくわからなかった。それでも、細かな字で丁寧に書かれている印象だった。もちろん余白に書き込みなどもあって、翻訳の臨場感も伝わってきた。ただ、自筆のノートを見たき、ちょっと不思議な感じもした。たしかデビュー作『巨食症の明けない夜明け』の一部を除いて、作品はすべてワープロやパソコンで書かれていたと記憶している。もちろん翻訳の場合は、直接ワープロ入力とはいかないものなのかもしれない。
  『婦人画報』の歴代の表紙を眺めながら会場を出ようとして、ちょっと後ろを見たら、会場内の細い路地が目に入った。川邊りえこさんのコーナーで見忘れたらしく、川邊さんの書が壁一面に書かれていた。ビデオ画面でその様子も流れていた。筆の太さといい、書の力強さといい、和装の川邊さんからは想像のつかない、ものすごいパワーを感じた。
  会場の外では出展者に関係した書籍などが売られていた。少し見てまわったが、最後の川邊さんのパワーに心打たれたからか、川邊さんの『雅藝草子』を買った。エッセイと書がほぼモノクロで綴られている。パワーとは裏腹に、単色の装丁が、介護などでささくれ立ったこころを鎮めてくれそうに思えた。
  あまり大きな期待をせずに行ったのだが、予想を超えて見応えのあるイベントだった。昔から男たちは表で偉そうなことを言っているが、時代の潮流を起こすきっかけは女性なのかもしれない。『婦人画報』の過去のページが所々に掲示してある。有名な女性(余談だが、瀬戸内晴美(寂聴)さんの槍投げの写真もあった)だけでなく、名もない多くの女性たちが写し出されている。その一人ひとりが時代を創ってきたにちがいない。この16人の女性たちは、その代表としてここにいるのだろう。女性たちは皆、生活と切り離されてはいない。大上段に構えるようなところもない。男たちはいつも生活から離脱し、上からものを見ようとする。一男性として恥ずかしく、また羨ましく思った。会場で自分以外の男性客は一人だけだった。もっと男性にも見てもらい、何かを感じてほしいものである。



  

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