「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

逃げない「不確定性原理」の説明―『量子もつれとは何か』

2025年01月26日 | Science

☆『量子もつれとは何か』(古澤明・著、講談社ブルーバックス、2011年)☆

 

 本書を買ったきっかけは、昨年末NHKで放送された『量子もつれ アインシュタイン 最後の謎』を見たことである。実は「量子もつれ」という言葉はこの番組を見るまで知らなかった。しかし、この本でもすぐに出てくるが、「量子もつれ」とは「量子エンタングルメント(quantum entanglement)」のことであり、こちらの方はとりあえず聞き覚えがあった。

 番組の方は、本書の著者である古澤明さんも少しばかり出演されていたが、全般的にわかりやすく説明されていたように感じた。だからこそ量子もつれに関する本を一つ読んでみようかという気持ちになり、調べてみたら古澤明さんの書かれたブルーバックスがマーケットプレイスでとても安く購入できることがわかり、早速購入した次第である。

 さて、量子もつれ(量子エンタングルメント)は量子力学から導き出される現象であって、量子力学の根幹を支えているのは言うまでもなく不確定性原理である。これまでも量子力学や不確定性原理に関する本は(本格的な専門書はともかくとして)一、二冊どころか何冊も読んでいるはずだが、しっくりとくる説明に出合った記憶がないように思う。

 どれもこれも読者を置いてきぼりにしてしまうのだ。いや、置いてきぼりにすること自体はある意味で仕方がないことだと思うのだが、そのことに対して自覚的でないことが問題なのだ。ある本(著者)は何だか幼稚な言い換えやイメージに逃げ込み、ある本では難解な数式に逃げ込み読者を煙に巻いてしまう。もちろん著者の苦労は察するに余りあるし、置いてきぼりの程度は本によって異なるのだが、どうしても腑に落ちない気持ちになってしまうのだ。

 量子力学は難解である。著者の古澤明さんは「序章」で「「量子力学がわかったと思う人がいたら、その人は量子力学がわかっていないのだ」と言った有名な物理学者もいたぐらいだから、わからなくても一向に悲観する必要はない。というか、そもそもわかっている人はいないのである」と書いている。

 また「第5章」の最後で「何度も言うが、重ね合わせの状態は、量子(系)の波としての性質の発現であり、波を使ってしか説明することができない。したがって、元々粒子性の強い量子、例えば電子のようなもので重ね合わせの状態を初学者に(プロに対しても)説明するのは非常に難しい。何故なら、「量子は粒子でも波でもある」なんてどんなに言っても、日常経験から受け入れられるはずもないからである」とも書いている。

 これらの指摘は重要である。わたしは本書をひとまず流し読みで一読した。その結果、序章から第5章までをできるだけ丁寧に読み、わかったような気になれば十分ではないかと思った。「わかった」や「理解できた」と言うのはあまりにおこがましい。この部分の説明や数々の図は、先のNHKの番組と同様、読者(視聴者)の脳裏にそれなりの明瞭さでイメージを結ぶ手助けをしてくれるにちがいない。

 「第6章」から「第11章」までは、古澤明さんが実際に行っている(行っていた)研究や実験について述べられているので、そんなものか程度に読み流せば十分なのではないだろうか。あえて一言だけ付け加えれば、「量子テレポーテーション」はあくまで技術の領域の話題であって、本書の説明を逸脱してSF的に捉えるのはいかがなものかと思う。

 NHKの番組の説明でも「全く新しい暗号通信や超速コンピューターが実現し、人類を新たなステージに導くと期待が高まっている」は良いとして「テレポーテーションなどSFの世界が実在することを示唆するこの現象」との表現は少し行きすぎではないだろうか。

 個人的には、もう少し数式的な詳細に及ぶ量子力学の入門書に挑戦してみたいという思いがある。とはいえ、体力的にも能力的にもキャパシティに余裕があるとは思えない現状なので、果たしてどうなることやら…である。

 

 

 


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