池井戸潤の半沢直樹を2冊読んだ後に、奥田英朗「最悪」を選んだのは北上次郎がいささか古いが書評で傑作だと書いていたからだ。
これは1999年の作品。空中ブランコで2004年に直木賞をとる5年前で、わたしも2000年頃に読んだのだが、あまり印象に残っていない。奥田はこの後に幾つも優れた作品を書いているが、それゆえわたしは読んでいない。
ところが小説マイブームにある現在のわたしは、これを読みはじめたら止められなかった。
池上冬樹は文庫本の解説で、これが画期的な群像劇だということ、小説が映画やドラマに比べて優位性を発揮する心理描写を徹底的に駆使していることを激賞している。
もっともこの解説も2002年でいささか古いもので、小説は映画にも漫画にも負けないものより優れたもの、と池上のように断言することはできないが。
でも“半沢直樹”や“ハケンアニメ”を読んだとき、登場人物たちの心理展開のディテールによって、小説はドラマや映画よりもはるかにリアリティがあると思った。
そして20年前のわたしは、この「最悪」を今回ほど夢中で読まなかった、心理描写にすごいリアリティを感じなかったのだと認識をした。
今のわたしは、小説を以前よりずっと楽しめるようになった、深く味わえるようになったのだと思う。