Entrance for Studies in Finance

国債投資の意義 債券取引-債券レポ・現先取引

国債投資の意義(2010年の記述)

 国債は比較的長期の資金運用の場所としても、一時的な資金の運用場所としても使われている。国債の高い信用力、高い流動性が、国債投資・取引をさらに促す関係にある。こうした保有は、そのリスク管理のための市場の発展も促す。 国債が大量に発行され、金融機関などの運用手段、余剰資金の滞留場所となっている。そこからリスク管理や、裁定、投機など様々な取引のニーズが広がっている。金融機関からみると、国債投資の目的は資金運用と資金調整とが混在 国債投資は収益の手段としてだけでなく、資金繰りにも用いることができバランスシートの調整にも役に立ち、トレーディングツールにもなるなど都合がいいとされた(以下 2010年の状況である)。

 国債取引に話を戻して国債の発行市場をまず検討する。発行は、金融機関に対して入札という形で行われる。これに応じる金融機関には自己保有という理由と、応募したものを転売する理由とがある。要するに資金運用先としての国債ニーズが問題である。一般に期間が長い国債については、最終投資家の保有のニーズ自体が議論され、期間が短い国債については、一時取得する証券会社などからみた余剰資金運用のニーズが議論される違いがある。つまり入札時の動機に違いがある。以下の記述は2008年に最初に投稿。異次元緩和前の2010年に当時の状況を書き加えたもので今回リンクなどを確認して再投稿した

国債の入札(2010年当時)
超長期物:生命保険会社、年金基金など(長期保有による金利確保に狙い 高値になると利回り下がるため需要減少)
 新発10年物:長期金利の指標 米国の金利と比較(金利差があるとドル高・円安 金利差小さくなると円高い・ドル安) 国際的な金融不安⇒流動性の高い米国債に資金集まる⇒米国金利下がり日米金利差縮小 金利差が小さくなると日本国内にマネー滞留しやすい
 新発5年物:銀行(預金期間に合わせて中期債運用を重視 その主たる運用先)、証券(銀行などに売るため応札)。TIBOR(東京銀行間取引金利3ケ月物)との比較でTIBORを下回ると高値警戒。銀行の余剰資金:買い圧力。
 新発2年物:証券会社など(余剰資金抱える金融機関のニーズ)見込み応札
 国庫短期証券:証券会社など(余剰資金抱える金融機関のニーズ)見込み応札

 (2010年当時)銀行の預貸率は75%程度と過去最低。一時的に大量の資金を運用する先としては国債は便利だが金利変動リスクがある。銀行は預貸ギャップを埋めるため、国債投資を拡大していた(金融財政事情2010.10.18,p.10)。なお生保は、超長期の負債に対応するために。なかでも超長期の投資を増加させていた(金融財政事情2010.10.18, pp.10,23)。

入札の好調不調はテールの大小で判断する
 平均落札価格と最低落札価格の差(テール)が小さいと落札は好調だったとする。
                      拡大⇒需要縮小、弱い
                      縮小⇒需要拡大、強い、堅調

TIBORの動きが国債投資に影響する
 TIBOR(銀行間貸出金利=銀行の資金調達コスト)の動き:TIBORが企業貸出金利の目安 したがってTIBORさがると貸出収入減るため、銀行は国債への投資をふやす。つまり日銀は金融緩和で企業向け貸し出しを増やそうとするが、銀行は貸出収入が減ると国債投資に向かう。

日本銀行のオペとの関係(2010年当時) 
日本銀行は共通担保資金供給オペ(公開市場操作)を行っている。落札額が予定額下回ることは札割れと呼び、資金ニーズの低さを示す。新型オペ(2009年12月導入 供給枠10兆円)が導入されたが、これは国債などを担保に期間3ケ月の資金を固定金利で貸し付けるもの(相手は銀行が中心)。2010年3月供給枠20兆円に倍増。なお日銀がオペを活発にするとコール(市場での資金調達)は減る傾向を示した。つまり民間銀行間の資金調整の場所であるコール市場が弱くなる。それは市場機能を使った調整をわざわざ弱めていることであり問題だとされた。逆にこのオペに応じるためにも、国債を保有している必要が民間銀行にはでてくる。また日銀が常にオペに出てくることがわかれば、金融機関としては安心して国債保有を拡大できるとされていた。

オペ明細(東京短資)
国債のイールドカーブ 年限ごとの金利の決定方法
証券業協会 公社債売買参考値(日次)
10年国債利回り(終値 直近1ケ月) 日本相互証券
10年国債流通利回り(6ケ月) traders web
主要国国債利回りの比較 日本 米国 オーストラリアなど、72日 1年 2年 3年(三井住友銀行)

 国債市場で成立する金利は、長期金利の基準基準になっている。その変化は、企業の長期資金調達コストに影響して企業行動に影響するだけでなく、住宅投資など個人の消費行動にも影響を与える。
 国債発行では、景気悪化に伴う税収減少のもとでの景気対策のための支出拡大が考えられる。景気が悪化すると貸出需要が減るので、金融機関の国債運用ニーズが高まる。また企業の信用力の低下、企業の資金調達ニーズの低下は、企業の借入や債券発行のニーズを抑制する。金融機関は貸出需要の減少を受けて資金の滞留先を必要とする。それゆえ国債発行がこうして一時的に増加して、また景気回復とともに縮小するなら、国債発行は、景気の振幅を和らげる効果が期待できる。実際には、国債発行は景気回復期に十分抑制されず、発行残高が累積しがちである。

国債の保有リスク 
 すべての投資にリスクはつきものである。債券投資のもっとも基本のリスクは償還リスク(債務不履行リスク 信用リスク)だと考えられる。これは債券発行者に原因があるリスクである。しかし国債については、信用リスクはもっとも低いという大前提がある。もうひとつ別のタイプのリスクは、経済環境が変化することのリスクで、金利変動リスクがその代表。
金利変動は、債券の価格を大きく逆の方向に変動させる。その大きさの測定にはいくつかの手法があるが、最近はdurationが議論されることが多い。そのほかbpv, VaRなどがある。
 日本の国債では金利が低すぎるというとき、海外の国債を購入する方法があるが、その多くは外貨建てであり、外貨建ての国債については為替変動リスクという別のリスクがある。

債券の金利変動リスクの大きさを示すduration, VaR, bpv
 金利変動リスクが怖いというときにひとつの方法は償還期間までの期間が短いものを保有するということ。逆にいえば期間が長いものを保有している状態はそれだけ高いリスク状態にある。ただ金利収入の大小もこのリスクに関係する。そこで金利収入も考慮して、金利変動リスクを表す方法が編み出された。その数値がdurationである。保有している国債のリスク管理ではこのdurationの値を問題にすることがある。 
   duration 残存年数が短いと小さい 年数表示
       5年 1%の金利変動で5%動く
      10年 10%の金利変動で10%動く
durationの解説(PIMCO)
immunization

起こりうる損失額の大きさを算定する方法にはVaR(value at risk)やbpv(basis point value)もある。いずれも損失額の大きさを示すものだが、わかりやすさからはbpvが、また確率の大きさでリスクを表現しているという点ではVaRを用いることが広がっている。
 VaRの解説(Wikipedea)
 bpvについて
 ここで一つの問題は各金融機関が同じようなリスク測定方法と行動基準にしたがっていると、連鎖的に国債売却+国債購入見合わせ⇒国債急落⇒金利急上昇⇒各金融機関のリスク許容度低下⇒国債売却+国債購入見合わせ の連鎖を招くことだ(例 2003年6月のVaRショック)。

アウトライヤー基準outlier criteriaへの関心が始まっていた(2010年)
 このように銀行による国債保有が高まることで、銀行が保有する金利変動リスクも高まっていた。そこで管理指標としてアウトライヤー基準outlier criteriaへの関心が高まっていた。これは金利変動が金融機関の財務に与えるダメージの大きさを示す。20%が基準でこれを超えると金融庁が指導するとされる。エコノミスト誌によると、ストレスシナリオのもとで利回りが2%上下したときに、銀行が受ける損失がtier 1およびtier 2の20%を超えてはならないというもので、これが日本の銀行の国債保有を最終的に制約するだろうというのである("That bloated feeling"in The Economist, July 17, 2010, p.69)。
 アウトライヤー基準について 銀行の金利リスク規制(みずほリーサーチ 2017/01) 2001の段階(tier 1+tier 2の20%)→2016の最終文書 tier 1の15% 各国監督当局が追加的基準設定可能
 
国債の流通市場
 国債の流通市場についてみよう。
 国債取引は、特定銘柄に売買が集中している特徴がある。それは資金調整的な金融的な売買と投機的な売買の問題などと関係がある。しかし他方では、長期保有(長期投資)による期間収益の確保とそのリスク管理といった問題もある。一般に売買の目的としては、裁定(アービトラージュ)、投機(スペキュレーション)、ヘッジ[リスク管理]が指摘されるが、資金の調整(流動性の確保手段)、資金の運用(期間収益の確保)、といった側面にも注意する必要がある。
 ところで、裁定という言葉についての注意。裁定は同一商品についての、同一時点での市場間の価格差を利用して確実に利益を得ようとする取引だとして、投機という言葉と区別される。そこで裁定を、将来時点との間で使うと、裁定と投機の違いは曖昧になってしまうので注意が必要だ。たとえば可児さんは社債から国債に資金が移る質への逃避(信用リスクの低いものに資金が移ること)、その過程で国債の価格があがり、社債の価格は下がるのだが、それを予想して国債買い上がってから売る、社債を売り下がってから買い戻す、行為をクレジットスプレッド取引と呼ばれる裁定取引だとしている。可児滋『金融リスクのすべてがわかる本』日本評論社, 2006年, pp.33-35.しかし予想の問題を裁定取引にいれると、投機との言葉の使い分けが崩れてしまう。確かに確実に将来が予想されるときは、取引する人間は裁定取引としてその行為をしていると理解はできるのだが。

取引bond tradingは店頭取引が中心
債券の流通取引の中心は、取引所ではなく店頭取引だとされる。債券市場では、債券の種類が大変多様である(同じ種類の債券でも満期までの期間が違えば異なる商品となる)ため、その取引は相対取引(OTC market)が中心と成らざるを得ないとされる。しかし店頭取引となるより本質的な理由は、債券取引の担い手のほとんどが金融機関を中心とする機関投資家だからではないか。個人の比率は極めて小さい。
 債券取引の中心にある国債取引が、これら機関投資家の資金の一時的な滞留場所、運用の場所となっていること、なにより取引単位が巨額化していること。つまり業者間売買中心という意味で、店頭取引になじむのではないか。取引所取引では、個人の小さな単位の取引をどう扱うかが問題になるが、それをそもそも排除している場所として店頭取引になじむのではないか。
 なお債券取引の取引対象の中心は国債である。取引の種類には、通常の売買取引(現物取引)のほかに債券レポ取引、債券貸借取引があり さらに様々な派生商品取引(先物取引 オプション取引など)がある。

債券レポ取引bond repurchase agreements or transactions
債券貸借取引bond lending and borrowing transactions
現先取引gensaki agreements

 債券取引のうち債券レポ取引、日本でいう現先取引はよく指摘される。これは資金取引(短期資金の調達運用)とされる。別名、現金担保債券貸借取引ともいう。言葉としては債券貸借取引(bond borrowing and lending transactions)のうち、とくに現金を担保に入れるものを債券レポ取引という。資金調達側は資金を必要とする証券会社とされる。
 債券レポ取引には、どの債券を借りるかは問題でなくて現金(資金)を入手することに目的があるケース(cash driven transactions)のほかに、特定の債券を借りるための取引、たとえば空売りする特定の債券を入手するためのケース(securities driven transactions)があるとされる。後者では債券の貸借料が、前者では資金の金利が問題にされる。金融機関の間では資金取引として活発に利用されている。

 債券を用いた資金取引としては、もともと債券担保現金取引がある。これは言葉通り債券を担保に現金を調達するつまり資金を調達する方法で別名現先取引(gensaki agreements)ともいう。証券会社はたとえば国債代金の手当てにこの市場を活用してきた。
 日本では以上のように何が担保であるかを重視するが、英米の市場では、売買取引として理解されており、買戻し条件付きの売り付け(repo=repuchase agreements)とされる。ポイントは売りと買いが一組の取引として実行されることである。また包括契約master agreementが存在する点にあるようだ。そこで海外ではレポ取引という名称になった。

なおsell buybacksという取引は売り買いを同一時点で同じ相手に行うが、売り買いは独立した取引で、master agreementは存在しないものをいう。

 日本社会の理解では、売り付けをする側は債券を担保に資金を借りている。反対の売り戻し条件付きの買い付け(reverse repo)をする側は、債券を担保にとって資金を貸している。利息は、債券売買の価格差として現れる。このような取引によって債券を保有している側は資金を調達して、売買価格差という形で利息を支払うことになる。資金を貸す金融機関間においても、国債のように信用度の高いものを実質的に担保に取るとはリスクの軽減になる。
 現先取引は、資金調達の形態であるので、価格差にはそのときの金利水準が反映すると考えられる。すでに述べたように日本の現先市場と海外のレポ取引(repurchase agreements)とは実質的には同じものだと考えられる。Japanese repo marketがJapanese gensaki marketである。*
*現先市場がレポ取引と実質同じなら(1989年5月に)債券貸借市場を作る必要がなかったはずだといわれればそのとおりである。しかしまず債券貸借市場をつくったのは有価証券取引税を回避する目的のため。つまり有価証券取引税の有無の違いがあった。また現先市場には、債券ディーラーに買い現先を禁止する規制もあった(1995年12月に規則不存在の確認)。また債券貸借で現金担保を入れるときの付利に上限規制があった。この規制が1996年1月に撤廃され、1996年3月に債券貸借取引に関する基本契約書(参考例)がまとめられて、債券レポ市場は確立する。つまり実質は近いのだが、売買か貸借かという法形式の問題、背景にある法的な裏付けの問題に違いは残るといえる。相沢幸悦「わが国の債券レポ取引」西尾夏雄ほか編著『世界経済危機と日本経済』時潮社, 2010年, pp.217-233.
レポ取引によって証券会社に可能になったのは短期資金取引である。短期借り長期貸しのポジションは、もともと預金を資金源とする銀行の基本的な問題として知られる。レポ取引により、短期資金が証券会社やヘッジファンドなどに利用可能になり、これらの金融組織が、銀行と同様のリスクを抱えるに至ったとの考え方がある。そのリスクを拡大したメカニズムとされるのは、担保として預かっている債券や株券を再担保に出せるという再担保契約rehypothecationである。BearSternsの倒産によりBearSternsへの信頼によって成り立っていたレポ市場を始めとする市場の崩壊の描写が以下にある。Scott, McCleskey, When Free Markets Fail, Wiley, 2010, pp.13-14.

証券会社への影響effects of the development of bond trading on securities companies
 なお、証券会社が投資銀行的な業務を拡大すること(プライマリーからセカンダリーへ)は、このような国債取引を通じた資金供給によっても促進されたと考えられている。
 1980年代 自己資金で短期売買で収益の大半を稼ぐ
 1990年代 セカンダリ-での顧客のヘッジファンド化→セカンダリーでの収益性低下→ヘッジファンドに与信を与える
 2000年代 →自らヘッジファンド同様のビジネスを展開
(今井光「米投資銀行モデルの蹉跌」『金融財政事情』08/10/13, 15)

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.

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originally appeared in Mar.29, 2008
corrected and reposted in November 15, 2017 2010年当時の記述を基本的に直していないが、一部記述を削除した。


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