Entrance for Studies in Finance

新株発行を伴う資金調達

福光 寛


会社法改正 改正2005 施行2006 合同会社新設 株式会社最低資本金規制の廃止など
国税庁 会社標本調査
日本統計年鑑⇒企業活動⇒経営組織別事業所数・同推移
日本統計年鑑⇒通貨・資金循環⇒資金循環
法人企業統計調査(財務総合政策研究所)
上場会社資金調達額の推移(東京証券取引所)
全国設備投資計画調査(日本政策投資銀行)
全国銀行預金貸出金速報(全国銀行協会)
中小企業実態基本調査(中小企業庁)
1.エクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)
 以下のようなものをあわせてエクイティファイナンスと呼んでいる。

 増資
 新株予約権
 新株予約権付き社債

2.目的と関連用語 
長期資金調達  設備投資など
            M&A資金
財務比率の改善 自己資本比率の改善
            借り入れ資金の返済
  株価の上昇局面 資本での調達コスト低下
          買収通貨の役割を期待
なお原則として株価低迷時はするべきではない。株価の下げを加速することになるから。
ここで注意したいのは株式を発行するにしても誰に対してどのように発行するかである。広く購入者を探すことを公募public offeringという。特定の相手に行うのは私募private placementである。私募のうち株式の保有者に保有株に応じて新株引受権を割り振る仕方を株主割当という。これに対して、縁故先企業や従業員などに安定株主になってもらう期待で引受権を割り振るのは第3者割当である。
 株式を始めて公募で売り出すことを新規株式公開initial public offering, IPOという。このとき売り出す価格の設定には多くの困難がある。
 逆にすでに市場に存在する株式はseasoned stockと呼ばれ、その発行はseasoned stock isuue, seasoned issue, sesoned equity offringなどと呼ばれる。
 発行会社が直接投資家を探すなら直接発行。業者が仲介するなら間接発行である。

3.問題
株式発行の基本的な問題に株式価値の希薄化dilutionがある。発行株数が増えることで1株が表す権利内容は希薄化する。そのことは株式価値に反映するから、単純に言えば株価を押し下げる。事業拡張のため資本を増やすことが課題であるなら、負債を増やす選択がある。
 資本コストの上昇(期待利回りが高いため加重平均資本コストが上昇する)が伴うので資本を増やしROEの改善するためには負債増加がむしろ合理的だとされる。
 とくに公募増資では浮動株がふえ企業買収のリスク高まる。つまりエクイティファイナンスの方法(株主割当・公募・第三者割り当てなど)も問題になる。

財務比率の改善(自己資本比率の低下の改善)なら内部留保という選択もある。自己資本比率が低下すると債務償還能力への疑いがでてくる。その状態と改善したいなら、内部留保で資本を増やす選択がある。
 上場したあと、自己資本の強化は内部留保で行い、エクイティファイナンスは避けるというのはしたがって一つの戦略である。英米の企業は、上場後のエクイティファイナンスは避けるという言い方がある

 しかし近年は内部留保は、企業内にお金をとどめることだから、株主が期待する収益率(自己資本コスト)を上回る投資に経営者が使えることが内部留保の前提だとする議論がある。
 けれどももうした観点を強調しすぎると、長期的観点からの研究開発投資。あるいは人的な教育投資など短期的には収益に直結しない投資が、結果として制約されるという問題がよく指摘される。いわゆる株主資本主義は、長期的にみた企業の競争力強化とは矛盾すると言う指摘である。

 そもそも利益を社内にとどめることが内部留保だが、利益の処分形態としてはほかに、役員賞与、配当、自己株式の取得がある。上場企業は、利益の処分について社会的な監視のなかにあることで、これらの選択を緊張感をもって行っているという言い方がある。
 最後の自己株式の取得(自社株買い)は配当とともに株主へ利益の還元方法である。自己株式の取得は流通株数を減らすことだから株価の下支え効果があると考えられるがエクイティファイナンスとはまさに逆の操作である。
 
なお自社株買いと並行してエクイティファイナンスをすると株数を減らす片方で増やすことになるので資本政策が一貫しないとの批判を浴びることがある。

 最近は後述するように価格修正条項付きの転換社債や新株予約権の有利発行が問題にされる。エクイティは会社の支配権をも意味しているが、これを不当に安値で入手しようとするもの、不当な安値で売却しようとするものが現れて社会問題になっている。詳しくは後述。


4.株式の種類
 以下のように分類される
 普通株common stock
 種類株  2006年5月施行の会社法で発行条件緩和され発行が増えている。

 優先株preferred stock
 後配株deferred stock
 
以上のように普通株以外の、議決権制限株など、権利内容においてさまざまな条件・制約をつけたものを種類株と呼んでいる。黄金株golden stockというのは、重要事項について拒否権を持っている株のことで、企業買収において、企業防衛のために発行されることがある。

5.株式は発行されるのか分割されるのか
株式の発行は株式を分割するstock splitというようにも理解できる。1株が2株になる変化は1株が新たに発行されたといえるが、1株が2株に分割されたともいえる。発行と分割の経済的本質は同じだともいえる。そこで現在は、この両者をとくに区別せず同じことの異なる表現として理解している。
 
6.発行の方式と発行価格
 既存株主の支配比率を損なわないのは株主割当方式。株主に現在の出資比率に応じて新株を割り当てる方式。したがって新株の発行方式は株主割当が原則だという考え方も成立する。
公募増資や第三者割り当ての意義は、資本の確保という点で株主の力では限界があることが背景。これらは既存株主の権利状態を変化させるものだから、すくなくとも株主の権利である株式をその市場価値よりも安値で譲り渡すべきではない。このような考え方から、公募や第三者割り当てでは、時価(市場価格)で株式を発行するべきだという考え方が強い。
 経営者の立場からは株主を選択できる第三者割り当てが一番「安全」。誰が株主になるかわからず、その株主が株を持ち続ける保証がない公募はもっともハイリスクである。公募発行は、経営者が経営に自信があり、かつその企業が社会的に信頼されていて始めて成立するともいえる。 

公募増資public offering
株主割当増資right issue
第三者割り当て増資(縁故募集) 
 第三者割り当ては、債券発行の私募発行と類似している。既存株主の支配比率を損なうものであり好ましくないと考えられるが、日本では資金調達を目的とするものは許容されてきた(実際には現経営陣の支配権維持を目的とするものが少なくない)。英米では第三者割り当て増資は原則行わないともいわれる。(参照 上村達男・金児昭『株式会社はどこへ行くのか』2007, 17-19.)

7.新株予約権
 新株予約権は新株を購入できる権利のことである。ワラントとも呼んでいる。社債発行においてこの権利が、社債本券と分離可能なものをワラントと呼んでいる。これに対して、この権利を社債本券で払い込む、つまり社債の表面に記載されている金額を支払って買い取った形にするものを転換社債と呼んでいる。
 有償で発行する場合と無償で発行される場合とがある。発行の方式は株主あるいは第三者への割当方式が多い。
 新株予約権は、2001年の法改正で2002年から社債の発行とは全く別個に単独発行が可能になった。 ところで新株予約権における株式購入の価格を行使価格という。転換社債の場合は転換価格という。この行使価格(転換価格)が、市場価格に比べて異様に低いものや、下方修正可能なものが、近年みられるようになった。
 市場価格より低いものは「有利発行」といい株主総会の特別決議は必要だが、逆に言えば特別決議があれば発行できる。また価格の下方修正は、市場価格が下がる状況では、極めて安値での株式の譲渡(買い占める側からは大量入手)につながる。資金調達の結果、株価が下がり支配権を主要株主側が失うという事態も想定される(death spiral finance)。ところでこれも近年、新株予約権や転換社債を手に入れた投資ファンドなどが、株価を下落させたと噂される事例が増えている。
 つまりこのような下方修正条項付きの資金調達は、既存株主の立場を考慮すれば、本来、企業経営者はするべきではない。それが公然と行われているのは、大変遺憾である
 となると市場価格を意図的に暴落させることで、会社の乗っ取りもありえなくはない。このような資金調達方法を選択し段階で、既存株主の利益が損なわれる可能性が高いともいえる。
 他方、企業買収に対抗する方法として、投資ファンドが大量買い付けに動いた場合に既存株主に無償で新株予約権を大量に発行する方法がある。

8.社会問題化した転換価格修正条項付き転換社債moving strike convertible bonds: MSCBとその対策の展開
 上記したような投資家の策略により、株価下落が転換価格を下げて際限のない価格下落となる恐れが指摘される。近年の株価下落にこうした問題がかさなっている可能性は高い。
 このような修正条項により、株価が低迷したり下落しているとき、本来はエクイティファイナンスには不向きなときにも、エクイティファイナンスが可能になったがそれは既存株主の犠牲によるものといえよう。
 転換社債の発行には、引き受け審査などで2ヶ月が必要な公募増資に比べ1週間で機動的に発行可能という理由もある。株式がすぐにはでないので株価への影響も軽減可能ともされる。
 ところがこのような転換社債の発行を証券会社が引き受け、その後株価が下落しているとすればどうだろうか。一般に転換価格は時価を10%程したまわり引き受け証券会社はその段階ですでに儲けがあるから、株価がを下がるほどぼろもうけ。そしてこれは噂だが、証券会社が株価を下げて儲けているとしたらどうだろうか。
 こうしたファイナンスは、安値で新株を特定の投資家に分け与え既存の投資家から経営権を奪うことにつながることから
death spiral financing or death spiral financeと呼ばれ批判されている。引受証券会社が、株式の引受もしている場合は値下がりは損失につながるので自制が働くだろうが、もしこのようなファイナンスを証券会社が引き受けた場合、株価を下げるほど儲かるとすると、投資家でもある証券会社に自制は働くだろうか。
 このような転換社債発行は2003年12月にいすゞ自動車や東京都民銀行が野村證券を割当先に発行したのを契機に急増。2005年のライブドアによるニッポン放送買収事件(当時 フジテレビの2割超を保有)において、2月8日にライブドアが総額800億円のMSCB発行して資金を調達。リーマンブラザースが全額引き受けたことも注目された。
 しかし社会的批判から07年に入り発行急減。ようやく2007年2月に日証協は自主規制ルール(1ケ月で転換できる株式数を発行済み株式数の10%に制限)を決め、2007年7月から実施(当初は4月実施とされていたが)している。
 この自主規制については、ファンドは適用外。すでに発行されたMSCBも適用外。転換後の株式を半年以上保有する契約がある場合も適用外。など抜け穴が多すぎるとの批判がある。
 まずエクイティファイナンスで一般投資家をひきつける自信のある企業は、公募増資をすると考えられる。なんらかの理由で公募増資を避けたい投資家が第三者割り当て増資。債券発行でいえば私募をやる。転換社債発行も同じで割り当て方式になる時点でその理由が問題である。そして価格修正条項の問題がある。
 従来、転換社債の発行における転換価格の設定は時価より少し上。ところがその価格が修正可能になったことで問題は複雑になった。

9.市場関係者は身の潔白を証明して市場への信頼を回復するべきだ
 どうも引き受けた証券会社・ファンドが価格引下げに加担して、そこで儲けを出そうとしている疑いがある。そもそもエクイティが増えることで株価が弱含みになるうえに意図的に株価を下げる動きが重なったら、一般投資家の利益はそれこそないがしろにされたといえるだろう。市場関係者は、こうした一般投資家の懸念に対して自らの潔白を証明して市場に対する不信を払拭する必要があるだろう。
 ところで、なぜ価格修正条項が登場したのか。価格修正条項のない転換社債には、株価下落時に転換が進まず、償還が必要になり想定外の償還資金ファイナンスが必要になるという問題があったからである。その問題に対応したのが価格修正条項だった。
 しかしそれがどうも悪用されているのではないか。相場を下げてもうける人に悪用されているという疑いが広まっている。
 このような問題の表面化を背景に、株主の不安を和らげるため転換価格や行使価格に下限を設けるものも現れている。また転換価格を株価のかなり上に設定することも転換を遅らせるタイプもでている。
 さらに最近では、現金決済条項付き転換社債も開発された。これは株価が転換価格を上回った場合に額面分は現金償還し、差額を株式で決済するもの。ともかく株式の増加を抑えようというタイプである。

参考
株式とは何か
自社株買いについて
新興株の低迷について
common stock PPT slides

 Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
 originally appeared in Mar.17, 2008
correctd and reposted in May 17, 2010  

証券市場論

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