今季からMLBシアトル・マリナーズでプレーしている菊池雄星選手が、投球の際に禁止されている松やにを使用したという疑惑が、米国で話題になりました。
問題となったのは、菊池選手が5月8日に先発したニューヨーク・ヤンキース戦です。この試合は6回途中まで被安打0の好投を見せており、移籍後最長イニングとなった8回に、地元TVスポーツ局が、菊池選手の表情をアップで放映した際に、帽子のつばの裏が茶色く汚れている様子が映っていたというものです。
ヤンキースのブーン監督も8回、菊池選手の帽子に何らかの物質が付いていることに気付いていたそうです。ただ、抗議はしていません。
さて、松やにとは、そのままのものであってマツ科マツ属の木から分泌される天然樹脂のことです。特有の芳香があり、主成分はテレビン油、ロジンで、蒸留によって分離されます。
松やにから精製、加工される各種製品は、主にインキ用樹脂、合成ゴム用乳化剤、製紙用ロジンサイズ剤(にじみ止め)、接着・粘着剤、香料、食品添加物、医薬原料に使用されています。
また、手などの滑り止めに用いられ、野球のロジンバッグの材料にもなっています。ロジンバッグ(Rosin Bag)またはロージンバッグは、滑り止め剤の粉末を布製の袋に詰めたものです。ピッチャーがマウンド上でパタパタとやったり、バッターがネクストサークルでパタパタやっている、あの「白い粉」の入った袋です。ほかにも、重量挙げや体操の選手が手先の滑り止めを目的として使用しているのをTVなどで見たことがあると思います。
さて、今回の騒動の一方で、MLBの多くの選手や関係者がピッチャーの“滑り止め”の使用は暗黙の了解になっていると証言しており、騒ぐことではないとの意見が多いようです。
MLBでは1920年に違反となるまではボールに唾を付けたり汗で濡らすなどの“スピットボール”が行われていたりしました。その後は違反を掻い潜る手段として松やになどが使われる歴史がありました。2014年に当時ヤンキースに所属していたマイケル・ピネダ選手があからさまな松やに使用で退場となり、10試合の出場停止処分を受けたこともあります。ヤンキースのルーク・ボイト選手は、「多くの選手が何かしら使っているよ」とコメントしています。
NPB公式球よりも滑るとされるMLB公式球は、バッターもピッチャーが手を滑らせて頭部デッドボールなどを受ければ選手生命に関わるため、ある程度ボールをコントロールしてもらうためにピッチャーの滑り止めを黙認しているらしいです。
ただ、ルールでは禁じられているものの、日常的な出来事のように行われており、不正投球は今後も十分に取り締まられることはなさそうです。MLBにおける知られると困る事実であり、その証拠が5月8日の試合になるようです。また、今回の疑惑についてもヤンキースからの正式な抗議がないことからも言えます。
そして、米国内では「菊池の罪は使ったことではなく、隠せなかったこと」と同情する声もあるようです。
でも、それ、ルール違反ですから!!