かつて、「米国がくしゃみをすれば、日本が風邪をひく」、あるいは「米国が風邪をひけば、日本が肺炎になる」と言われていた時代があります。これは、対米輸出などをとおして、日本経済が米国経済に大きく依存していたために、このように表現されていました。
さて、2019年3月14日にMLBと選手会はいくつかのルール変更について合意に達しました。そのうちの1つに、いわゆる「ワンポイント・リリーフ禁止」があります。これは2020年シーズンから適用されることになります。
まず、「ワンポイント・リリーフ禁止」とは、具体的には継投について定めている野球規則5.10(g)について、「ピッチャーは最低3人の打者と対決するか、イニングの終わりまで投げなくてはならない。ただし、やむを得ない負傷や病気の場合は除く」というように変更されます。
なぜ、このようなルール変更を必要となったのかは、試合時間の短縮が目的です。
MLBでは、試合時間短縮の施策を実施しているはずですが、逆に試合時間は増加傾向にあり、リリーフピッチャーの登板イニング数もそれに比例するかのように増えてきています。
2009年 平均試合時間:2時間55分 / 1年間のリリーフピッチャー登板:15014.2イニング
2019年 平均試合時間:3時間10分 / 1年間のリリーフピッチャー登板:18265.2イニング
つまり、MLBはピッチャー交代時にマウンドに集まる時間や投球練習が試合を長引かせる一つの要因と考えたようですが、この規則改訂は今までの野球の風景を一変させるほどに大きな影響がありそうです。
もちろん、ワンポイント・リリーフ・ピッチャーへの影響は大きいです。MLBでは、オークランド・アスレチックスに所属していたライアン・バクター選手は、「馬鹿げている。自分の戦い方を見つけるためにマイナーに10年いたんだ。ルールが変わったから、もう用はないってか」とコメントしています。
MLB通算 257試合(先発試合0) 214.0イニング 15勝 4敗 2S 68H 防御率2.86
NPBはこれまでもコリジョン・ルール、リクエストや申告敬遠など、MLBが作った新しいルールをそのつど受け入れてきました。今回の「ワンポイント禁止」については、すぐに導入することはないと思いますが、 MLBで導入されたルールが国際標準となることもあり、数年後にはNPBでも導入される可能性はあるでしょう。
ワインポイントが禁止になることで、今までのような小刻みな継投が出来なくなりますので、先発ピッチャーは長いイニングを投げなくならなくてはなりそうです。また、ポストシーズンのような短期決戦では1点の重みが大きく、総力戦になる場合も多いため、ワンポイントでのピッチャー起用が多く、2017年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では日本代表7試合中3試合でワンポイント継投がありました。
NPBの歴史にもいろいろんなワンポイント・ピッチャーがいました。1960年後半に活躍した大洋ホエールズの平岡一郎さんは、王貞治さん(当時;読売ジャイアンツ)に「王キラー」としてワンポイント起用され、50打数13安打とヒットは打たれていますが、ホームラン0本と抑えました。
1980年前半に西武ライオンズで活躍した永射保さんは、レロン・リーさん(元;ロッテオリオンズ)、トニー・ソレイタさん(元;日本ハムファイターズ)などの外国人バッターから、顔を見るのもいやといわれるほどでした。
阪神タイガースで活躍した遠山奨志さんは、読売ジャイアンツの松井秀喜さんに対して、1999年には13打数無安打と完ぺきに抑えました。近年では、元;中日ドラゴンズの小林正人さん、福岡ソフトバンクホークス時代の森福允彦さん、北海道日本ハムファイターズの宮西尚生選手などがいます。
ワンポイント禁止したとしても、おそらく十数分くらい試合時間が短くなることでしょう。それよりも、職人的な個性派ピッチャーが見られなくなってしまう可能性の方が大きいと思います。
「米国がくしゃみをすれば、日本が風邪をひく」ではありませんが、これも、「MLBがルール変更すれば、NPBが後を追う」ことにはなるでしょう。