山口・下関国際高校は、創部52年で春夏通じて初の甲子園です。高校野球の指導者を目指していた坂原秀尚監督は、教員免許取得のために東亜大に通いながら、2005年に大学近くの下関国際高の監督に就任しました。就任前に部員の集団万引が発覚、山口大会の抽選会直前で出場停止処分になるなど荒れ放題だった野球部を立て直した坂原監督の野球論です。
インタビュー記事を、そのまま転載します。
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――野球部はかなり荒れていたと聞きますが。
「僕が来た当初はそうですね。突然、厳しい監督が来たとなって、(部員が)みんな辞めて最後は1人になりました。その後、3人戻ってきて4人になった。グラウンド整備や道具の扱いが、とにかくヒドかった。野球がうまい下手のレベルじゃない。そういうマナーを教えると、面倒くさがって辞めていくんです」
――今年は主将の子が逃げたとか。
「そうです。今年に限らず、毎年います。イベントみたいな感じ(笑)。一昨年も(県大会で)準優勝したんですが、キャプテンで四番でエースの子に責任を持たせるためにあえてそういうポジションにしたんですが、途中で逃げ出しました」
――どうやって立て直し、選手に自信をもたせたのですか?
「春先に県外のチームと試合をして、競ったり勝ったりして自信をつけてきました。広島、東京、大阪にも行きます。遠征費は、毎月3000円の部費を生徒から徴収してますので、それでまかなう。僕がマイクロバスを運転して広島まで往復すると、ガソリン代と高速代で2万円くらいかかる。泊まりの場合はご家庭で(宿泊費を)負担してもらいます。東京には北九州空港から行きます。年末に近くのマルハニチロさんの漁港で冷凍した魚を冷凍車から降ろすアルバイトをさせてもらって、そのお金で飛行機に乗るんです」
――朝5時から練習するそうですが、選手が自主的に?
「半強制です。自主的にやるまで待っていたら3年間終わっちゃう。練習が終わって学校を出るのは21時くらい。本当に遅いときは23時くらいまでやることもあります。毎日ではないけど、長期休みの時期とか。遠征に行っても、大広間で生徒はみんな同じ空間にいるけど、やっていることはバラバラ。練習でもそうです。今の子は連帯感が希薄なんですよね。少しでもそういうのを大事にしていかないと、うちのような弱いチームは他に勝てない。進学校さんはそういうやり方が嫌いだと思いますけど」
――確かに、自主性をうたう進学校は増えています。
「そういう学校には、絶対負けたくない。実は東筑(福岡の進学校で今大会に出場)さんとは(現監督の)青野さんの前任者のときに1回、合同練習をしたことがあるんですけど、うちの練習を見た監督から『やってて意味がない』と言われたんです。(下関国際のように)きついことはしていない。賢い子も『意味がない』と、すぐに言うでしょ? 今回の県大会で宇部(初戦)と下関西(二回戦)と、進学校に当たったので、普段練習してないだろうと思って、思いっきり長い野球をやっちゃろうと。ボールも長い時間こねて、牽制もバンバン投げて。七回になったら向こうもヘトヘトでした。僕ね、『文武両道』って言葉が大嫌いなんですよね。あり得ない」
――野球と勉学の両立は無理と?
「無理です。『一流』というのは『一つの流れ』。例えば野球ひとつに集中してやるということ。文武両道って響きはいいですけど、絶対逃げてますからね。東大を目指す子が2時間の勉強で受かるのか。10時間勉強しても足りないのに」
――文武両道は二流だと?
「そういうことです。勉強しているときは『いや、僕野球やってますから』となるし、野球やっていたら『勉強が……』となる。“練習2時間で甲子園”って。2時間って試合時間より短い。長くやればいいってことではないけど、うちは1日1000本バットを振っている。1001本目で何か掴むかもしれない。なのに、時間で区切ってしまったら……。野球って自力のスポーツで、サッカーやバスケみたいな時間のスポーツじゃない。100点取ろうが、3アウト取らないと終わらない。2時間練習して終わりじゃあ、掴めるわけがないんです。スポーツ庁が(部活動の休養日や時間の制度化を検討し)練習を何時間以内にしようと言っているでしょ? あんなんやられたら、うちみたいな学校は、もう甲子園に出られない」
――選手に任せることはしない?
「自主性というのは指導者の逃げ。『やらされている選手がかわいそう』とか言われますけど、意味が分からない。(対戦する)三本松(香川)さんって進学校ですか?」
――どうでしょうか……県立ですよね。
「三本松さんの選手、甲子園(球場)でカキ氷食ってましたよ。うちは許さんぞと(笑)。僕らは水です。炭酸もダメ。飲んでいいのは水、牛乳、果汁100%ジュース、スポーツドリンクだけ。買い食いもダメ。携帯は入部するときに解約。3日で慣れますよ。公衆電話か手紙でいいんです」
――昭和の野球ですね。
「他校の監督さんは『楽しい野球』と言うけど、嘘ばっかり。楽しいわけがない。僕は現役のとき、日々の練習で野球が楽しいと思ったことはなかった。『楽しく』という餌をまかないと(選手が)来ないような学校はちょっと違う」