よく、スポーツの世界では「文武両道」ということが言われます。私は文芸にも秀でていませんでしたので、逆に勉強の世界でも言われているかどうかは知りませんが。
【意味】学問と武術の両方の道で、すぐれた能力を持っていること。
ちなみに、説明不要だとは思いますが、
「文」; (ぶん)は学問のこと
「武」; (ぶ)は武芸
「両道」; (りょうどう)は、二つの道
という意味です。
紀元前91年ころに完成した黄帝から前漢の武帝までのことを記した歴史書「史記」には「文事ある者は必ず武備あり」という言葉が記されています。この意味はで「文武は一方に偏ってはならない」ということです。また、「平家物語(鎌倉時代に成立したと思われる、平家の栄華と没落を描いた軍記物語)」には、「あっぱれ、文武二道の達者かな」とあり、文武二道(文武一道とは異なる)という語があります。
実は、この「文武両道」という言葉はそのくらい、古くからある言葉です。
昔から言われている文武の文とは、和歌や書、または絵画といったものを意味していることが多く、必ずしも学問に限ったものではありません。鎌倉時代以降江戸時代まで武士たちは政(まつりごと)を執る者として、武芸と文事の両道が求められ、両道揃ってこその武士道を確立しました。例えば、戦国時代から安土桃山時代、江戸時代初期にかけて古田織部さんという武将がいます。古田さんは織田信長さんの美濃攻略により臣従し、使番として仕え、本能寺の変後は豊臣秀吉さんに仕えて緒戦で活躍し、秀吉さんが関白に就いたとともに従五位下織部正に任ぜられ、関ヶ原の戦いでは徳川家康さんの東軍側に加わっていました。この古田さんは茶の湯の名人でもあり、千利休さんを師事し、「利休七哲」の一人に数えられるほどです。また、茶器製作、建築、造園などにも携わり、故意に形をひしゃげさせたり、一度完成したのをわざと壊して継ぎ合わせたりした茶碗、パズルピースのような形の皿などのような、不均衡さに美を見いだす作品が「織部好み」として伝えられており、現代では高い評価を得ています。
江戸時代になると、文事が奨励された影響から学者の社会的地位が見直され、学者に対する需要が生み出され、今まで戦いのための武術は武道へと変わって行きます、江戸時代初期の陽明学者である中江藤樹さんは、「文と武は元来一徳であって、分かつことができない。したがって、武なき文、文なき武は共に真実の文ではなく、武でもない」と述べました。また「養生訓」で有名な儒学者、貝原益軒さんは、「武芸の直接の目的は、戦場の使、日常の使にあるが、究極の目的は、武徳の涵養にある。すなわち武芸により、心身を統治することである」と述べています。
その後、武家社会が終わり、明治維新以降の近世では「文武両道」は一体なものから「文」と「武」の2つを異なるものとして学業とスポーツの両方に秀でた人を「評する言葉」へと変わっていきました。
さて、こんな難しい話しで尾張にはしません。今年も「文武両道」のチームが甲子園にやってきました。その中のトップ10の学校です。
偏差値 72 鹿児島 樟南高校 (私立) 文理
偏差値 71 福岡 九州国際大学付属高校 (私立) 難関
偏差値 70 栃木 作新学院高校 (私立) トップ英進部/SI
偏差値 69 西東京 八王子高校 (私立) 文理特進
偏差値 67 石川 星稜高校 (私立) A
偏差値 65 茨城 常総学院高校 (私立) 特選α
偏差値 65 奈良 智辯学園高校 (私立) 六年制編入
偏差値 65 広島 広島新庄高校 (私立) Ⅱ類
偏差値 64 群馬 前橋育英高校 (私立) Ⅰ類特進選抜
偏差値 64 長野 佐久長聖高校 (私立) Ⅰ類
偏差値 64 島根 出雲高校 (県立) 理数
ところで、沖縄県で春夏通じて初めて甲子園で優勝した1999年の選抜大会での沖縄尚学高校。沖縄がまだ米国の統治下だった1958年夏に首里高校が初めて出場してから41年かけての悲願達成でした。
優勝の瞬間には沖縄尚学高アルプス席から始まったウエーブが対戦相手の茨城・水戸商業高アルプス席に達し、さらには球場のスタンドを1周するという、あまり甲子園ではお目にかかれない状況でした。
この優勝には沖縄県民だけでなく全国のファンが沖縄県勢の初優勝を祝福し、当時の小渕恵三首相からは「一球入魂」と記された色紙が選手に贈られたそうです。
こんなお祝いムードの裏では、沖縄尚学高は大会中に日本高野連から「お叱り」を受けていたとのことです。
それは「文武両道」の4文字をユニホームの右袖に縫い付けて戦っていたこと対して、日本高野連は「好ましくない」などと指導していたとのことです。
沖縄尚学高は沖縄県内ではトップクラスの進学校であり、学校のホームページには「グローバル社会を見据えた 文武両道のたくましい進学校」と書かれています。
なお、ユニホームにはこういう文字を縫い付けてはならない、という規定はありませんが、高野連とすればキャッチフレーズのようなものを付けると学校の広告になるからだというものでした。
準々決勝後に高野連から指導を受けた沖縄尚学高はユニホームから4文字を外すことにしましたが、選抜大会中は間に合わず、春季九州大会から外しました。
「文武両道」の精神こそは高校野球の理想だと思うのですけど。